軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編下 告らせたい

それを言われた時、最初、私は何か粗相をしてしまったのかと思った。

というのも、丁度お正月の挨拶のために、彼の実家へと行ったあとだったからだ。

それとも彼が私に愛想を尽かしてしまったのか。

不安に思い、私は養父に尋ねた。

するとしばらく考えてから、養父は答えた。

養父が言うには……元々、彼との婚約は私ではなく、芽衣ちゃんがする予定だったようだ。

しかし彼の家の方から、私への指名があった。

そして私がお見合いを望んでいることもあり、縁談を結ぶこととなった。

しかし……

「もしかして、お前は本当は縁談などしたくないと思っているのではないかと、思ってな」

と、そういうことらしい。

どう答えて良いか分からず、私はただ呆然としていた。

私が押し黙っていると養父は、「嫌なら結婚しなくても良い。強制をするつもりは一切ない。嫌なら……嫌と言いなさい。返答はしばらく待つ」と私に言った。

確かに少し前までは、嫌だった。

けれど今は嫌ではない。

はっきり言って今更な話だし、そして今となっては意味のない言葉だった。

どうしてこんなことを言い始めたのか。

ふと、思いついたのが……養母の存在だ。

養母は私のことを嫌っている。

そしてこの縁談のことも、私が彼と結婚することを苦々しく思っているらしい。

もしかして私が嫌がっているということを口実に、私と彼の婚約を破談させたいのではなないだろうか?

