軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 キュン

翌日。

「熱も引いたし、一安心だね」

「……はい」

由弦がそういうと、なぜか布団で顔を半分隠しながら愛理沙は言った。

今朝からずっと、この調子でいる。

おそらく……恥ずかしがっているのだろう。

証拠に耳が真っ赤に染まっている。

何に恥ずかしがっているのか。

それは何となく、由弦も察することができた。

先日の愛理沙は少し様子がおかしかった。

由弦に対して積極的に甘えてきたのだ。

いや、もしかしたら普段は気を張っているだけであちらの甘えん坊の愛理沙の方が、“本当の愛理沙”なのかもしれないが、

「……昨日はご迷惑をおかけしました」

愛理沙は顔を隠しながらそう言った。

そしてチラチラとこちらの様子を伺ってくる。

その仕草はとてもあざとく、可愛らしいが……しかし由弦の方まで恥ずかしくなってくる。

「俺は気にしていないから、大丈夫だ」

「……それなら良いのですが」

それなら良い。

と、そう言いながらも愛理沙はやはり由弦の様子を伺う。

まだ何かを気にしている様子だ。

「どうした? ……要望ならなんでも聞くけど」

「……由弦さんの馬鹿」

愛理沙はそう言うと布団を被ってしまった。

いくら恥ずかしいとはいえ、罵倒するのは如何なものか。

由弦は思わず苦笑するのだった。

さて、さらに翌日の月曜日。

由弦が登校すると、すでに愛理沙が教室にいた。

日曜日の朝にはすでに熱は引いていたが、無事にぶり返すことなく完治したようだ。

一瞬だけ、由弦と愛理沙の目が合う。

すると愛理沙は僅かにほほ笑んだ。

それから由弦が席につくと……スマートフォンが鳴った。

見ると、愛理沙からのメールだった。

『先日はありがとうございました』という文章と、そして可愛らしいスタンプが送られてきた。

せっかくなので、由弦も『無理はするなよ?』とメールを送る。

するとすぐに返答が返ってきた。

『倒れたら、また助けてください』

という文面に可愛らしいスタンプが添えられてきたので、おそらくは冗談だと由弦は判断する。

『任せてくれ。その時は保健室まで運ぶ?』

『折角なので、家まで』

『お姫様抱っこで良いか?』

『良いですけど、そんな筋力ありますか?』

『君はそんなに重いのか?』

『それは失礼ですよ』

怒った顔のスタンプが返ってきた。

由弦は思わず笑いそうになり、口元を抑える。

ここでにやけたら、一人で携帯を弄りながらニヤニヤと笑みを浮かべる気持ちの悪い男だろう。

『君のために頑張るよ』

『頑張るって、まるで重いみたいじゃないですかぁ……』

頑張る、という返しも愛理沙としては不満のようだった。

ところで愛理沙の体重だが、決して重いわけではなかったが、羽のように軽いというわけではなかった。

具体的な明言は避けるが、愛理沙は肉がついていた方が良いとされる部分にはちゃんと肉がついている。

日頃から多少なりとも運動をしているようだから、筋肉がないというわけでもない。

相応の健康的な重さがしっかりとあった。

『重くはなかったよ』

『どうして分かるんですか?』

『一昨日、抱き上げたじゃないか』

由弦がそう返すと、しばらくの沈黙の後に返答が返ってきた。

『あぁ……』

さて、今の愛理沙はどういう表情をしているのだろうか?

由弦は少し気になったが、さすがに彼女の顔色を伺うと、愛理沙と携帯でやり取りしていることが知られてしまうかもしれない。

それは本意ではないので、堪えるしかない。

とてももどかしいが。

『どうでした?』

ようやく、帰ってきたメッセージは感想を求める疑問文だった。

一体、何がどう、どうだったのかを答えれば良いのか。

由弦は少し頭を悩ませる。

(……まあ、柔らかかったかな)

抱き上げた時に感じたのは、柔らかさだった。

不可抗力的にもいろいろな部分に触れてしまったが、とても女の子らしい柔らかさがあった。

それから……

(可愛かった……)

ギュッと、由弦の衣服を掴み、潤んだ瞳でこちらを見上げてくる愛理沙はとても可愛らしく、愛おしかった。

風邪を引いて肉体的にも精神的にも弱っている愛理沙が、自分を頼ってくれていることがはっきりと伝わった。

そんな愛理沙に強い庇護欲と、征服欲が入り混じったような欲望を覚えた。

愛理沙は自分 が(・) 守る。

おこがましいにも程があるが、そんな欲求が湧いたのだ。

とはいえ、それを素直に言うわけにはいかない。

また、文脈を考えると……おそらく愛理沙の体重に関する質問だろう。

『良い感じの重さだと思うよ』

『セクハラです』

すぐにそんな回答が返ってきた。

そもそも最初に「そんな筋力ありますか?」と揶揄ってきたのは君で、しつこく体重の話題を続けたのも君じゃないか……

と由弦は若干の理不尽さを感じた。

なので、仕返しと悪戯も兼ねて、こちらからも質問を投げかけることにした。

『君はどうだった?』

感想を相手に求めるからには、そちらも答える義務があるだろう。

と、そんな意地悪な思いを乗せて、由弦はそんな文章を送信した。

案の定、答えに窮しているらしく、既読がついてから、中々返信が来ない。

由弦はもどかしさを感じながらも、愛理沙の回答を待つ。

しかし愛理沙の回答が来ないまま……あと少しでショートホームルームが始まるという時刻になった。

もしかして怒らせてしまったか?

と、由弦が少しだけ不安を抱いたその時だった。

愛理沙からの答えが返ってきた。

『キュン、としました』

由弦もまた、キュンとしてしまった。

心臓がどくどくと、うるさいほど高鳴る。

どんな表情でこの文章を打ったのかと……確認したい衝動に駆られた。

『またお願いできますか? ……風邪の時』

続いてそんな文章が送られてきた。

何となくだが、前半の文章が愛理沙の本音であり、後半の文章が言い訳やごまかしのように由弦は感じた。

由弦はすぐに打ち返した。

『お安い御用ですよ。お姫様』

『……それ恥ずかしくないですか?』

『指摘されると恥ずかしいからやめてください』