軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 “婚約者”と金魚掬い

その後、由弦はイカ焼きを、愛理沙はブドウ飴を購入した。

リンゴ飴とは異なり、小さくて食べやすいということでブドウ飴は愛理沙に大好評だった。

「次は何を食べようか? 俺はそろそろ甘いモノかなと思っているんだけど……」

「あ、金魚掬い……」

愛理沙はか細い声を上げた。

足を止め、じっと屋台を見つめる。

「やってみたい?」

「うん……でも、やったことなくて。難しい、ですよね?」

「何事も挑戦だろう」

そう言って励ますが、愛理沙は随分と迷っている様子だった。

はて? やりたいならやれば良いのではないかと思った由弦だが、すぐに合点がいく。

「飼えないなら、うちで引き取るから気にしなくて良いよ」

「良いんですか?」

「うち、池があるからさ。昔、俺が捕まえた金魚は今でもそこを泳いでいる」

金魚掬いの金魚は元々質が悪いのか、それとも追い回されてストレスをため込んでいるせいか、死にやすい。

が、それを乗り越えた金魚はとにかく、しぶとい。

平気で十年以上、生きるのだ。

由弦が引き取ってくれるということで、安心した愛理沙を連れて、屋台へと向かう由弦。

当初、新たなお客が来たと笑顔で「いらっしゃい」と言った店主だが、しかし来たのが由弦だと知った途端に顔を顰めた。

「っげ! 高瀬川兄か! あんたら 兄妹(きょうだい) は出禁だと、言っただろ!」

今まで訪れた屋台の店主たちはみんな由弦に好意的だったので、この店主の態度は愛理沙にとっては意外だったらしい。

驚いた表情で由弦を見上げる。

「……何かしたんですか?」

「昔、金魚を乱獲し過ぎた」

「何匹くらいですか?」

「妹と合わせて五十匹かな」

「残当ですね」

今にして思えば店を潰す勢いだった。

とはいえ、当時の由弦と彩弓は幼かったのだ。

ちなみに後で由弦の父が金魚のお金を支払ったので、潰れずには済んだ。

「まあまあ……掬うのは俺じゃなくて、彼女です」

由弦はそう言って、愛理沙の肩を叩いた。

愛理沙はペコリと、お辞儀をした。

これには店主も驚きで目を丸くする。

「へぇ……これはまた、随分と美人な子だ。こんな可愛い子なら、大歓迎……と言いたいところだが、実は金魚掬い名人とか、そういうオチはあるまいな?」

「彼女は金魚掬い、未経験者ですよ」

「……それなら、まあ」

取り敢えず納得してくれたようだ。

店主はお金と引き換えに、お椀とポイを愛理沙に渡した。

愛理沙は腕まくりをして、緊張した面持ちで水にポイを沈める。

そして金魚の上で引き揚げるが……

破れてしまった。

「むむ……難しいですね。本当にこんな紙で掬えるんですか?」

「あんたの彼氏とその妹は、その紙でうちを潰しかけたよ」

店主は気分良さそうに言った。

愛理沙が本物の未経験者と分かったからだろう。

彼からすれば、良い鴨だ。

とはいえ、あまりお金を浪費させるわけにもいかない。

「お手本を見せたいので、やらせてもらえませんか? お金、払いますよ」

「あんたはダメだ」

「掬った分は返します。あと、乱獲して弱らせるような真似はしません。……彼女に良いところを見せたいんです。協力してください」

「……しょうがねぇなぁ」

根は気の良い人なので、“彼女”を持ち出せばあっさりと折れてくれた。

もっとも、ここで言う“彼女”とは雪城愛理沙を示す代名詞であり、決してガールフレンドという意味ではない。

だから由弦は決して嘘は言っていないのだ。

由弦はポイを受け取ると、愛理沙にレクチャーを始める。

「垂直に上げたり下げたりすると、紙が破れる。だから水を切るようにして、引き上げる時も入れる時も斜めに動かすんだ」

可能であれば尻尾を乗せないようにするべきだが、初心者の愛理沙には無理だと思われるので、初歩の初歩から教える。

そして目の前で一匹、二匹と実践してみる。

「一緒にやってみようか」

「はい」

愛理沙にポイを持たせ、由弦は彼女の背後に回った。

手を握り、ゆっくりと動かして、金魚を掬う。

これで三匹目。

「ちなみにこれも逃がさないとダメですか?」

「当たり前だろう」

そう言われたので、三匹を放流した。

それから新しいポイを貰い、愛理沙に持たせる。

「やってみて」

「はい……」

いつになく真剣な表情でポイを持ち、ゆっくりと金魚へと近づける。

狙うのは水面近くまで上がってきた個体だ。

金魚の下へポイを潜らせ、掬い挙げる。

紙の上に金魚が乗った。

すかさず由弦はお椀を出すと、愛理沙はその中に金魚を入れた。

「できました、できましたよ!」

嬉しそうに笑う愛理沙。

ニコニコとご機嫌だ。

彼女は普通にしていても十分に美人で可愛らしいが……笑うと普段よりもずっとずっと魅力的な表情を浮かべる。

由弦だけが知っている事実だった。

「ああ、できたな。さすが、雪城だ」

由弦はポンポンと愛理沙の肩を叩いた。

普段は気安く彼女の体に触れるような真似はしないのだが、今日は何となくそういう気分になり、流される形でやってしまった。

一方で愛理沙の方も特に気にすることなく、むしろ嬉しそうに微笑んだ。

「早く、やってくれねぇか」

が、目を逸らしながらぶっきらぼうに言った店主の言葉で我に返った。

愛理沙は僅かに頬を赤らめ、由弦も気まずさから金魚へと視線を向ける。

それから愛理沙は三匹の金魚を掬い、合計五匹を手に入れた。

初めてにしては大戦果だった。