軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 凋落の兆し(実家視点)

グランドリア家新薬師、ノーマン・ボードレスは回復ポーションの調薬を始めた。

まずはピュリア草を刻んで磨り潰す作業から。

刻んだピュリア草をすり鉢に入れて魔力を流し込みながら磨り潰していく。

「うっ、くっ」

ノーマンは苦悶の表情を浮かべた。

実はこの魔力を流し込むという作業は、思った以上にきつい作業だ。

ずっと重しを抱いて空気椅子をしているような感覚に近いだろう。ずっと体に負荷が掛かっている状態が続く。

だから、熟練した薬師でもそう長く続けることはできない。

その上、ノーマンの手から放出している魔力が明滅している。それは魔力が一定で流れず、途切れ途切れに注がれている証拠。

均一かつ均等に注ぎ込まなければ、素材の魔力による分解と、薬効の活性化がなかなか進まない。

「ノリノリ苔を入れて……」

最低ラインまで分解されるのに、十分以上かかった。しかし、完全に分解されているわけじゃないので、このまま使えば薬効が落ちる。

にもかかわらず、ノーマンはノリノリ苔を入れて攪拌し始めた。

「ヒエロの中身を加えて……」

ピュリア草の分解しきれない筋や苔がそのまま残った状態で、すり鉢にヒエロのゼリー状の中身を入れて、さらにかき混ぜる。

きちんと分解されていない状態でヒエロを入れると、ピュリア草と苔の融合反応が起こらず、薬効成分が上手く溶け合わない。

魔力を流し込む作業がきついせいで、一つ一つの作業が雑になってしまっている。

「最後にピピルの蜜を少し……」

そして、最後の仕上げをした後、きちんと混ぜないままガラス製のポーションに詰めた。

出来上がったのは、一般の薬より多少効果が高い程度の品質の魔法薬。

それに、分解しきれなかった素材のカスが浮かんでいて酷く濁っている。

アイリスの回復ポーションとは似ても似つかない。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

何十分も空気椅子をしているような状態だったため、ノーマンは疲労困憊だ。

「これを後百九十九本だと!? 馬鹿げてるだろ!! 一体どういうことだよ!! くそっ、薬で有名になったグランドリア家の仕事だからって飛びついたってのに!!」

呼吸が落ち着いたところで大きく叫ぶ。

課されたノルマは一日二百本。

魔法薬を一本作るのに数十分。

どれだけ頑張っても一時間に二本が関の山。二十四時間調薬し続けたとしても、たった四十八本。ノルマの四分の一にしかならない。

今のままじゃどう頑張っても二百本なんて間に合うわけがなかった。

「ふぅ、しょうがない。これはあっちが無茶苦茶な条件を押し付けてきたのが悪いんだ。前任者のアレも偽物に決まってる!! 俺は悪くない!!」

ノーマンは、今作れる最高の回復ポーションを作るのを諦め、魔力の流し込みも、それぞれの作業も、スピードのために全て犠牲にしてポーションを作り始めた。

――コンコンッ

「どうぞ」

――ガチャッ

「ノーマン様、失礼します」

「あぁ、よく来てくれた」

ノックをして入ってきたのは、グランドリア家の執事バードン。

ノーマンはどこか心ここにあらずといった笑顔で出迎える。

「納品分のポーションはできましたか?」

「あぁ、これだ」

ノーマンは蓋をした木製のケースをバードンの前に押し出す。

「確かに。流石はノーマン様。前任のゴミクズではこれほど早く納品できませんよ」

「ははははっ……俺くらいになるとこれくらい楽勝さ」

バードンは満足そうに笑うが、ノーマンの笑みは引きつっていた。

「それでは、こちら持っていきますね。また明日お願いします」

「あぁ、任せておけ」

「失礼します」

バードンは回復ポーションをカートに載せて調薬小屋を出て行った。

ノーマンはソファにどっかと腰を下ろす。

「見た目はそのまま。だから、大丈夫。大丈夫だ……」

そして、前傾姿勢で自分に言い聞かせるようにブツブツと呟いていた。

◆ ◆ ◆

数日後。

「ノーマン殿はどうだ?」

グランドリア家当主、ハロルド・グランドリアが執事バートンに尋ねる。

「大変優秀でございますね。まだ始めて間もないのに毎日早期に納品してくれます」

「おおっ、あの無能とは違うな。アレは一日掛かっていた。流石は超一流の学校を卒業しているだけある。引き続き頑張ってもらおう」

「そうでございますね」

二人は満足げに笑い合う。

自分たちが助かるためにアイリスに罪を擦り付けて処刑させたことは間違っていなかったと確信した。

――コンコンッ

「入れ」

「失礼します」

ノックの後、侍女が手に何かを持って部屋に入ってきた。

「旦那様」

「どうした?」

「こちら、回復ポーションを卸している商会の一つから手紙が届いております」

侍女がハロルドに封筒を手渡した。

「なんだ? もっと納品数を増やして欲しいって相談か?」

「それはようございますね、ノーマン様は優秀でございますから」

二人はこれからの明るい展望を想像して思わずほくそ笑む。

「それでは、早速手紙を読むとしよう」

侍女から手紙を受け取ったハロルドは、二人にニッコリと笑った後、封蝋された封筒をナイフで開け、中身を取り出した。

折りたたまれたそれを開いて内容を読み始める。

その直後、ハロルドは、大きくため息をついて背もたれに体預ける。

「どうなさったので?」

「根も歯もない言いがかりだ。うちの完璧なポーションの品質が落ちてるなどありえん。ノーマン殿もきちんと納品してくれているのだろう?」

うんざりした顔で、手紙の中身をバートン見せるようにヒラヒラさせる。

「そうでございますね」

「ならば、尚更ありえんな。ふんっ、ここにはもう卸さん。抗議の手紙を送っておけ」

「かしこまりました」

ハロルドは商会からの手紙を投げ捨てた。