作品タイトル不明
201話 私たちは孤独じゃなかったんだね
「そうか。では、今回は何にする? ……お勧めは、ブランデーのハイボールだ。香りも良く、アルコール度数も高くなく、 微(かす) かな甘みも感じられる爽やかな飲み物だ」
「ではそれを」
ショートガーデ公爵がうなずいた。
スカーレット嬢が私を見た。
「私たちは?」
「この時期は小さな 林檎(りんご) で作ったアルコールが発生する手前の発酵水がお勧めだ。ノンアルコールのシードルだな」
グラスが運ばれてきた。
乾杯して、ソードはクイッと一気飲み。
スカーレット嬢は、一口飲んだ後、喜んだ。
「あら! これ、おいしいわ!」
「生食は酸っぱいが、加工には向いているよな。甘みが足りないので蜂蜜を足しているが」
それでもおいしいよね。
公爵もお気に召したようだ。
すぐに飲み干し、お代わりを頼んでいた。
夕食は、非常に感激してもらえた。
「インドラ様も料理がお得意ですけど、料理長も素晴らしいですのね」
「ほう、インドラ殿も料理が得手とな! なるほど、冒険者としては必須ですかな?」
「必須だな。栄養バランスに欠ける食事は、身体の成長にも影響を与えるからな」
私と公爵が話していると、ソードがため息をついた。
「ん? どうした?」
「……気が合ってるようで何よりだって思っただけ」
それでなんでため息?
「……現王アレクハイドとジェラルドは、冒険者になりたがってたんだよ。お前と同じような理由で」
私と?
「つまり、ワクワク感を求めて冒険をしたがっていた」
「そう! そうなのです!」
公爵が食いついてきた。
「私はソード殿が、そして今となっては王になってしまったがアレクが羨ましかった……! アレクはそもそもが継承権は低く、順当に行けば王にならなくて済んだのだ。だから、冒険者になろうとしていたのだ!」
へー!
それは知らなかった。
冒険者が王様になっちゃったか。
それはちょっとかわいそう。
「そうか、それは気の毒に」
「そうなのです! ですが、私も気の毒なのですぞ? 私はそもそも最初から諦めるしか無かったのです!」
そりゃ、公爵だものね。
でもなんで冒険者?
縁がなさそう。
「……しかし、貴殿は、貴族であろう? 私のような境遇にいない場合、普通は目指さないものではないだろうか」
「それはですな……」
――そこで明かされる、ソードとの出会い。
現王アレクハイドは末の王弟であったため継承権が低く、また腕白で気安い性格でもあったため、しょっちゅう城や学園を抜け出して市井に遊びに出かけていたのだそうだ。
それを探しに出かけるのがシャドとジェラルド。
で、シャドはともかくジェラルドは早々に色に染まったらしい。
知り合った冒険者たちの 法螺(ほら) 話をアレクハイドと共に楽しく聞き、夢を膨らませた。
そして、時がたっても未だ市井で遊んでいた三人(シャドは遊んでなかったが、巻き込まれていた)。ジェラルドは既に既婚者(子持ち)だったのに、王族のくせに平民と気安く遊びまくるアレクハイドを羨ましがり、友人だお目付け役だと言い張って女房子どもを放っておいてくっついて遊んでいたそうな。……スカーレット嬢や。お父さん、わりとダメ男だったみたいよ?
よく何もなかったなと思いきや、やっぱりあったらしい。
とうとう悪漢どもに目をつけられ、囲まれて誘拐されそうになってしまう。
ジェラルドはもちろんシャドですら当時は危機感が薄かったので武器を携行しておらず、素手で悪漢どもを倒しきれる自信など無いしそもそもガラの悪い輩に絡まれたことすらない。
すくんでいたとき、現れたのが少年冒険者ソード。
「別件でソイツらに用があったんだけど、もう現行犯だから全員ぶちのめして役人に引き渡した」そうで、ジェラルドもアレクハイドも、ここでソードのファンになったらしい。
「アレクなど、ソードの仲間になる! と、気合いを入れて剣や魔術を特訓し始め、ソードが魔術を本格的に学びたがっているのを知ったら、ここぞとばかりに権力を使い、貴族ですら前例がないほど若い年齢で学院に入れるまでして恩を売る始末。当時の私は悔しくて突っぱねておりましたが、本当は敬愛しておりました」
「うん、わかってるしバレてたから」
ソードがウンザリ顔でツッコんだ。
「まぁまぁ、ソード、そう邪険にするな。おう揚に構えて流されるままになれ。受け身がお前の信条だろう?」
「勝手に俺の信条を受け身にしないでくれる?」
って言われたけど。
「……でも、まぁ、お前が本当に孤独でなくて良かった」
私がつぶやいたら全員聞いてたらしく、固まった。
「お前は一歩引いたところがあるから、誰かから激しい感情をぶつけられると戸惑うのかもしれないが、でも、お前を純粋に好いてるやつもいるし、 真(しん) に孤独だったわけではない。それがわかって何よりだ」
「…………。まぁ……な」
ソードはうつむいてちょっと照れたようだったが、すぐに顔を上げて、私に笑いかけた。
私も笑い返した。
私もソードも、そこまで孤独では無かったんだな。
気付かなかっただけで。