軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2ー21 スタンピードの攻防 その二

ハンターギルド南支部のギルマスであるベック・ハンソンは、僕が名誉伯爵だと知って驚いていた。

だからと言って、すぐに口調を改めるようなことはしなかったけれど、流石に僕のことを「オメェ」と呼ぶことはやめたみたいだ。

城壁の上にはかがり火を 焚(た) けるようになっているのだけれど、こちらの動きが分かってしまうことからかがり火は焚かないようにされた。

その辺は、南支部のギルマスがあちらこちらに連絡してそうさせたようだ。

魔物側から見ると、かがり火が有れば城壁の上の様子が丸わかりになるだろうからね。

但し、夜目の利かない人は城壁の上での守備には回せないことになる。

ゴブリンはどうかわからないが、オーガ・ナイトやオーク・ジェネラルが城壁の上に跳び上がったくらいだから、それらの上位種は当然に跳び上がれるだろう。

多方面からそれをやられると流石に僕一人では追い付かない。

念のため、二人のハンターギルド管理者に聞いてみた。

「さっきの魔物の襲撃では、オーク・ジェネラルと、オーガ・ナイトが出てきましたけれど、それ以上のオーガ・ジェネラルなどが城壁に跳び上がってきたら、それを抑えられる人はいますか?」

「オーガ・ジェネラル?

正直言って、ハンターで云えば上級が複数居なけりゃ駄目だろうな。

今王都に居るハンターでは、5級のパーティがいると聞いているが、奴らでも普通のオーガですら 梃子摺る(てこずる) ことになるだろうな。

現役じゃないが、俺とミシェルはその昔、3級ハンターをやっていたことがある。

昔取った杵柄と言うわけでもないが、その成果があるからこそこうして前線に出張って来たわけだが、・・・。

他のゲートにも各支部のギルマス以下の職員が配置されている筈だ。

やってみなけりゃ結果はわからねぇが、おそらく俺たち二人じゃオーガ・ジェネラルの討伐はかなり厳しいだろうな。

単純な話、俺ら二人ではオークが同時に10匹も襲って来りゃ、まともには戦えないぜ。

本来なら尻尾を巻いて逃げるところなんだが、あいにくとそれも出来ん。」

「そうですか・・・・。

これから奴らが押しかけてきそうですけれど、軍務局からも特段の指示が無いようですね。

単に死守せよじゃ、待ち受けるだけしかできません。

南門だけならば、何とか守れるかもしれませんが、他の門に魔物が分散して襲い掛かったら守れません。

このままでは、王都に魔物がなだれ込むのを防ぎようが無いと思いますけれど、お二人には何か策がありますか?」

「「無い(わ)」」

二人が声を揃えて言った。

これでは手詰まりなので、奥の手を出してみようか・・・。

未だほの暗いが、間もなく暗闇が訪れるだろう。

奴らが動き出す前にこちらが動かねばなるまい。

僕は、精霊召喚を試みることにした。

妖精は僕の周りにいっぱい居るし、これまでにも色々なことで助けてもらったり、手伝ってもらったこともある。

でも彼らではやはり力が足りない場合もある。

例えば、火の妖精だって、オークを討伐することはできるかもしれないが、同時に彼らの命を縮めることになりかねないんだ。

彼らの持つ魔力は少ないから、どうしても周囲から魔力の 下(もと) になる魔素を吸収するという手続きを踏まねばならない。

徐々に溜まった魔素を使うだけなら問題ないんだが、それを短時間で無理に吸収しようとすると妖精の身体に悪影響を及ぼすんだ。

僕がお願いすると傍にいる妖精たちが一生懸命にやってくれるけれど、度を過ぎると彼らが弱るんだ。

だから今回も、彼らには偵察以外のお願いはしていない。

魔物達には妖精は感知できないようだから、その意味では随分と助かっている。

で、精霊なんだけれど、今のところ、僕も精霊にはお目にかかったことは無いんだけれど、僕には精霊王の加護と炎の精霊の加護がついている。

いずれ試しては見ようと思ってはいたんだけれど、王都の近郊ではどんな影響があるかわからなかったからこれまで試してはいなかったんだ。

診療でたまたま国外に出ることもあったけれど、その際にはそんな暇などなかったしね。

まぁ、この際だからこの場で試してみようと思った。

僕はこれまで魔法なんぞを発動するのに詠唱を行ったことは無い。

だから心の中で「精霊召喚」と唱えてみた。

その瞬間、目の前に鮮やかなオーラをまとった人物が出現した。

歳の頃は二十歳前後の男性に見える、スレンダーでハンサムな顔立ちなんだが、特徴的なのは髪の毛と眼だろうね。

髪の毛の色が、紅蓮とでも言うべき深紅なんだ。

彼の瞳も、赤だから、髪の毛が黒ければドラキュラに間違えるかもしれない。

ただ、僕の思っていた火の精霊ではないように思い、それが思わず心の声になっていた。

あれ?

サラマンダーじゃないの?

