軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 “婚約者”とホラー映画

映画の内容は所謂『学校の七不思議』をモチーフにしたものだった。

学生に人気という評判を聞いていたが、舞台が学校という身近な場所だからだろう。

怖いという前評判通り、由弦も声は上げないものの体がビクリと震えてしまう程度には怖かった。

お化けや幽霊が人を襲うたびに、心臓がドキドキする。

もっとも……

「ひぅ!」

「ひやぁっ!」

「っきゃ!!」

などと可愛らしい悲鳴を上げ、その度に由弦の腕に抱き着いてくる愛理沙の行動の方が、よほど由弦をドキドキさせたが。

怖いモノは苦手というだけあり、後半、愛理沙は由弦の手を握ったまま、目を瞑り、プルプルと震えていた。

おそらく、最後の十五分の映像は見てすらいないだろう。

映画が終わり、由弦は愛理沙に声を掛けた。

「愛理沙」

「うわっ! ゆ、由弦さん、ですか」

「俺以外にいないだろう。……大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫です」

全く大丈夫そうではない愛理沙を連れて、由弦は早めに場内から出ることにした。

よほど怖かったらしく、明るくなってからも由弦の腕にぴったりと、体を付けている。

「も、もう……明日から学校でお手洗いに行けません」

青い顔で愛理沙はそう言った。

その瞳は僅かに潤んでいた。

「そんなに怖いのが苦手なら、やめれば良かったのに。……今度からはホラーを見るのは止めた方が良いな」

由弦がそう言うと、愛理沙はプルプルと首を左右に振った。

「怖かったですけど……お、面白かった、です。……怖いのは苦手ですけど、ホラーは嫌いじゃないです」

「……」

もしかしてこの子は馬鹿なんじゃないかと。

由弦は本気でそう思った。

もっとも、怖いモノを見たくてホラーを見るという動機そのものは、間違ってはいないような気もしたが。

「ところで愛理沙。……俺、雉を撃ちに行ってきて良いかな?」

「だ、ダメです! 今は私を一人にしないでください!」

そう言って愛理沙はギュッと、由弦の腕を掴み、自分の体に引き寄せた。

涙目でそう言われると、非常に離れにくいが……

「い、いや……でも、俺、ちょっと限界で」

「我慢、できませんか?」

「我慢って……いつまで?」

「それは……ずっとです」

愛理沙も無理難題を言っていることが分かるのか、目を逸らしながら言った。

しかし由弦の腕を離す気配もない。

仕方がないので、由弦は少し意地悪な質問を愛理沙に問いかけた。

「そういう君は大丈夫なのか? ……ジュース、俺と同じ量を飲んでたと思うけど」

「え? それは……」

由弦がそう指摘すると、愛理沙の足が目に見えて分かるほど震え始めた。

どうやら今まで、恐怖のせいで無自覚だったようだ。

「……お互い、ギリギリまで付き添うという案は、如何ですか?」

「常識というものを考えて欲しいな」

「で、ですよね。そうですよね。……取り敢えず、お手洗いまで向かいましょう。それまでに覚悟を決めます」

愛理沙がそう言うので、由弦は彼女と共にトイレがある位置まで向かった。

勿論、愛理沙は男子トイレに入るわけにもいかないし、由弦が女子トイレに入るわけにもいかない。

なので……

「別れるけど、良いな?」

「手早く、お願いします」

「……まあ、努力しよう」

君はどうするつもりだ。

とは、聞かなかった。

先ほどのホラー映画ではトイレに関するお化けも出てきたのだ。

おそらく、この様子ではまだ一人でトイレに入る勇気はないのだろう。

由弦は愛理沙のためにと、できるだけ早く事を済ませようとトイレに駆け込んだ。

するとそこには……

「……あれ? お前はもしかして、聖か?」

見慣れた背格好の男が手を洗っているところを、目撃した。

試しに声を掛けると、彼は驚いた様子で目を見開いた。

「そういうお前は、由弦か。……奇遇だな」

「それはこっちの台詞だ。……聖のドッペルゲンガーじゃないよな?」

「お前、あの映画見てたの?」

「そういうお前も見てたんだな」

どうやら由弦も聖も、同じ映画を見ていたようだった。

入場出場の時間がお互い違ったために、場内では鉢合わせなかったのだろう。

「お前がホラー映画なんて……もしかして、誰かと一緒に?」

聖は由弦に尋ねた。

由弦は何と答えれば良いか、少し迷ったが……

トイレの前には愛理沙が敵と戦いながら由弦を待っているので、愛理沙と共に来たことはどうせすぐに判明してしまう。

誤魔化しても仕方がないことだった。

なので正直に愛理沙と一緒に来たと言おうとしたのだが……

(待てよ?)

ふと、由弦の脳裏に名案が思い付いた。

「なあ、聖。そういうお前も……誰かと一緒に来ているのか?」

「いや……質問を質問で返すなよ」

そういう聖は少し動揺している様子だった。

どうやら図星らしい。

「女の子か?」

「それを聞いてどうするんだよ」

「凪梨天香だろ。前も一緒にいたもんな」

「そうだな……で? それがなんだってんだよ」

不機嫌そうに尋ねる聖に対し、由弦は頭を下げた。

「すまん、一つだけ、頼みたいことがある」

「どうしたんだよ、急に」

唐突に頭を下げてきた由弦に聖は困惑の表情を浮かべた。

勿論、由弦が聖に何か頼むことは別に珍しいことではないが……これほどまでに真剣に頼み事をしたのは初めてのことだった。

「お前の連れ……もう凪梨さんでも、誰でも良いけど、女の子だったら……」

「お、おう! もうぶっちゃけると、凪梨だけど、それがどうしたってんだよ」

由弦は聖の肩を掴んだ。

そして鬼気迫る勢いで、聖に頼み込む。

「俺の連れを……愛理沙を、助けてくれ!!」

その後、合流した天香は非常に困惑した表情を浮かべていたが……

愛理沙のトイレに付き合ってくれた。

愛理沙が危機を脱した後、より詳しい事情――つまり愛理沙がトイレに行けなくなったこと――を聞いた聖と天香は……

お腹を抱え、大爆笑した。

ちなみに由弦は愛理沙に滅茶苦茶怒られた。