軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第133話 おや、街の様子が……

程なくしてヴェルナスが見えてきた。

YoTTube(ヨッチューブ) で見たエーゲ海の港街みたいに、目の覚めるような青い海と真っ白な建物のコントラストが鮮やかで、とても美しい街並みだ。

これが海。そして、港。前世では見られなかった景色に心奪われる。もっといろんな場所に行っていろんな絶景が見たい。ヴェルナスには改めてそう思わせるだけの力があった。

「ヴェルナス、楽しみだね」

「シーサーペントやダイオウガニなんかは美味いぞ」

「ピピィ!!」

「そんなの普通のお店に出ないでしょ」

皆でヴェルナスで食べられる料理に想いを馳せながら街へと近づいていく。

「こんな時に来るなんて運がなかったな」

門番さんが私たち暗い表情で告げた。

「どういうことですか?」

「入ってみりゃ分かる」

いったい何があったんだろう。

私たちは言われるがままに街に入っていく。

「なにこれ……」

『随分静かではないか』

「ピピピ……」

街中は人がまばらで、活気がまるでなかった。人々は俯いて、門番さんと同じように暗い顔をしている。

ひとまず、本来の「海を見る」という目的を果たすため、港に向かって歩く。港にはいくつもの船が停まり、風情を感じさせる景色が広がっていた。

ただ、ここに来るまで市場や魚介系の料理を扱う屋台などが一軒もなかった。なんだか嫌な予感がしてくる。

「これが海……本当にすっごく大きい……」

そんな予感を払拭するように海のすぐそばまでやってきた。間近で見る海はとても綺麗で、余りに大きかった。

海の果てのなさに神秘を感じ、海の向こうに広がっている未知の世界を想像して心が弾む。

港を見て回ったけど、やっぱりほとんど人の姿もなく、魚介類はどこにもなかった。

港町の日常を知っているわけじゃないけど、これは明らかに異常だと思う。

砂浜に下りられる階段があったので下りてみる。海を見たことがなかった私には、波が定期的なリズムを刻むのがとても不思議に映った。

理屈としては分かっていてもそう感じる。

「ピピィ?」

「これは波って言うんだよ。こうやって何度も押し寄せてくるんだって」

「ピッ」

初めてみる海にエアも興味津々だ。アークはあんまり興味なさそう。

私は靴を脱いで海に足をつける。

「温い」

「ピピィッ」

温暖な気候もあって海の水は少し温めで泳ぐのにちょうど良さそう。

ひとまず何の準備もしてないので、波打ち際でバシャバシャと遊んでいると、エアも一緒になって遊び始める。

最初は少しおっかなびっくりといった様子だったけど、私が平気そうなのを見て安心したのかもしれない。

海に来たら、泳いだり、砂浜でバーベキューしたりしてみたかったけど、あまりに静かでそういう気分にはなれない。

本当に何があったんだろう。

港に戻ると、木箱に座ったおじさんがぼんやりと海を眺めていた。意を決して話しかける。

「あの、すみません」

「なんだい?」

「なんでこんなに活気がないんですか?」

「あぁ、数日前にあいつが海に現れてから、何人もの漁師がやられちまったし、船もぶっ壊されてな。誰も漁に出ねぇのさ」

どうやらこの活気の無さの原因は、その海に現れた何かのせいみたい。

「あいつとは?」

「あいつって言うのは――」

おじさんが言いかけたところで、突然海の方で巨大な水柱が立った。

水しぶきの中から姿を現したのは巨大なイカ。それはもうとんでもなくデカい。ここからでもその大きさが分かるくらいだから全長で数十メートルはありそうな気がする。

「あれだよ、あれ……海の厄介者、クラーケンがこの街のすぐ近くに棲みついちまったんだ」

おじさんが青い顔でガタガタと震えながら呟いた。

何か怖い体験をしたのかもしれない。

『アーク?』

『海の中にいる間はなかなか攻撃が通りにくい。深く潜られると倒しようがないな』

『なるほどね』

確かに攻撃が当たらないんじゃどうしようもない。あっちから一方的に攻撃をしかけられたらひとたまりもないね。

『だが、あいつは美味いぞ!! 絶対倒すんだ!!』

『はいはい、分かったから』

アークは食べたことがあるらしく、倒す気満々だ。アークがそれだけ言うなんて珍しい。相当美味しいんだと思う。それは私も気になる。

「冒険者ギルドに依頼しなかったんですか?」

「依頼は出してあるが、この街には高ランク冒険者はいなくてな。誰も倒せる奴がいないんだよ」

マナビアは元々モンスターも盗賊もいなくて治安がいい。それはつまり、冒険者の仕事が少ないってこと。

当然、冒険者たちは稼げない場所には留まらない。高ランク冒険者がいないのも当然だった。

「そういうことですか。お話を聞かせてくれてありがとうございました」

「気にすんな。それよりも早くこの街から出ていった方がいいぞ」

「お気遣いありがとうございます」

おじさんと別れ、早速私たちは冒険者ギルドを目指して歩き出した。

もちろん依頼を受けるため。困ってる人たちを放っておけないし、何よりも私も食べてみたい。

『早くしろ、置いてくぞ』

『ちょっと待ってよ』

アークがクラーケンを食べたくて、先に進んで後ろを振り返る。

私は少し呆れながらそのあとを追った。