軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話 破滅への序曲(実家視点)

グランドリア家の応接室。

「お世話になっております。クワトロ殿。本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」

当主のハロルドは、ワイズマン商会の重鎮、クワトロ・ヴィットリーを前にしていた。

クワトロは、長い白髪を後ろでまとめ、モノクルをかけている。すでに老齢だが、背筋がピンと伸び、矍鑠としていて年齢を感じさせない。

優雅な仕草で、飲んでいたお茶を置き、クワトロがハロルドを睨みつける。

「勿論、グランドリア家が商会に卸したポーションの件だ。説明してもらおうか」

「なんのことでしょうか。我が家のポーションは完璧のはずですが……」

クワトロは、箱詰めされたポーションを付き人に出させ、凄まじい剣幕でハロルドを怒鳴りつけた。

「ふざけているのかね? なんだ、この害悪しかないポーションは!! 我が商会の薬師に確認させたら、どれもこれもただの一般薬。その上、碌に調合もされてない粗悪品。よくもこのようなものを納品できたものだな!!」

「なんと……」

ハロルドにとっては本当に寝耳に水。

ノーマンは優秀だと聞き及んでいたし、実際学校での成績は優秀だった。

彼なら無能であるアイリスができていたことを当然できるはず。だから、きちんと毎日ノルマをこなし、しっかりした品質のポーションが納品されているとばかり。

完全に確認を怠っていた。

その上、薬の調合は全てアイリスに任せっきりで、詳細まで把握していない。

最初の頃は品質や味についてひたすらに罵倒し、ノルマを達成できなければ暴力に訴えることすらあった。

アイリスが必死に努力してノルマを完璧に達成するようになってからは、何をするでもなく、ただただ搾取し続ける日々。

その頃にはアイリスが、すでに異常な技術と知識を獲得していたことなど全く気付かず、今の状況を引き寄せてしまっていた。

「いいかね。これまでに納品された四千本のポーションの中で、粗悪品だったのは三千五百六十本。全て以前の質の良いポーションで一週間以内に納品してくれたまえ。できなければ、分かっているな?」

ワイズマン商会に睨まれれば、国内外問わず、成功の道は断たれると言ってもいい。

商売で大きくなったグランドリア家には致命的と言える。

「はい、勿論です。お任せください」

ハロルドには引き受ける以外の選択肢はなかった。

「いいだろう。それでは、納品を待っているぞ」

クワトロは言いたいことはいったとばかりに席を立つ。

ハロルドはエントランスまで彼を見送り、その背中を暗澹たる思いで見つめていた。

そして、完全に敷地から出たところで鬱屈した感情が爆発した。

「おいっ、バードン、これはいったいどういうことだ!!」

バードンを怒鳴り、殴りつける。

「ぐふっ――も、申し訳ございません。旦那様!!」

しっかりと品質を確認しなかったのが原因だ。それさえ怠らなければ、すぐに品質が悪いことに気が付いたはずだ。

殴らずにはいられなかった。

ただ、それを言うのなら、任せたのはハロルドであり、自身も確認していなかったので、同罪なのだが、ここにそれを言う人間はいない。

「ふー、ふー、こいつは閉じ込めておけ!!」

「は、はい!!」

「だ、旦那様、お許しを!! ご慈悲を!!」

「黙れ!!」

複数の使用人がバードンを取り押さえ、完全に拘束して別室へと連れていった。

少し溜飲が下がり、冷静さを取り戻したハロルドは使用人に指示を出す。

「ノーマンはどこだ。すぐに呼び出せ!!」

「それが……」

「どうした、早く言え!!」

「どこにもいらっしゃらないようです……」

「なんだと!?」

「ひっ!!」

バードンもそうだが、粗悪品を納品させたノーマンにも、その説明と報いを受けさせなければ気が済まない。

しかし、すでに調合小屋はもぬけの殻。クワトロが来る前に出かけたっきり帰っていないようだ。

ハロルドは怒り狂いそうになりながらも、唇を噛んで必死に押さえ、さらに指示を出す。

「くそっ!! いいか、出自は問わん!! 領内の薬師を今すぐかき集めろ!!」

『は、はい!!』

苦情を言ってきているのはワイズマン商会だけではない。他の卸先も同じような内容の手紙を送ってきている。

どれだけの数のポーションが必要になるか分からない。

一人では到底間に合わない。大勢の薬師が必要だ。こうしている時間さえも惜しい。ハロルドは手当たり次第に薬師を集めることにした。

「バーバラを呼べ!!」

「かしこまりました!!」

そして、この件は怪我をした人や死んだ人までいるという話に及んでいる。

アイリスが作っていたポーションと同レベルのものを納めたからといって解決するものではない。

「お父様、何か御用でしょうか?」

「お前にはこれから怪我人のところにいって聖女の力を使ってもらう」

だから、怪我人を癒し、慰問と賠償で遺族の気持ちを治めてもらうほかない。

それには聖女の力と優れた容姿を持つ、バーバラが適任だった。

「まぁ、なぜ私がそのようなことを」

バーバラは嫌な気持ちを露わにする。

少々甘やかしすぎたかと思いながら、ハロルドはバーバラに見せたことのない怒気を含んだ声色で言い放った。

「いいか。お前はこういう時に役立つために育てたのだ。家のために力を使え」

「しょ、承知いたしましたわ、お父様」

普段バーバラには温厚なハロルドの剣幕に、バーバラは態度を一変させた。

「ふぅ……これでひとまず一段落か……」

ハロルドは執事にバーバラの慰問の計画を立てさせ、今できることはやったとソファに腰を下ろす。

「まだだ、まだ、こんなところで終わるわけにはいかん」

彼の言葉とは裏腹に、これはただの破滅への序曲に過ぎなかった。