作品タイトル不明
165話 お茶会に招待されたよ
「……とまぁ、そういうわけで、スカーレット嬢はどうやら私と同じような記憶の持ち主らしい。本人、完璧にショートガーデ公爵令嬢を演じているけどな!」
「そりゃ、公爵令嬢に生まれたらそうせざるを得ないよね」
ソードと無線通信。
さっきあったことをお話しした。
「是非とも話を伺いたいので、シャールにご招待したいのだが、良いだろうか?」
「いいよ。俺、外した方がいい?」
「なんでだ?」
ソードが笑った。
「じゃ、同席する」
まずは、お茶会のお誘いを受ける。
公の場で誘われたので、招待状を受けとり、訪問した。
「スカーレット嬢、本日はお招きありがとうございます」
手の甲に軽くキス。
私は女なのだが……仕方ない、男子としての訪問だからね。
本来は侍女、男ならば側近に手土産を持たせるのだが、私は平民だ。
ソードにお願いしようと思ったらスワン君が、
「僕、そのうち誰かの側近にならなくちゃいけないし、練習として手伝うよ?」
と言ってくれたのでお願いした。
マナーは下手くそだったが、側近は意外と出来てた。
「どうぞ。……お菓子は、なんとか再現出来たの。いくつか手に入らないものがあるのだけど」
と言って勧められた。
ふむ。
「ミルクは、ギーニという町で手に入る。ただ、輸送手段がないのでギーニでのみの消費になっているな。甘味料でわかっているのは、麦芽糖と蜂蜜のみだ。蜂蜜は貴族なら手に入れやすいだろう。麦芽糖は簡単だが、これは私の収入源なのでな、製法を売るわけにはいかん」
スカーレット嬢が目を見開いた。
「……ミルクは、そうですか、そうですよね、アレって、賞味期限が短いですものね。それにしても、麦芽糖……そういえばそんなのあったかなーと言う程度の記憶しか無いけれど……。……チートしてますね、インドラ君は」
「インドラ〝さん〟だ」
なぜ、否定しまくってるのにあえて君付けする。
「[ベーキングパウダー]はわかります?」
「作れないこともないが、簡単にするなら炭酸水と 柑橘(かんきつ) の汁だろうな。公爵令嬢なら天然の炭酸水を手に入れられるだろう? だが、酵母でじっくり作った方が楽だしうまいぞ」
「うーん……。酵母パンは作ったことがあったんですけど、お菓子までは手を出したことなかったんですよねー。お菓子作り自体は好きだったんですけど」
だんだん口調が砕けてきた。
「私は発酵にハマったことがあってな。いろいろ作っていたのだ。[ベーキングパウダー]に関しては、なぜ[アルミフリー]とかいうのが出てきたのか気になって調べたことがあったのだ。結果、アレは、アルカリと酸の化学反応により二酸化炭素が発生する、それを利用したものだと理解した。だから、発泡するなら何でも良いのだ、炭酸水で良い」
「へー!」
おい、公爵令嬢が『へー』はないだろう。
侍女たちが、無表情で驚いているぞ。
「……あの。そこまでチート出来ているのなら、もう一つ質問があります。…………[せっけん]、作れました?」
「もちろんだ」
「マジでーーーー⁉」
おい、侍女たちがポーカーフェイスを維持出来なくなってきたぞ!
「落ち着け。手土産に持ってきた。[カレー粉]もだ」
「せ、せ、せ、せっけん、ど、ど、ど、どーやって」
「あぁ、私は何でも調べるタイプなので、[苛性ソーダ]がどのように作られるのかを調べたことがあるのだ。それを、魔術を駆使して作った。……器材を作れば作れないことはないだろうが、魔術は必須だな。あれは電解しないといけないからな。ちなみに、本当に劇薬だ」
聞いていたスカーレット嬢がしおれた。
「…………それって、雷魔術でいけます?」
「いけないな。この世界の雷魔術は電気じゃない。電気の魔術を使わないとダメだな」
ガックリとうな垂れた。
「まぁまぁ。今度、職人と器材を作って、[せっけん]も売り出そうと思っている。それまでは私が作った物を分けてやるから、そうガッカリするな。自分で作れるなら、[苛性ソーダ]を譲ろうか? 劇薬だが」
「……出来上がった[せっけん]があるなら、[せっけん]でお願いします。正直、作ったことないので」
そっか、やっぱ普通は作ったことがないのか。
紅茶を口に含み、ちょっと驚いた。
「ふむ。……これはなかなか」
思わず言ってしまった。それくらいおいしかった。
「良かったら、[せっけん]のお礼にお持ちになります? 公爵家の権力を駆使して作ってもらった紅茶ですの」
つまり、監修はスカーレット嬢か。
「ありがとう。……さすがに紅茶にまでは手が回らんなぁ。うちは酒を造ってるのだ。使用人が皆酒好きで、今は原料から育てている」
スカーレット嬢、あきれたような顔をした後、クスリと笑った。
「……なんだか、到底平民とは思えません。どちらかというと、エリアス王子と会話していたときを思い出します」
うん?
なんでここで泣き虫王子が?
「…………その続きは、次のお招きの時に」
と深い笑みを浮かべて、スカーレット嬢は言った。