軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 初めての挑戦

「ほわぁ、これが宿屋かぁ……」

宿の入口を 潜(くぐ) った瞬間、私の想像通りの光景が目に飛び込んできた。

過去のヨーロッパを思わせるエントランスに木のカウンター。それに、一階に併設された食堂兼酒場。

お昼過ぎという時間帯もあってほとんど人がいないけど、夜になれば冒険者たちがそこで酒を酌み交わす姿がありありと想像できた。

私もその風景の一員になっていることにまた感動してしまう。

「いらっしゃい。おや、可愛らしいお嬢さんだね」

「こんにちは。薬屋のお爺さんに紹介してもらいました。この子と泊まれますか?」

妄想の世界から帰ってきた私は、アークと一緒にカウンターの前まで移動する。

座っていたのはメガネをかけた恰幅のいいおじさんだ。

「まさかあの偏屈爺さんが誰かを紹介するなんてね……泊まれるよ。従魔は大きいから外の厩舎になるね。それでもかまわないかい?」

お爺さんの話をするとどこに行っても少し驚いた顔をされる。

そんなに珍しいのかな。

「はいっ、大丈夫です」

アークが頷くのを見て話を進める。

「そうかい。それなら一泊金貨一枚だよ。食事は別途銀貨一枚だね」

従魔も込みで一泊一万円くらい。ご飯は千円くらいかな。

買い物で結構お金を使っちゃったから少し高い気がする。でも、お爺さんが紹介してくれたお店だもん、ここにしよう。

「分かりました。ご飯込みでお願いします」

「分かった。何泊するつもりだい?」

「ひとまず十日間お願いできますか?」

お金を貯めるのにどのくらいかかるか分からないけど、昨日のように、運が良く希少な薬草でも採れなければ、一日や二日で貯まるような金額じゃない。

だから、少し長めに宿を取る。十日でダメだったら、延泊すればいい。

「あいよ」

「それと、厨房をお借りすることはできますか?」

「外に調理場があるから使って。後片づけだけちゃんとしてね」

「分かりました」

「部屋は二階の三号室。上がっていけば分かるから」

代金を払って鍵を受け取った。

アークは従業員に連れられて外に出ていったので、私は一度客室に向かう。

ベッドにサイドテーブルがあるだけのシンプルな部屋。でも、しっかりと掃除が行き届いていてホコリもなく、めちゃくちゃ綺麗。

お爺さんが勧めるだけある。

私は荷物を置き、食材と簡易野営セットを持って調理場に急いだ。

『早くしろ』

『ごめんごめん、すぐに作るから』

厩舎で待っていたアークと合流して調理場に到着。

フライパンみたいな鍋や普通の鍋、それにまな板なんかは準備されていた。包丁はなかったので、さっき買ったばかりのナイフを使う。

「ちょっと切りにくいけど、ちゃんとお肉が切れた!!」

元々調薬でナイフを使っていたけど、初めて肉を切る感覚に声が弾む。

これでアーク用に分厚く切ったステーキ肉が準備できた。

この調子で石かまどに火を入れる。

火を点ける道具は色々あったけど、動画で予習済みの火打石にした。

――カチッ、カチッ

火起こし動画を思い出しながら、石と打ち金をぶつけ合う。

「あれ? あれ?」

思ったようにぶつけられなくてすかしてしまう。それどころか、何度も指が鋭利な部分に何度もぶつかってしまった。

でも、超健康のおかげで私の指には傷一つ付かなかった。そういえば、動画でも流血するからちゃんと手袋をしろって言ってた気がする。

何度もやって、ようやく自分が思った通りにぶつけられるようになってきた。

「あっ、火花が出た!!」

やっと見えた小さくて一瞬の煌めき。たったそれだけのことだけど、思わず声が出てしまった。

これでやっと火がつけられそう。

火打石を打ち鳴らして麻に火花を飛ばす。でも、火が点く前に消えてしまう。動画は沢山見ていたはずなのに、ところどころ曖昧になってる。

「あっ、そうか!! 麻の前にこっちの黒いやつに火花を移すんだ!!」

ようやく思い出して黒いもこもこしたものに火花を飛ばしたら、赤熱し始めた。

――フー、フー

――ボォワッ

「わぁあああっ……」

息を送り込むと、私はついに火を点けることに成功。

徐々に火種が大きくなり、かまどに火が点り、凄い勢いで燃え始める。初めて自分でつけた火は今まで見たどんな炎よりも輝いているように見えた。

『おい……いつになったらできるんだ?』

声が聞こえてアークを見ると、辺りがすっかり薄暗くなっている。

ただ火を点けるだけなのに、何時間もかかっちゃったみたい……。

「わぁああああっ、ごめん!!」

急いでフライパンをかまどに乗せ、肉を投入。

――プスプスッ

でも、すぐにその匂いが焦げ臭いものに変わった。

『焦げ臭いが大丈夫なんだろうな!?』

『だ、大丈夫だから少し黙ってて!!』

こんなに早く火が通っちゃうの!?

急いで肉をひっくり返そうとする。

「え、あれ?」

でも、肉がこびりついて剥がれない。

あっ、うっかり油を引くのを忘れてた!!

「あぁ~……」

どうにかひっくり返した時には肉はすっかり真っ黒になっていた。

「次こそはちゃんと焼いて――」

『ええいっ!! もう我慢できん!!』

「あっ!!」

もう一度肉を焼こうとしたら、アークが私を押しのけて焦げた肉に喰らいつき、口の中に放り込んだ。

『もぐもぐ……まぁ、食えんこともない』

ちょっと満足げな声色のアーク。

『慰めてくれてるの?』

『誰が慰めるか!! 我は事実を言ったまでだ!!』

アークが焦ったような声色で返事をした。

『ごめん』

『何がだ?』

『さも料理ができるみたいな言い方しちゃったし……』

啖呵を切っておいて結果はこのざま。現実はなかなか上手くいかない。

『最初から期待などしてないわ。匂いで分かってたからな』

「え?」

私は思わずアークを見る。

『大方何かを見てできる気になっていたのだろ? その程度お見通しよ』

そうか、最初からバレてたんだ。

『我のような至高の存在ならまだしも。愚かな人間であれば、最初から上手くできんのは当然であろう。だが、次はもっと上手くできるのではないか?』

『……そうだね。最初から上手くいくはずないよね。ありがとう。アーク』

『ふんっ、毎回これではかなわんからな!!』

慰めてくれるアークに抱き着くと、アークはそっぽを向いた。

『次は絶対美味しく作るから。見ててよね!!』

『ふん、せいぜい精進して我を満足させることだ』

その言葉に思わず頬が緩んだ。