軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第160話 史実と創作

「姫を返せ!! 災厄の獣め!!」

「ぐっぐっぐっ、返して欲しくば一人で魔の山に来るのだ」

「待て!!」

お話の内容は、幸せに暮らしていたとある王国の姫君が、災厄の獣と呼ばれる化け物に攫われてしまい、姫の婚約者だった騎士が助け出す、という王道中の王道な物語だった。

最後は、姫が騎士に助けられ、幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたし。

特に良かったのは、魔法を駆使した音響や光の演出。そのあたりは機会よりも魔法に一日の長がある気がする。

ただ、娯楽大国の日本で育ち、病院でその娯楽に触れまくってきた私には物足りないお話だった。

でも、ここからが本当に面白いところ。

『アーク、実際どこかの国のお姫様を攫ったの?』

災厄の獣がアークだとするのなら、実際どうだったのかが気になる。

『そんなことするはずなかろう。それになんだ、あの災厄の獣の姿は。ただの化け物ではないか。我はこれほど凛々しいというのに』

『まぁねぇ』

劇中の災厄の獣は、仮面をつけた四足歩行の形容しがたい何かだった。アークとは似ても似つかない。

『愚かにも我にちょっかいを出して滅んだ国ならあるがな』

『それはちょっとやりすぎじゃないの?』

ちょっかいかけられたくらいで国を滅ぼすのは、過剰防衛もいいところだ。

『我は自分から仕掛けたことなどない。静かに寝てるところを人間どもが大軍を率いて襲ってくるのだ。一度や二度なら目こぼしもしてやったがな。何度もやってくるのだ、滅ぼされても文句は言えんだろ』

『それはまぁ、確かに』

『おおかた、滅んだ国の貴族どもの生き残りが、腹いせに我の悪評をばら撒くために作った話であろう。小賢しいことだ』

『あぁ〜、なるほどね』

確かに国のイメージを損なわないように、濡れ衣を着せて相手を貶める、なんてことはいかにも国がやりそうな印象。

国の汚い部分を見せられて少しゲンナリした気分になった。

『そういえば、珍しい奴もおったな』

アークが思い出したように話す。

『どんな?』

『モンスターの我に土下座で助力を請う人間だ』

『それで?』

『我が移動しても何度も追いかけてきてな。我が根負けして、どうしても助けたい人間がいるというので力を貸してやったのだ』

『へぇ、そういう人もいたんだね』

『そやつだけであったがな』

アークが寂しそうな顔になる。

その人と何かあったのかもしれない。もしかしたら、封印と関係あるのかも。

ロビーに出ると、オーナーさんが私たちを出迎えてくれた。

「いかがでしたかな?」

流石につまらなかったとは言えない。

「とても楽しめました。特に演出が派手で見ごたえがありました」

「それはようございました。そろそろ良いお時間ですし、もしご予定がなければ、昼食でもご一緒にいかがですか?」

「それはありがたい申し出ですが……」

こんなに良くしてもらうと何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。

「ああいや、警戒させてしまいましたかな? 本当に他意はないのです。私とこうして普通に話してくださる方は貴重でして……」

オーナーさんは苦笑しながら肩を竦めた。

『そやつは嘘は言っておらん。ついていっても問題あるまい』

なるほど。劇場のオーナーさんほど偉い人になると、周囲の人は顔色を窺ったり、下心があったりしそうだよね。

その点、私はただの旅人。オーナーさんの権力に興味はないし、機嫌を窺う必要もない。オーナーさんも肩の力を抜いて話せるのかな。

それなら付き合うのも吝かじゃない。

「そうですか、分かりました。ご一緒させていただきます」

「ありがとうございます。こちらへどうぞ」

私はオーナーさんのあとについていく。

そこには馬車が止まっていた。

馬車に乗せられてやってきたのは、高層建築の上階にある高級イタリアンのようなオシャレなお店。

私たちは見晴らしのいいテラス席へと通される。

「いい眺めですね」

「そうでしょう。街を一望できる数少ないお店なのです。何か料理のリクエストはございますか?」

「いえ、特には」

「それではお任せで持ってきてもらいましょうか」

オーナーさんが呼び鈴を鳴らすと慣れた様子で料理を頼んだ。

しばらくして料理がやってくる。

見た目通りイタリアンぽい料理からフランス料理に近いもの、果てはインド料理に似たものまで様々な料理が出てきた。

「モゴモゴモゴモゴ」

「ピゴピゴピコピゴ」

「モグモグモグモグ」

食いしん坊の三人が凄い勢いで食べ始める。

「凄い食いっぷりですな」

「すみません、うちの仲間が」

「いえいえ、むしろ気持ちがいいですな」

「そう言っていただけると助かります」

少々恥ずかしさを感じながら昼食に舌鼓を打つ。オーナーさんが連れてきてくれるだけあってとても美味しかった。

──カチャリ。

「そういえば、お嬢さんはどうしてこの街に?」

食事を終え、飲んだコーヒーを受け皿に置いてオーナーさんが口を開く。

「欲しい食材を求めてハーベストへ向かっていたのですが、ギャンブルとオークションに興味があって立ち寄りました」

「なるほど。確かにどちらこの街の特色ですからな。もしや、大オークションにご興味がおありで?」

「はい。可能なら出てみたいなと」

「売りと買いどちらで参加を?」

「メインは売りですが、買いにも興味があります」

魔石を売ったお金で、良い物があれば買いたい。

「そうですか。ちなみに何を出品されるご予定ですか?」

「魔石です。クラウンフォレストとクラーケンの」

「なんと!? まさかそんな貴重な物を?」

「はい。たまたま手に入れまして」

「あなたは本当に凄い方のようだ。こちらをお持ちください」

オーナーさんが懐から取り出したメダルをテーブルに置いた。

「これは?」

「これがあれば、オークションに参加できるはずです」

「いえいえ、これ以上お世話になる訳には……」

ただでさえ劇場でお世話になり、食事もごちそうになった。

お世話になりっぱなしだ。これ以上何かをしてもらうのは申し訳ない。

「いえ、これはオークションの成功のためにもぜひ受け取っていただきたい」

オーナーさんが強い口調で言いながらメダルを私の前まで滑らせた。

その変貌に驚きを隠せない。

「どういうことですか?」

「クラウンフォレストとクラーケンの魔石ともなれば、必ずオークションの目玉になります。その商品が出品されない事態は避けたいのです」

私が思っている以上に二つの魔石には価値があるみたい。まさかオーナーさんがそこまでするほどだとは思わなかったな。

「なるほど……そういうことでしたら、受け取らせていただきます」

「ぜひ!!」

それなら受け取らないわけにはいかない。

私がメダルを受け取ると、オーナーさんは今日一番の笑みを浮かべた。