作品タイトル不明
第131話 仕事だから仕方ない(追手視点)
「空鳴を助けた嬢ちゃんが凄腕の薬師だったって話だぜ?」
「なるほど。情報感謝する。ここは俺の奢りだ」
「おおっ、良いのか? 悪ぃな!!」
怪しい風体の男、凄腕の薬師の行方を追う追手は、数日かけて、屋台や店で食事をしたり、冒険者たちと酒を飲んだりしながら、じっくりと情報を聞いて回っていた。
そのおかげで、凄腕の薬師の正体が、銀髪で緑色の瞳の若い女であることが分かった。
その容姿を聞くと、一人思い当たる人物がいるが、その人物はすでに処刑され、この世にいない。
その上、狼型のモンスター、ブラックウルフを従えているという。別人に違いない。追手は頭の中からその人物を追い出した。
それにしても、十代からそれほどの実力を持っているなんてよほどの天才なのだろう。羨ましい限りだ。
すでにモスマンを発ち、ミノスに向かったという。そろそろ次の街へ行くべきだろう。
追手は、宿を引き払い、愛馬を受け取ってミノスへと旅立った。
「ここがミノスか。確かに初心者ダンジョンがあるだけあって、モスマンより賑わっているな。それだけに闇も深そうだ」
そして数日後、ミノスへと辿り着く。
モスマンは街全体が柔らかい雰囲気に包まれていたが、ミノスにはそれだけじゃない。殺伐とした雰囲気も混ざっていた。
冒険者といえば、稼げるやつは稼げる、稼げないやつは稼げない、かなり格差の大きな職業だ。
ランクの低い冒険者の中には、後ろ暗い感情を抱えている人間たちも少なくないだろう。
それに、最初からガラの悪い人間や悪どいことをする人間も多く含まれている。何が起こってもおかしくはない。
モスマンと同じように、愛馬を預け、宿屋の情報を聞き出して、宿を取った。そこで、重大な事実に気づく。
「ヤバい。金がない」
そう。追手の路銀が尽き掛けていた。このままでは、凄腕の薬師を追いかけることができない。どうにかして金を稼ぐ必要がある。ただし、当然だが、追手に伝手はない。
「こちらがギルドカードになります」
「ありがとう」
それならどうするか、誰でもなれる冒険者になるしかなかった。
そう。お金がないから仕方ないのだ。別になりたくてなったわけじゃない。
「ふむっ、この依頼を受けよう」
初心者向けの依頼である常設依頼のグレイウルフの魔石を調達することにした。
追手はグランドリア家に拾われて以来、ずっと仕えてきた。だから、ダンジョンなどというものとは無縁だ。
これから初めてダンジョンに潜る。断じてワクワクなどしていない。
これは凄腕薬師を追いかけるための資金稼ぎ。追手として当然の仕事。ダンジョンに潜るのは仕方のないことなのだ。
「なんとも不思議なものだな」
ダンジョンの中は明らかに人工物であるレンガで造られている。
ただ、おかしいのは、レンガに狂いがないこと。どのレンガも劣化もなく、全く同じ大きさ、形をしている。
それでいて、ダンジョン内の明るさも保たれていた。それが人ではない何者かがダンジョンを司っていることを物語っている。
最初の数階は人がごった返していて狩りもままならなかったため、人が少ない階まで降りていく。
当然ながら宝箱や宝物を発見してはいない。相当な人間が潜っているので当然だろう。
別に残念ではない。ただ、宝を見つければ、すぐにお金を稼げると思っただけだ。断じて残念だとは思っていない。
「ウォンウォンッ!!」
しばらく歩いていると、ようやくグレイウルフが登場した。
「はっ」
「ギャオッ!?」
追手は一撃でグレイウルフを討伐した。追手は疲れないスキルを活かして人よりも長く鍛えてきた。それなりに戦える。
グレイウルフを解体し、魔石を取り出して先へと進んだ。それからスキルを活かして休まずに狩り続けた追手は、リュックが魔石でいっぱいになったので、ギルドへと戻った。
「グレイウルフの魔石百個ですね。登録初日にこんなに沢山狩ってくるなんて凄いですね」
「もともと鍛えていただけだ」
「なるほど。お強いわけです。それでは、ギルドの口座に報酬を振り込んでおきますね?」
「あぁ。よろしく頼む」
ギルドカードで報酬を確認すると、金貨十枚と表示されていた。一個当たり銅貨一枚だ。
宿は銀貨五枚から金貨一枚程度のところが多い。それを考えれば、一日の成果としては十分と言えるだろう。
しかし、情報を聞き出すために、料理を頼んだり、冒険者たちに酒を奢ったりするにはこれだけでは心許ない。
より報酬のいい依頼を受けたり、もっと奥に行って、より強いモンスターの魔石や素材を取りに行って稼ぐしかないだろう。
それもこれもグランドリア家が十分な路銀を与えなかったのが悪いのだ。追手は何も悪くない。彼はただ凄腕薬師を追うための資金を稼いでいるだけなのだから。
「さっそく、聞き込みに行こう」
すでに目ぼしい場所の情報は受付嬢からリサーチ済み。
追手は冒険者ギルドを出て、凄腕薬師の情報を求めて、美味しいと評判の店に向かった。
素晴らしい情報が手に入る予感で追手の足取りは軽かった。