軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 “婚約者”とスイカ

それから輪投げ、射的、ヨーヨー掬いなどのゲームをやって二人は祭りを楽しんだ。

遊び終えると、今度は少しお腹が空いてくる。

「こういうところの焼きそばとか、たこ焼きって、美味しそうに見えるよな」

「そうですね。……良い匂いがします」

雰囲気と匂いと音に流される形で、二人は焼きそばとたこ焼きを一つずつ購入した。

それから近所の神社近くの階段に腰を掛ける。

そしてそれを半分ずつ、分け合う。

もっとも、愛理沙が少食ということもあり、由弦の方がやや多めではあったが。

焼きそばは化学調味料塗れの非常に健康に悪そうな味がしたが、これはこれで美味しい。

やや塩分過多で、微妙に焦げてパリっとした部分があるのだが、そこがまた良いのだ。

勿論、祭りのような場所で雰囲気に酔いながら、たまに食べるからこそ美味しく感じるのだが。

たこ焼きは生地がふにゃふにゃで、ソース塗れになっていた。

こちらもやや塩分過多だ。

肝心のタコの部分は期待していなかったが、思っていたよりも大きかったので、このたこ焼きは“当たり”だろう。

勿論、祭りのような場所で(以下略)。

「祭りで食べると、こういうのは美味しいよな。まあ、九割は雰囲気な気もするけど」

「そうですね。でも……鉄板の火力は家庭では出しにくいですし、あまり食べられない味なのは確かだと思いますよ」

美味しいには美味しいが、やはりしょっぱい。

由弦は屋台で買ったレモネードを口にする。

ちなみにこれはレモン汁とシロップを混ぜ、氷を入れて、そこに三ツ矢サイダーを注いで作られたものだ。

冷静に考えてみるとこれで三百円は高い気もするが、雰囲気に流される形で買ってしまった。

味の方は悪くはない。三百円の価値があるかと聞かれると、それは別の話だが。

一方で炭酸が苦手という愛理沙は、オレンジジュースを口にしていた。

ペットボトルや缶ではなく、瓶に入っているので美味しそうに見える。

もっとも、たぶん見えるだけだろう。

「高瀬川さん、あの……」

「炭酸、挑戦する?」

由弦が尋ねると、愛理沙は小さく頷いた。

「はい。その、でも初めてなので、あまり痛いのは……」

「もうかなり抜けてきたから。そうでもないよ」

由弦はそう言ってプラスチックのコップを愛理沙に手渡した。

艶っぽい唇をコップに付けて、一口飲む。

「どう?」

「ちょっと痛いですけど、味は美味しいですね」

「気に入って貰えて何よりだよ」

それから由弦は腕時計を確認する。

花火が始まるまで、あと三十分程度だ。

食べ終えた焼きそばとたこ焼きのゴミを一つにまとめ、立ち上がった。

「花火は家からでも見えるし、その方が落ち着いて見れると思う。だからその前までに帰ろうと思うんだけど、どうかな?」

「そうですね。……高瀬川さんのお家で見た方が、雰囲気的にも綺麗な気がします」

愛理沙は同意するように頷いた。

実際、花火が綺麗に見えるような場所には人が大勢集まるので、風情もへったくれもないのだ。

もっとも、二人っきりの世界を作れるような恋人同士ならば話は別なのだが。

「あと寄れるのは一軒くらいかな。……何食べる?」

「高瀬川さんのお家に帰る途中、クレープ屋さんを見かけた気がします。食べてみたいです」

「良いよ。じゃあ、クレープを買って帰ろうか」

二人は家に帰る途中にある、クレープ屋に足を運んだ。

由弦はブルーベリー、愛理沙はストロベリーのクレープを購入する。

そして当然のように、二人で一口ずつ分け合う。

手を繋ぎ、クレープを食べながら道を歩く。

あまりお行儀の良い行為ではないが、祭りの日だけは、こういうのは許されるのだ。

クレープを食べ終わる頃、丁度家に到着した。

辺りは随分と、暗くなっている。

外門を潜ると……

ワンワンと、再び犬の鳴き声。

暗闇の中で目が光っているのは、少し怖い。

とはいえ、犬は夜目が利くのでやってきたのが由弦と愛理沙だとすぐに理解した。

尻尾を大きく振り、まるで十年ぶりの再会かのような勢いで掛けてくる。

二人は軽く四頭を撫でてあげてから、家の中に入った。

花火が始まるまで残り十分程度を切っていた。

そのため由弦と愛理沙は花火が見える位置に面した縁側に腰を下ろしていた。

ちなみに二人を邪魔してはいけないと勝手に判断した彩弓は、十メートルほど距離を取って座っていた。