にかっと笑ったその男が念話で名乗った。

<やぁ、フレデリック、初めましてだね。

僕は、イフリートという。

火を 司る(つかさどる) 大精霊でね、君が考えていたサラマンダ―は、僕の従者に近い精霊だね。

もっと早い段階で召喚されると思っていたのに、意外と遅かったね。>

<えっと・・・。

確かに生まれた時に名付けられたのはフレデリックなのですけれど、今は訳があってリックと名乗っています。>

<ああ、知っているよ。

精霊界から頻繁に君を見ていたからね。

君のことも大概のことなら知っている。

で、今回は、スタンピードの対応で僕らの手助けが居るのかい?>

<はい、このままでは、複数個所に襲撃が有ると、王都内に魔物が侵入するかもしれません。

僕一人では、この南門付近を守るのに精一杯で、他の門にまでは目が届きません。

ですから、イフリートさんのできる範囲で援助をいただければと・・・。>

<もちろん、構わないぜ。

取り敢えず、他の門にもサラマンダーを二体ずつ配置しておこうか。

人には見えないよう姿を隠しておけば良いだろう。

魔物も精霊の姿を見ることはできないんだが、勘の鋭い奴は、見えなくてもそこに何らかの危険があるとは感知するはずだから、気づけば近寄っては来ない。

奴らの上位種は城壁に飛び上がれるようだから、城壁の上に配置しておこう。

それで良いかね?>

<はい、お願いします。

王都が取り敢えず守られていれば、僕が外に出て、魔物を討伐することもできます。>

<いやいや、リックがわざわざ出張る必要はない。

元凶は、今、あそこに集まっている奴らだろう。

ひとまとめに、殲滅した方が後腐れが無くて良いだろう?>

<え、そんなことができるんですか?>

<多分、リックもできるはずだけれどね。

あいつらが固まっているところに火の雨を降らせるだけの話だ。

見ていてご覧。

ヴィセリ・アーガ・ムシャラパウ。>

多分、詠唱を念じたのだろう。

瞬時に魔物が集まっている個所の上空に巨大な赤色の魔法陣が出現した。

そうしてそこから無数の火の玉が射出されていった。

火の玉は地上に触れるや否や爆発し、それが連続して起きるものだから、凄まじい爆音が城壁をびりびりと揺らしていた。

しかもかなりの高熱を発しているために、爆発寸前に触れた魔物はその場で蒸発していた。

不思議なことに火の玉は樹木や魔物に触れたからと言って爆発はしないのだが、それに触れた段階で樹木や魔物を高熱で焼き尽くすのだ。

そうして地面に触れた途端に爆発を起こすものだから、この火の雨には流石にオーガ・ロード達上位種も成すすべもなく焼き尽くされ或いは吹き飛ばされていた。

僅かに数分の出来事であったけれど、魔物が集結していた一帯は、爆発で跡形もなく吹き飛んでおり、直系10mほど、深さが2mほどのクレーターが無数に生じていたのである。

イフリートが僕に告げた。

<さて、概ね片付いたみたいだね。

後は、斥候役のゴブリンが多少散開しているけれど、そちらは王都のハンターたちに任せても大丈夫だろう。>

<はい、ありがとうございます。

まさかここまでしていただけるとは思っていませんでした。

でも、僕からはお願いを叶えて貰っても何のお返しもできません。>

<リックがそれを気にする必要は無い。

僕の眷属である火の妖精たちがいつも君にはお世話になっているからね。

ささやかな僕のお礼でもあるんだ。

今後とも、必要が有ればいつでも呼んでいいよ。

僕が来られない時には、サラマンダーを御用聞きに来させるからさ。

遠慮なく頼りなよ。

君は、僕が加護を与えた初めての人間だからね。

これまでこの世界に来たことのある異世界人の先達と君とでは格も質も違うんだよ。>

そう言って、イフリートは笑みを浮かべながら消えて行きました。

きっと精霊界に戻っていったのでしょう。

で、ふと気づくと、ベック・ハンソンさんとミシェル・ローレンスさんが僕の方をじっと見ているんだ。

普通なら外の爆発に気を取られている筈なのに・・・。

ミシェルさんが言いました。

「リック君、貴方と向かい合っていた今の光り輝いていた人は誰なの?

あの人があの巨大な魔法陣を生み出して、外にいる魔物をやっつけたのよね。

あれって、もしかして神様、あるいは使徒なの?」

いやいや、これは困りました。

てっきりイフリートさんの姿は見えないものと思っていたのに違っているようで、ミシェルさんもベックさんもしっかりと見えていたようですね。

もしかしたら周囲で警戒に当たっている人も?

みんな、僕の方を見ているし、ミシェルさんの質問に対する回答を耳を傍立てているようです。

これは迂闊なことは言えません。

しかしながら、彼らが見たものを否定するわけにも行きません。

少し迷いはしましたが、正直に言うことにしました。

「ミシェルさんが見た人は、火の大精霊です。」

「火の大精霊って、サラマンダーのこと?」

「いいえ、サラマンダーは火の精霊ですけれど、その上位精霊に当たるイフリートという大精霊です。

サラマンダーは、イフリートの従者のような存在だそうです。」

「で、その大精霊があの魔物の集団を吹き飛ばしたってわけ?」

「はい、斥候役のゴブリンが多少残っているかもしれないということですが、スタンピードの主力は片付いたようですね。」

「で、その情報は彼と話をして得られたということ?

でも言葉を交わしてはいなかったよね。

二人の声は全く聞こえなかったもの。」

「ええ、まぁ、念話といって、声を出さずに会話をする魔法があるんです。」