軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 ずっと欲しかったもの(実家視点あり)

「ふん、何の用だ」

強面のお爺さんが私を睨みつけた。

でも、アークの威圧感を受けた私にとってこの程度そよ風みたいなもの。

堂々とカウンターの前まで歩いて、薬草を置いた。

「買取をお願いします」

「ミルフォーゼか……一つ銀貨三枚。十本あるから金貨三枚だ」

アークは首を縦に振る。

このお爺さんは嘘をついてないみたい。凄い。他の店の四倍以上になっちゃった。

若い女だからって侮られたのかもね。仕方がないことかもしれないけど、世間知らずな相手から騙し取ろうだなんて商人としてあるまじき行為だと思う。

「分かりました。他のも見てもらえますか?」

「出せ」

カゴから妖精の雫以外の全てのアイテムを取り出して鑑定してもらった。

その結果にアークは頷いている。

全て正直な値段設定をしてくれたらしい。この人になら任せてもいいかも。

「これで終わりか?」

「いえ、最後にこれをお願いできますか?」

私はカウンターに妖精の雫を並べた。

「こ、これは!?」

お爺さんが目を見開いて勢いよく立ち上がる。

「はい、妖精の雫です」

「またこれを拝めるとは思わなんだ……」

落ち着きを取り戻した後、お爺さんはバツが悪そうに椅子に座り直した。

詳しい話を聞くと、妖精の雫は図鑑に書いてあるよりも希少で、なかなか地方の街で見かけることはないらしい。

今回見たのも数年ぶりなんだとか。下手なところで出さなくて本当に良かった。後でアークをいっぱい撫でてあげよう。

「買い取ってもらえますか?」

「これを買い取らない薬屋はいねぇ。当然買い取らせてもらう」

「ありがとうございます」

「いや、こっちこそいいものを見せてもらった。礼を言う」

お金を受け取ろうと思ったけど、入れ物がない。

流石にそのままカゴに入れて持ち運ぶのは怖すぎる。

考え込んでいると、店主さんは革袋に入れて渡してくれた。

「すみません、ありがとうございます」

「そいつがいるから大丈夫だと思うが、気をつけろよ」

「分かりました」

革袋をカゴに入れ、アークに咥えてもらった。

流石にアークに手を出す人はいないはず。

「今度は薬を持ち込んでも?」

ここなら信頼できそうなので、薬を売るならここがいい。

「お前さんは薬師だったのか? いつでも歓迎だ。薬草を見る限り、処理が適切で質も良い。これだけ状態の良い薬草は見たことないぞ。よく勉強してる証拠だ。その年で大したもんだ。これなら薬も期待できるだろう。持ってきたら買い取らせてもらうぞ」

「わわっ、ありがとうございます」

無口そうなお爺さんが早口のように褒めてくれた。

他人にこんなに褒めてるもらえたのってもしかしたら、これがはじめてかも。

前世では病弱で家族を苦しそうな笑顔にしかさせられなかった。今世では家族に蔑まれ、怒られてばかりだった。

心の中が温かくなってふわふわした気持ちになる。この感情はなんなんだろう。

「お、おい、どうしたんだ?」

突然、お爺さんが狼狽え始める。

「あ……れ?」

見えていたはずのお爺さんの顔がボヤけてる。それに、声もうまく出せない。

なんなの……私、どうしちゃったの?

『おい、大丈夫か!? どこが痛いのか!?』

アークの焦った声も聞こえてきた。

超健康のおかげで病気も怪我もしてないはずなのに……一体何が……。

「だ、だいじょ……ぶです」

二人を安心させるために返事をしようとするけど、鼻がぐずついてまともに話せない。ふと頬に温かい感触が流れる。

そっと、頬に手を触れた。

湿ってる……あぁ、私、泣いてたんだ。

私はようやく自分が涙を流していることに気づいた。

前世では両親を心配させたくなくて泣かなくなったし、今世では泣いたところで誰も助けてくれないことを知って泣くのを止めた。

だから、私の体は泣き方なんてすっかり忘れたと思っていた。

「こ、これで拭け」

「あり……がとう……ござい……ます」

お爺さんからタオルを受け取り、顔を覆う。

でも、そうじゃなかった。私はただ我慢していただけ。私、きっと誰かに認められたかったんだ。

病院のベッドの上でただ両親を悲しませ、治療費という重しを課すだけの存在だった私。碌なスキルを貰えず、家族から迫害され、挙句の果てに冤罪で処刑されて処分された私。

前世でも今世でもずっと役立たずだったから。

生きていていいんだよって。役立たずなんかじゃないよって。

そう、誰かに言って欲しかったんだ。

だから、お爺さんが認めてくれたことが心から嬉しかった。

「……すみませんでした」

しばらく泣き続けてようやく落ち着いた私は、お爺さんに頭を下げる。

初対面なのに目の前で泣かれたらドン引きしちゃうよね。本当に申し訳なかった。

「いや、気にするな」

最後に調薬に必要な道具を最低限購入。

「それじゃあ、また来ますね」

「あぁ、いつでも待っている」

私はお爺さんに別れを告げて店を出た。

最初はとっつきにくいお爺さんかと思ったけど、全然そんなことない。凄く優しい人だった。店を出る前にお勧めのお店を色々教えてくれたしね。

『アークも色々ありがとね』

『ふんっ、我はお前が泣いても知ったことではない!!』

『慌ててたように見えたけど?』

『気のせいだ!! いいからさっさと行くぞ!!』

そう言って前を進むアークの尻尾は、機嫌がよさそうに揺れていた。

◆ ◆ ◆

一方その頃。

「はじめまして。薬師のノーマン・ボードレスと申します」

「おおっ、よく来てくれた。とても優秀な薬師だと聞いている」

「それほどでもありませんが……」

「いやいや、謙遜はやめたまえ」

「それで、前任者の薬師が辞めたので私を迎え入れたいと?」

「うむ。前任者はただレシピ通りに作っていただけの無能だったのでな。優秀な君を雇いたいのだよ」

「私に否やはありませんよ。ぜひ、雇っていただきたく」

「そうかそうか。それは良かった。優秀な君なら前任者とは比べ物にならない成果を出してくれると期待しているよ?」

「勿論です。お任せください」

一人の薬師がとある家に雇い入れられていた。