軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

306話 自撮りしてるんですけど

ギルドマスターがあるだけの魔石をくれたので、樽全部を満たしてやった。景色がにじむように現れる水を見て、ギルドマスターが啞然としている。

「……すごいな。どういう魔術かはわからんが」

ようやく絞り出した、みたいな感じで言った。まぁ、私も本当のところはわからない。だがしかし、出来たから良いのだ!

「うむ。だが、それだけ空気と魔素が薄くなった、ということだ。風が吹いてるから出来たが、むしろ洞窟や風が吹かない場所だと倒れる人間が出たかもしれないな」

私は自分で空気を確保しているからいいんだけど。

ギルドマスターは慌てて様子を見に行かせようとしたが、

「待て。倒れるのはまずお前からだ、ギルドマスター。お前が倒れてないなら他の人間も倒れていない。私を除き、この魔術のそばにいる人間が一番の被害に遭うのだよ」

そう伝えると真っ青になった。

「……それを先に言ってくれ」

しばらくして、ギルドマスターは絞り出すように言った。

「……だが、感謝する。これだけあれば雨期までしのげるぞ」

ギルドマスターがホッとしたように言ったので、私は首をかしげた。

「湖があるだろう? かなり大きな湖だし、当分干上がるようには見えないが?」

私が尋ねると、ギルドマスターが渋い顔になった。

「それが、ここの事情だ。――ここでは雨をためて飲用している。湖は、最終手段だ。昔は使っていたんだが……あるとき、湖の水を使いすぎてかなり減らしてしまったんだ。そのときから、人が湖の水を飲むと腹を下し、干からびて死ぬようになった」

ワーヲ。すごいな!

水が少なくなって雑菌に汚染されたのか?

確かに濁った水を飲んだらおなかを壊すと思うけど、砂があるなら砂でろ過すればいいじゃない。

あ、でも、それで湖が干上がったらまずいのか。

ギルドマスターは深刻な顔で言った。

「もう何も飲むものが無かったら死を覚悟して飲むことにしている」

悲壮な覚悟だな。

「うーむ、そんな状態なのか。なら、Sランク冒険者として、依頼を出せば水質調査を承るぞ?」

ギルドマスターが目をパチクリさせた。

私はギルドマスターに教えた。

「ソードはSランク冒険者で、私はAランクだがSランク冒険者パーティとして活動している。だから、解決困難な依頼を受ける義務があるのだ。依頼を出せば受けるぞ」

ギルドマスターが絶句し、凝視した後つぶやくように聞いてきた。

「…………そんなことが、出来るのか?」

「水質調査は出来るぞ。水質改善はわからない。調査次第だ。あと、依頼金次第だな。大規模修繕工事が必要となると、払えないだろう?」

ギルドマスターはうなずいた。

「……確かにそのとおりだな。では依頼を出すので、受けてくれ。その前に、まずは水を売る」

らしい。

ギルドマスターがウキウキしながら樽を運び出すのを見守っていたら「ピロロン」と音がした。

「ん? メッセか」

タブレットからメッセージが入ったサインが来たので見たら、ソードがリョークと自撮りしてるんですけど。

キーーーーーッ!!

私が働いてるのに何やってんだよコイツらは!?

そんでもって、なんで自撮りしてんだよどこで覚えた!?

そんでもって、なんで私に送ってくるんだよ他の連中でいいだろが!

恨みスタンプを送ってやった。

ソードはその後も続々と送りつけてきた。

メッセを覚えたソードからの攻勢がすごい。

一緒に行動している私に送ってどうするんだろう?

スカーレット嬢なら相手してくれると思うぞ。

若くして亡くなって転生したのだから、長時間のメッセのやり取り得意でしょ。

私は昔からやりとりが苦手なのだ。

ソードのメールを無視してギルドマスターについていく。

ギルドマスターは屋根のある広場に行き、そこにある鐘をカラーンカラーンと鳴らすと、わらわらと人がやってきた。

あ、ちゃんと水甕を持ってきている。そういう合図なのね。

「皆よ、よく聞け! 大変に綺麗な水が手に入った! 今日は、一人一瓶だ! 三日後にまた売り出す! 今回は、特別に一つ分で売ることにした!」

ワーッと盛り上がってる。

一つ分とはナニさ?

って思って見ていると、一番最初の人が、何やら秤のようなものにキラキラした砂を置いた。

その秤のメモリが一つ分動いたところで、水甕に水を満たして渡す。

ほーほーほー。そういうことか。

「砂金か?」

とつぶやいたら、ギルドマスターが首を振る。

「【虹砂】という、ここでしかとれない稀少金属だ。高値で取引されるので、それで足りない水を買っている。最近、足元を見られがちで価格が下がっているが……」

ギルドマスターが苦渋の顔をした。ここのギルドマスターも苦労人らしい。

大人しく買っていく人に紛れて、

「百出すから樽ごと売ってくれ」

とか言い出す人がいた。

ギルドマスターが鼻で笑った。

「千だって足りないぞ。お前に売る水はない。どけ! 次の番のやつの邪魔だ!」

すると、怒ったらしいその人が「おい!」とどこかに声をかける。すると手下らしきいかついおっさんがわらわらとやってきた。

ギルドマスターや冒険者らしき数人が相手取ったが、多勢に無勢で何人か突破してこちらに迫る。

何をする気かと思ったら樽を破壊しようとしたので、蹴った。吹っ飛んでった。

「何をするつもりだ」

私がそう言ったら、全員が驚いて私を見た。

そして、蹴ってない手下らしきおっさん連中が私をにらんできたぞ。

ムフフ、トラブルの予感がするー。

ニヨニヨとしている私を見たギルドマスターは、顔をしかめて声をかけてきた。

「おい小僧……」

カッチーン。

「小僧ではないっ! 私を呼ぶときは『お嬢さん』もしくは『インドラちゃん』と呼べ!」

遮って叫んだらギルドマスターがポカンとした後、頭をかいた。

「……あえて『お嬢ちゃん』呼ばわりされたいって、変わり者だな。……じゃあ言い直すと、お嬢ちゃんはやりすぎだ。商人ギルドからお前の捕縛依頼が出るぞ」

私は顎を上げ、フッ、と鼻で笑った。

「出るわけがなかろう。私を誰だと思っている? 利に聡く保身に長けている商人が私の捕縛依頼なぞ出すはずがないし、出たとしても構わん。その場合は商人ギルドがこの国から消え去るだけだ」

ギルドマスターと商人ギルドの人間らしき連中が固まった。

笑い声がして、振り返るとリョーク。

と、ソード。

「……また変なタイミングで現れたのか。お前はリョークと自撮りしながらあっちこっちに行ってろ! 邪魔だ!」

シッシッと手を振った。笑っていたソードは、傷ついたみたいな表情に変わった。

「終わったみたいだから迎えに来たのにその仕打ちはひどくない?」

ひどくないっ!

自撮り撮影を送りつけてくる方が悪いっ!