そして実の娘である芽衣ちゃんと彼を婚約させる。

養父も私と実の娘では、当然実の娘の方が可愛いはずだから、そちらの方を彼と結婚させたいと……

というのは少し被害妄想が強すぎるのかもしれない。

けれども、決して否定はできない。

それとも……またあの人が、何か余計なことを養父か養母に伝えたのか。

あの人は本当に、いつも、いつも、いつも……

いや、やめよう。

まだそうと決まったわけではないのだから。

何にせよ、私と彼との婚約に暗雲が立ち込めてきたのは間違いなかった。

こうなると、急に不安になってくる。

本当に彼は私のことが好きなのか? と。

少し前まで、私は彼からの恋情に関しては……ちょっと奢り昂った言い方かもしれないが、絶対の自信を持っていた。

あれだけ私に優しくしてくれている。

とても素晴らしいプレゼントもしてくれた。

何より……好きでもない人に対して「抱きしめても良いか?」なんて言わない。

間違いなく両想い。

もしかしたら彼の方はとっくに私のことを恋人だと思っているから、わざわざ想いを伝えて来ないのではと思うくらい、私は彼が私のことを愛してくれていると思っていた。

でも、もしかしたら全て私の妄想なのかもしれない。

私が彼のことが好きだから、都合の良い部分だけと見てしまっていると……

そんな可能性が頭を過った。

彼の方はひたすら“婚約者”に徹しているだけだと。

私のことは単なる異性の友人程度にしか、思っていないのではないかと。

考えてみると彼は幼馴染の女の子たちと、距離感が近い。

もしかしたらこれくらいの距離感は彼にとっては普通……

い、いや……さすがにあり得ない。

好きでもない人のことを抱きしめようとしたり、頭を撫でたりとか、するはずがない。

強い恋情ではないにせよ、多少なりとも私のことを好きでいてくれている……はずだ。多分、きっと。

しかしそうであっても、やはりどうしても不安になる。

彼は素敵な男性だ。

学校ではあまり目立たないけれど、それは普段は髪を整えたりしないからだ。

私とデートをするときはきちんとお洒落をしてくれる。

ちゃんとした時の彼は、とてもカッコいい。

そして背も高い。

優しいし、紳士的だ。

とても気遣いができる。

頭も良く、教養があり、運動もできる。

冗談も言えるので、話していてとても楽しい。

そして……彼の良いところを挙げる時にこれを挙げるのはきっと彼の気分を害するけれど、高瀬川家はとてもお金持ちだ。

半年前までの私は世間知らずだったために、彼の家がどれくらいの財力や政治力を持っているのか分かっていなかったけれど、さすがに今は分かる。

勿論、私は彼がお金持ちだから好きになったわけではないし、愛しているわけではない。

もし彼の家が没落したとしても、私は彼に愛想を尽かしたりなんて絶対にしない。

ただ……そのお金目当ての女の子は、寄って来るはずだ。

とても古典的な良い方をすると、泥棒猫だ。

勿論、彼は決して浮気をするような人じゃない。

私は彼の人格を信じている。

けれど、私は彼から愛の告白も、プロポーズも受けていないのだ。

つまり私と彼の関係は“婚約者”を抜きにすれば、ただの異性の友人でしかない。

もし、彼がそれほど私のことが好きではないとしたら、少なくとも私が彼を想っているほど好きではないとしたら。

そしてとても魅力的な女性が彼に近寄ってきたとしたら。

考えるだけでも、嫌だ。

確かな確証が欲しい。

好きと、愛していると、口にして欲しい。

言葉で表現して欲しい。

そう考えると……どうして彼は私に好きと言ってくれないとかという問いに回帰する。

彼は私のことが好き。

好きな……はずだ。

そして私は行動で、彼に対し、私が好きであることを示してきたつもりだ。

とっくに私に思いを伝えてくれても良い頃合いだと思う。

にも関わらず、彼はまだ私に想いを伝えてくれていない。

……勿論、それは私自身にも言えることだ。

彼が私に好きと言ってくれないのであれば、私の方から好きと言うべきだ。

それが道理だ。

いつまでも黙ったまま、彼に無言でして欲しいことを伝えて、それを享受するだけというのは良くないということは分かっている。

欲しい物をただ指を咥えてみているだけというのは、私のとても悪い癖だ。

ただ……とても自分勝手なことだけれど、私は彼に「好き」と言って欲しい。

夢と言うのは大袈裟だけれど、好きな人からロマンティックな告白をして欲しいという、願望がある。

これは私だけではなく、多くの女性に共通する想いじゃないだろうか?

それに……これは少し言い訳染みているけれど、彼自身も彼の方から告白したいと、思っているはずだ。

彼の家は(あまりこういう言い方は良くないかもしれないけれど)とても守旧的だ。

彼自身もそういう考えが染みついている気がする。

実際、彼は常に私と歩くときは車道側を歩いてくれるし、車を降りる時は手を差し伸べてくれる。

勿論、男尊女卑的な考え方まで持っているとは思わないけれど……

告白やプロポーズは、男性側がするものだと思っているんじゃないだろうか?

だから私は極力、彼からしてくれるのを待ちたいと思っている。

話を少し戻そう。

彼は何故か、私に好きと言ってくれない。

私はいつでも受け入れる準備ができていると言うのに。

そして思い悩んだ末に、私はふと、ある可能性に行き着いた。

もしかして彼は……

とてつもなく、鈍いんじゃないだろうか?

私が彼のことが好きだということに、気付いていないのではないだろうか?

両想いであることが、伝わっていないのではないだろうか?

思い返してみると、お正月の時。

彼は何気なく、私の手を取ってきた。

私はとても嬉しかったし、そして同時に恥ずかしかった。

それは表情に現れていたと思う。

手を握って貰えてときめいてしまったことが、彼のことが好きであることが、顔に現れていたはずだ。

しかし彼は「うん? どうしたんだ?」とでも言いたそうな表情だった。

彼は感情を隠すのが上手なので、きっと照れ隠して惚けているのだろうと私は思っていたのだけれど、もしかしたら……

本気で私の好意が伝わっていないのかもしれない。

唐突に一緒に帰ろうと言ってくれた時も、そんな感じだった。

私だけが照れているようだった。

もし彼がとてつもなく鈍くて、私の好意が伝わっていないのだとしたら。

彼が思いを告げてくれない理由も納得できる。

彼はとても勇気がある人だけれど、自分のことが好きかどうか分からない人に対して想いを伝えるのは、尻込みしてしまうのは仕方がないことだ。

でも、これではいつまで経っても彼は私に想いを伝えてくれない。

彼がとてつもなく鈍いとしたら、今までの接し方では決して彼は気付いてくれない。

どうしようか……

そんなことを真剣に悩んでいたのが、悪かったかもしれない。

私は折角の土曜日に風邪を引いてしまった。

しかも丁度、養母と芽衣ちゃんがいないタイミングで。

……いや、養母がいない方が心が休まるので、それは良かったのかもしれないけれど。

そのことを彼に伝えると、彼はとても心配してくれた。

そして私のお見舞いに来てくれる、と。

最初はとても申し訳なく思った。

その時はそんなに重い風邪ではなかったし、それに彼にうつしてしまうようなことがあってはいけない。

けれど……心細かったのも、事実だった。

それが電話越しに伝わったのだろう。

彼は私がかつて彼を看病したことを持ち出し、私が彼の助けを借りやすいように、誘導してくれた。

その気遣いがとても嬉しかった。

そして同時に申し訳なかった。

私は彼に助けて貰うことにした。

結果的にその判断は正しかった。

私の風邪は彼が来た後に、悪化してしまったのだ。

思わず彼の目の前で下着を見せてしまうくらい、高熱で判断力や意識も低下していた。

彼がいてくれて、本当に心強かった。

それに……彼にお姫様抱っこをして貰えたことは、少し、役得だなと思ってしまった。

それから彼は私を病院に連れて行き、そして帰った後は食事まで用意してくれた。

彼は私にお椀とフォークを乗せたお盆を差し出してきた。

そこで、ふと……私は思ったのだ。

このまま、普段通りの接し方では、彼は私の好意に気付いてくれない。

それにいくら彼の告白を待つと言っても、私自身が受け身のままというのは良くない。

私も変わらないといけない。

もっと、積極的に彼に私の想いを、分かりやすく伝えなければいけない。

だから……

「食べさせて、ください」

私はそんな我儘を口にした。