別に由弦と愛理沙は恋人同士ではないが……もし本物の恋人同士であれば、由弦は彩弓に感謝しただろう。

気遣わなければならない時は、気遣える子なのだ。

ちなみに彩弓はたった一人で寂しそうかと言えば、決してそんなことはない。

「っきゃ、もうー、こら、舐めない! しょうがない子だなぁー」

スパニッシュ・マスティフとイングリッシュ・マスティフの二頭と、戯れていた。

二頭は最近、子犬を卒業したばかりで、まだまだ甘えたい盛りなのだ。

「あれ、凄いですね」

「どう見ても、肉食動物に襲われている子供だよな」

どちらも「マスティフ」なだけはあり、体の高さは彩弓の半分以上、立ち上がった時は彩弓の身長を超え、そして体重は二倍近くあるのだ。

じゃれつかれるだけでも大変だろう。

そうこうしているうちに、彩弓の体がひっくり返った。

白く長い脚の隙間から、ショーツが覗いている。

妹のパンツなど見ても面白くはないので、由弦は視線を愛理沙へと移した。

「あれ、助けなくても……大丈夫ですか?」

「『待て』と命じれば待つように躾けられているから、安心してくれ。彩弓は好きでやっているんだろうさ」

もっとも、『待て』と言われるのも時間の問題だろう。

そんな風に思っていると、台所から母親の呼ぶ声が聞こえてきた。

「ちょっと、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」

台所まで赴くと、少しだけ甘い匂いがした。

「スイカか」

由弦がそう呟くと、皿を手に持った彩由が頷いた。

大きな皿を由弦に手渡した。

浴衣を汚さないようにという配慮か、小さくサイコロ状に切られている。

「はい、こっちが由弦と愛理沙ちゃんね。彩弓にも、来るように言って。それと犬を触ってたら、先に手を洗わせて」

「分かった」

皿を二枚、縁側まで運ぶ。

到着すると、すでに二頭の犬は彩弓から離れていた。

心なしか、しょぼくれているように見える。

彩弓に怒られたのだろう。

「おい、彩弓」

「あら、兄さん。どうしたの……あ、スイカじゃん」

「これは俺たちのだ。まず手を洗いなさい。それから自分の分は母さんから受け取ってくるんだ」

「はーい」

パタパタと縁側を駆けていく彩弓。

愛犬とはいえ、汚いモノは汚いのだ。

彩弓を見送ってから、由弦は愛理沙のもとへと向かった。

「お待たせ、雪城」

「はい。スイカ、ありがとうございます」

スイカを縁側に置き、爪楊枝を使って二人で摘まむ。

「このスイカ、凄く甘くて美味しいですね」

「そうだな」

スイカの匂いに釣られてきたのか、スパニッシュ・マスティフとイングリッシュ・マスティフの二頭が二人の足元までやってきた。

さらに秋田犬とジャーマン・シェパードの二頭までもが、こちらに対し、尻尾を振りながら近づいてくる。

「な、なんか、狙われてません?」

慌てて皿を手に持ち、胸の高さまで挙げる愛理沙。

四頭に襲われれば、あっという間にスイカを奪われてしまうだろう。

一方で由弦は冷静だった。

「人の食い物と犬の食い物とで、ちゃんと皿は分けているし、その辺は分かっているはずだから、大丈夫だ。それに、そろそろ彩弓か、もしくは母さんが 犬用(・・) 持ってくるだろう」

由弦の言葉通り、彩弓と彩由の二人が皿を持って現れた。

彩弓が持っているのは、おそらくは自分用のスイカ。

一方で彩由は大胆にスイカを四等分にしたものを四つ――つまりスイカ一個分――を大きな皿に入れて、持ち運んできていた。

彩弓は自分の皿を縁側から少し離れた場所に置くと、口に指を入れて、指笛を吹く。

すると由弦たちのもとに集まっていた四頭の犬が、あっという間に彩弓のもとへ駆けて行った。

「はい、待て! 良い子ね。今、あげるから」

彩弓と彩由は二人で犬の前に、大きくカットしたスイカを置く。

それから五秒ほど、待たせる。

「よし」

彩弓が許可を出すと、四頭は一斉にスイカを食べ始めた。

彩弓はそのまま縁側に座り、自分のスイカを食べ始める。

一方で彩由は何故かこちらにウィンクをしてから、台所へと去っていった。

「本当に……良く、躾けられていますね」

「だろ? やっぱり犬が一番だよな」

「いえ、一番は猫だと思います」

「……そこは譲れないのか」

「譲れません」

猫は確かに可愛いけど。

でも、「待て」や「お座り」ができないじゃん。

人間のパートナーはやっぱり、犬だと思うんだよね。

というような持論を由弦が展開しようとした時。

空から大きな音がした。

見上げると、美しい花火が夜空を彩っていた。