軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214話 〈閑話〉スカーレットと自慢の魔導具たち 三

その後、スカーレットが頰に指を当てた。

「インドラ様が女性なのはメイドが保証しておりますけど、それにしても女性に弱いのですよねぇ。屋敷には綺麗なエルフが住み込みで働いておりまして、とても優しくされておりましたわ。私も、ちょっとおねだりするとホイホイ引き受けて下さって。屋敷では『お嬢様』と呼ばれてドレスを着ていましたから女性なのでしょうけど」

「男に決まってる。……婚約者がいるというのに、他の男に色目を使うとはな!」

エリアス王子が吐き捨てた。

のを、チラリと見やるとスカーレットは薄く笑った。

「あら? 名ばかりですし、エリアス王子はインドラ様の妹に色目を使っておいでだったではないですか。フラれておしまいになりましたけどね。私は別に色目は使っておりませんし『いいお友達』でいますもの」

「なんだと? この私が、ふ、フラれただと⁉ ……ローズは、私が見切りをつけただけだ! あの女も、さすがあの兄にしてあの妹ありだったな!」

王子が声を裏返して虚勢を張る。

「そうですわね、エリアス王子が平民になると知ったらの 掌(てのひら) 返しは見事でしたわね。おまけに、身分差で引き裂かれたような演出も見事でしたわ。そんな女に騙されて私を陥れようとした人の言葉とは思えませんけれど」

エリアス王子がぐっと詰まった。

そんなエリアス王子を見て、ハァ、とスカーレットがため息をついた。

……正直、どんどんガッカリ度が増えていく。

つれなくされる寂しさより、バラプリとの違いがあらわになってきて、インドラの言う通りの甘ったれお子様王子様の部分が鼻についてきたのだ。

……バラプリは、俺様な部分と繊細な弱さが、すごく魅力的だったのに……。

乙女ゲーだからどの攻略対象も優しくしてくれるが、エリアス王子は、その中でも王子らしい俺様な部分に見え隠れする『王子という仮面を被り王になるべく努力し本心を悟られまいとするが、それでもほんとうの自分を分かってほしいと思う弱さ』にキュンときたのだ。

今、来ない。

全く来ない。

むしろ、もっと仮面を被れ! と言いたくなるほどだ。

猫に見えない猫型ロボットアニメに出てくる、巨漢男子の名セリフ『お前のものは俺のもの』って言い出してる横暴さに、ますますスカーレットの気持ちが冷めていく。

――ジーニアスにも、スカーレットの心が離れていっているのを感じた。

自分と同じように、公爵家でいろいろと話し合ったのだろう。

特に、スカーレットは被害者だ。

自分の婚約者が他の女の話を 鵜(う) 呑(の) みにしぬれぎぬを着せ、大勢の前で恥をかかせようとした。

それで冷めないわけがない。

……冷静になってみれば、インドラの話はもっともなのがわかる。

確かにプリムローズがされたいじめは許しがたいものがある。

だが、それらは他の爵位の低い令嬢にも行われていたし、平民が入学してきたならばもっとひどいことをされていたのだ。

それを知っていたのに、今まで見て見ぬ振りをしてきたのに、プリムローズだけをさもひどい目にあったかのように憤り、ろくに調べもせず無実の公爵令嬢を断罪したのだ。

インドラが味方をし、そしてスカーレットが身の危険を感じて証拠になるものを書き控えておかなければ、スカーレットはえん罪で断罪されあの場で恥をかかされるところだったのだ。

身に覚えのない罪をさもやったかのように暴き立てられ、屈強な男に暴力を振るわれて屈服させられていたはずだったのだ。

むしろ、スカーレットの方が被害者なのだ。

……だが、エリアス王子はそのことに対しての非礼をわびるどころかそもそも自分が悪いことをしたとも思っていない。

確かに、『昔は』スカーレットはエリアス王子を好いていたはずだ。

つれなくされて寂しそうだった。

陰で泣いていたのを、ジーニアスは知っている。

だが、今、スカーレットの瞳は冷めていた。

ガッカリした者を見る目をしている。

ジーニアスは、スカーレットが嫌いだった。

エリアス王子にふさわしくないと思っていたし、そうエリアス王子に言っていた。

だが今は……スカーレットから見離されれば、エリアス王子は全ての者から見離されるだろう。

『彼女はエリアス王子にふさわしくない』のではなく、エリアス王子がふさわしくあるために努力しなくてはならない立場にいるのを、エリアス王子はおろかジーニアスも分かっていなかったのだった。

「先日の非礼、誠に申し訳ありませんでした。遅くなりましたが、おわび申し上げます」

ジーニアスが頭を下げた。

……そう、分かってなかったのはエリアス王子だけではなく、私もだ、とジーニアスは自嘲する。

スカーレットに見離されれば、自分もエリアス王子と一緒にいられなくなる。

もちろん、今まで取っていた態度も全て改めなければならない。

スカーレットに頭を下げるなど、今までは無かった。

だが、もう既に、立場は逆転しているのだ。

「あら。ジーニアス様、私にわびるなんてどうなされましたの? ……まぁ、想像はつきますわよ。貴男もおうちでいろいろ話し合ったんでしょうね。私も、いろいろ話し合いましたわ。それで、言わせていただきますと。……ちょっと謝罪が遅すぎましたわ」

スカーレットが腕を組んだ。何を今更、唐突に。と思い、怒りに駆られたからだ。

「シェル様は、あの場で謝罪されましたし、その後ご両親を伴っておわびに参られましたの。私も、シェル様はすぐに謝罪されたことと、軽率な行動を非常に後悔しておられる様子から、今回は謝罪を受け取る、といたしました。……でも、他の方からは一切おわびはありませんでしたわね。――母はもちろん父も激怒しておりまして。ちなみに、両親からの私自身の評価は、インドラ様という知己を得さらに味方につけたことと、英雄【迅雷白牙】様とも知己を得たことで、高くその手腕をたたえられておりますのよ。ですので、両親もあの事件で私がショートガーデ公爵家をおとしめた、とは考えておりませんの」

――そう。その点だけは、スカーレットは心底ホッとしたのだ。

ずっと不安だった。両親から愛されているかわからなかった。

だって、乙女ゲームの私は、「家名に泥を塗った」と追い出されたもの。

今のスカーレットの両親は、母は厳しく父は変わり者だけど、それでも二人とも優しくて、でも二人とも貴族だから、公爵家と私とを 天秤(てんびん) にかけたら公爵家を取るだろう、そう考えていた。だからこそ、非の打ち所のない公爵令嬢であろうと努力してきた。

両親はこの事件のことですごく怒ってくれて、泥を塗ったと追い出されるどころかあんな王子の婚約者にしてしまってすまなかったと逆に謝ってくれて、本当にうれしかったし、自分が家族から愛されていたのがようやくわかったのだ。