軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝(小坂 霞の潜伏) 第5話 霞と常連

カフェのバイトも1週間経つと手慣れてきたというか、板についてきた。店が流行りすぎて、ご飯時は待ちの行列ができるようになってしまった。他にも店は多いんだから、そちらに行けばいいのにと思うが…。

「癒やされるなぁ」

そんな声が聞こえてくる。居心地がいいんだろうな。俺も、喫茶店のコーヒーの香りとアンティークな感じはとても気に入っている。まかないも出してくれるし、朝から夕方までの営業だが充実している。

俺が来てからお客さんが増えたそうで、ここを紹介してくれた呉服屋の男性たちが来てくれた。確か、まっちゃん(本名はしらない)ともう1人。

俺がコーヒーを持って行くと笑顔で迎えてくれる。

「霞ちゃん、一週間でかなり慣れた感じだね。前あったときと雰囲気違うね。ほんと化粧で印象段違いだ。めっちゃかわいい」

まっちゃんがそう言ってくる。化粧を変えたといいたいところだが、変身術に取り込んで化粧も含めて明るい印象のメイクに変えていた。

「まっちゃん、なんでついてくるんだよ。霞ちゃんと喋りたいのは俺なんだけど」

「もんちゃん、俺は新しい恋に飢えてるのよ」

こちらの男性は、もんちゃんか。本名は知らないが。

「え? ミミちゃん、一筋だったんじゃなかったっけ?」

「ミミちゃん? 誰だっけ?」

「振られたか…」

そんなやりとりにクスクスと笑うと、まっちゃん、もんちゃんもガハハと笑う。

「すいません、コーヒーおかわり」

「はい、ただいま」

俺はその声にすばやく動く。バタバタと客の対応をしていると、1人のお客さんが入ってくる。30代くらいの男性だ。

「お、若旦那。こっちこっち」

「若旦那っていうなっていったろ?」

もんちゃんが手を挙げる。呉服屋の若旦那か。初めて見た。前、お茶出しに行ったときには、新店舗の方のお仕事をしていたらしい。そして、もんちゃんの向かい、まっちゃんの隣に座る。俺は、お冷やとおしぼりを用意する。

「ここね、霞ちゃんの持ってくるコーヒーがおいしいよ」

「澤山が淹れてるんだろう? 運んでくるだけでおいしくなるわけじゃ…」

俺が横に立つと、若旦那が口を開けて静止した。

「あちゃー」

もんちゃんが目を覆う。まっちゃんがため息をつく。なんだ、これ?

「ご注文はお決まりですか?」

「はい。えっと、あなた。あの、俺のデザインした着物を着てくれませんか!? 絶対似合うし、一緒にイベントに参加してください!」

そんなことを言ってくるが、何のことだろうか。

「霞ちゃん、困ってるよ。あ、こいつホットコーヒーで」

もんちゃんが代わりに注文してくる。

「邪魔するなよ。こんな逸材はいないんだぞ。ビビっときた。ねぇ、休みの日に付き合ってもらえないかな?」

マスターに注文だけ通して、話を聞いてみる。なんか、喫茶店が静まりかえっている。お客さんが聞き耳を立てている。

「俺、自分のデザインした着物でブランド立ち上げたいんだよ。そのためには、ブランドの顔になる和風美人がいるんだ! 君はその可能性がある!」

「ごめんね、霞ちゃん。着物ブランド、こいつの夢なんだわ。でも、すっぱり断っていいよ」

熱く語る若旦那の発言を、まっちゃんがぶった斬る。

「おいおい、じゃまするなよ!」

「伯父さん、こまってたぞ? E&Sと提携してダンジョン向けの着物作るとか、エバーヴェイルの聖女ちゃんを嫁にするとか言ってたらしいじゃないか」

「おいおいおいおいおいおい、こんなところでばらすなよ!? ご近所さんもご近所さんだろうが」

変なところで、エバーヴェイルやメルの話が出てきたな。しかし、30代も後半だと思う彼からするとメルはちょっと歳が離れてるんじゃないかなぁ…。

「いや、わりと知られてるから。伯父さん、常連さんにめちゃ喋ってるから」

「おやじめぇ…」

ゴツンと音がして、テーブルに額をぶつけてうめく若旦那。

「ロリコンとかじゃないから。決してね。和風の美人がね、好きなだけで。あの、君、呉服屋に興味ない?」

若旦那、ぐいぐい来るなぁ。その時、キッチンの方でマスターの焦った声がする。

「はい、すぎゅ、すぐ行きます!」

これは、奥さんがいよいよ生まれそうか。

「霞ちゃん、ごめん。産気づいたらしい。俺向かうから、任せてしまっていいかな。今居るお客さんが帰ったら閉めちゃっていいから!」

その発言の間に、キッチンとカウンターを3往復くらいしてくる。焦ってるなぁ。

「マスター、落ち着いてください。お店は任せてください」

「澤山。産婦人科、遠かったんじゃないか。俺が車だすぞ」

若旦那が声をかけると、マスターはありがとうと言って、若旦那と出て行った。

「無事生まれるといいなぁ。俺たちも仕事にもどるかな。霞ちゃんは大丈夫かい? なんか手伝う?」

もんちゃんが聞いてくるが、特にやってもらうことはないだろう。

「大丈夫ですよ? 一通り教えてもらえたので、お店を閉めるのもできます」

「わかった。何かあったら連絡して、これ電話番号」

さらっと連絡先を渡して、去って行くもんちゃんとまっちゃん。2人ともメモに置いていった。それから、徐々にお客さんが減るかというと…、なぜか増え始めていた。

「奥さん産気づいたんだって?」

そんなご近所ニュースが駆け巡ったのか、常連さんが駆けつけてきて、ついでに一杯飲むというのをやり始めたのだ。コーヒーを出すのも可能だし、色々できるが、お客さんが少し増えすぎた。そんなとき、電話がなる。このカフェ、テイクアウトで軽食も出しているんだが、その注文が運悪く入ったのだ。影子の能力なら手早く作ることもできるが、目にもとまらぬ早さでナイフを振るっているのを見られるのも困る。

「いいこと思いついたわ」

俺はバックヤードに戻ると、分身を使う。そこには、大学生くらいの眠たげな印象の女の子が現れる。エプロンドレスを着用している。ちなみに、最近できた霞のお友達という設定だ。名前はどうするか…。

「霧子でどう?」

「それいいわね」

提案してくれた名前に決め、俺はわざとキッチンからホールに聞こえるように霧子に話しかける。

「ありがとう、急なお願い聞いてくれて。助かったわ。厨房は私がやるから、霧子ちゃんはホールの方をお願い」

「りょうかーい」

ホールでは謎の女性が現れたわけだが、一芝居うったおかげか、驚きは見られない。

「霞ちゃんの友達かい?」

「そうなんでーす。とはいっても、最近あったばっかりなんですけどね。なんか気があっちゃって」

注文のコーヒーを出しては、何かと世間話をしていく霧子。テイクアウトのサンドイッチも作り終えたが、それを見た常連さんたちから同じくフードの注文が舞い込む。

「こうなったら、生まれるまで待とうじゃないか」

そんな言葉に賛同する人が多い。マスターも奥さんも好かれているようだ。俺も暇だし、付き合えるところまで付き合うか。ちなみに、20時閉店となっているんだが、今は14時。

結局、その日、閉店時間を少し超えたところで連絡が入った。

「元気な男の子で、母子ともに健康だそうです!」

俺が伝えると歓声が沸き上がったのだった。