軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話 聖夜の予定

十二月上旬。

以前、実施された高難易度模試と第三回全国模試という二つの模試が返却された。

その週の土曜日。

由弦と愛理沙はお互いの成績表を見ながらため息をついた。

「また、負けてしまいましたね。……亜夜香さんに」

「そうだな。……あいつ、本当にどうかしている」

由弦も愛理沙も、亜夜香に敗北した。

つまり校内順位では亜夜香が一位で、由弦と愛理沙がそれぞれ二位と三位だった。

愛理沙は由弦をジト目で見た。

「というか、由弦さんもおかしいです。……特に英語」

「まあ、俺は元々、英語はそこそこ喋れるからね。父さんや爺さんに教えて貰えるし」

由弦の祖父はアメリカ人とのミックスだ。

そのため英語はペラペラ。

そしてまたそんな祖父に育てられた由弦の父も、英語が話せる。

そのような家系なので由弦が英語を話せるのも、必然と言えば必然だ。

勿論、ネイティブではないので多少の間違いはあるが。

それでも他の日本人よりは身近なので、かなり有利だ。

「良いですね。……私、英語、あんまり得意じゃないんですよ」

「みたいだね」

愛理沙は特に英語の勉強に力を入れているが、英語の成績は芳しくない。

つまり苦手科目だ。

「私、この成りじゃないですか」

「……まあ、喋れそうな見た目ではあるな」

日本人は白人はみんな英語を話すものだと思っている節がある。

愛理沙はいかにも、な見た目なので、英語が得意そうに見える。

「私、ロシアとフランスのミックスなんで、英語の要素欠片もないんですよ。そもそも日本生まれの日本育ちなので、期待されても困るというか」

「ご愁傷様としか言いようがない」

由弦は言われなければ分からない程度なので、そういう悩みを抱いたことはなかった。

そういう意味ではかなり幸運だろう。

「……そう言えば、愛理沙」

「何でしょう?」

「……クリスマスイブ、予定はあるか?」

由弦の高校は十二月の二十四日に終業式がある。

終業式そのものは午前中に終わってしまうので……

特に愛理沙に個人的な都合がなければ、一緒に夜を過ごすことが可能だ。

「予定はありません。しかし……そうですよね。婚約者同士なら、普通……過ごしますよね」

僅かに愛理沙は頬を赤らめて言った。

その表情はまるで……由弦に気があるように見えた。

由弦の心臓がトクンと鳴る。

小林と話し合ったその日以来、妙に愛理沙のことを意識してしまう。

由弦は首を左右に振り、雑念を振り払った。

「一緒に過ごしてくれるという方向で良いかな?」

「はい。喜んで」

そう言って愛理沙は微笑んだ。

とても可愛らしく、美しい笑みだ。

果たして、“婚約”がなくても愛理沙はそう答えてくれるのだろうか。

そんな考えが脳裏を過る。

「それで場所とかは、どうする? デートでもするか? 遊園地とか、定番だけど」

「遊園地、ですか。……凄く混雑しそうですね」

「まあ、そうだね」

人が多い場所では、あまりゆっくりした時間を過ごせなさそうだ。

「本来は大切な人とゆっくりと過ごす日らしいですし、お家で食事にしましょう」

「そうだな……」

大切な人。

という言葉に由弦は一瞬だけ、引っ掛かりを覚えた。

「だが、しかし家で食事となると、君への負担が……」

「お気になさらず。……由弦さんには私の手料理を、食べて欲しいです」

とくん、と心臓が音を鳴らした。

由弦は思わず、愛理沙の美しい瞳から目を逸らした。

「まあ、そんなに言うなら、ご馳走になろうかな」

「……ところで、由弦さん」

愛理沙はどことなく、真剣な声音で由弦の名前を呼んだ。

パチパチと翡翠色の瞳が由弦を見つめる。

「どうした?」

「何色が好きですか? ……その、ファッション的な意味で」

どうしてそんなことを急に聞くのだろうか?

と由弦は一瞬、疑問を抱いたが……すぐに合点がいった。

おそらくはクリスマスのプレゼントだろう。

どうやら愛理沙はまた、何かを手作りしてくれるようだ。

「そうだね。……装飾品なら、派手なのも好きかな。君がくれたのとか」

由弦はそう言って愛理沙が以前、作ってくれた革のブレスレットを見せた。

しっかりと、今日も時計と一緒に身に着けている。

そこそこ派手な色をしているので、時計と一緒でも見劣りしないのだ。

愛理沙は恥ずかしそうに目を伏せた。

「でも、服とかなら……落ち着いた色が好きかな」

「落ち着いた色、ですか」

「ああ。……ところで、どうしてそんなことを?」

悪戯半分で由弦は愛理沙に尋ねてみた。

すると愛理沙は首と両手を大きく振った。

「な、何でもないです! ただの興味本位ですよ!!」

そう言って否定する愛理沙は……

とても可愛らしかった。

由弦は思わず愛理沙の頭に手を伸ばしてしまった。

愛理沙はそれを跳ね除けることなく、受け入れる。

サラサラとした、透き通るように美しい亜麻色の髪を手で梳く。

愛理沙は心地よさそうに目を細めた。

「意地悪ですね。由弦さんは」

「何が?」

「気付いているでしょ?」

「何が、まではさすがに分からないよ」

「……期待していてください」

「ああ、期待している」

しばらくの間、二人はそうして時を過ごした