軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話

愛理沙は順当に。

由弦はギリギリになりながらも、無事に修士論文を提出することができた。

内容も問題なく受理され……二人は修了した。

ここから由弦の入社と愛理沙の進級までは約二か月ほど、時間がある。

二人にとっては、人生で最後かもしれない長期休暇だ。

結婚式を挙げるため、新婚旅行のため。

二人は日本に帰国した。

「ただいま」

「お帰りなさい」

由弦が実家に帰ると、真っ先に母である彩由が出迎えてくれた。

彩由は嬉しそうに微笑んでいる。

半年前に一度、帰国しているため数年ぶりの再会というほどのものではないが、久しぶりの息子との再会に喜んでいる様子だ。

「あれ? 婆さんと彩弓は?」

普段なら出迎えてくれる祖母と妹がいないことに由弦は疑問を抱いた。

彩弓もすでに大学生で普段は実家にいないが、しかし今の時期であれば夏季休暇で帰って来ているはずだ。

祖母についても普段は家にいるはず。

そんなに由弦の疑問に彩由は答えた。

「おばあちゃんは病院。彩弓は付き添いね」

「病院……え? どこか悪いのか!?」

「ぎっくり腰よ。……命に別状がある病気とかじゃないわ」

「なんだ……」

彩由の言葉に由弦はホッと胸を撫で下ろした。

幸いなことに由弦の両祖父母は健在だし、まだ体は元気で、頭もはっきりしている。

だが寿命も僅かになっていることは間違いない。

普段、会えないこともあり、帰る時は少しだけ緊張しているのだ。

「父さんは……仕事か。爺さんはいる?」

「離れの方にいるわよ」

一先ず、由弦は祖父に挨拶するために、渡り廊下を渡って別邸へと向かった。

祖父がいそうな場所に当たりを付け、片っ端から部屋のドアを開けていく。

「あ、爺さん」

「む、由弦か」

四つ目の部屋を開けた時。

由弦はようやく、祖父を見つけることができた。

由弦の祖父、高瀬川家先代当主、高瀬川宗玄はタンクトップに半ズボンという非常にラフな格好をしていた。

耳にイヤホンを付け、何やら音楽を聞きながら、ランニングマシンの上を走っていた。

「元気にしてた?」と聞くまでもなく、元気そうな姿に由弦は少しだけ安心した。

「ただいま、今、帰った。……取り込み中?」

「うむ、おかえり。……あと、一キロ、待ってくれ」

「ああ、いいよ。焦らなくて。ゆっくりね。俺も着替えてくるからさ」

「うむ、分かった」

由弦は宗玄に挨拶を済ませると、本邸に戻り、久しぶりの和服に袖を通した。

お手伝いさんが出してくれたお茶を飲んでいると、何やら玄関口が騒がしくなった。

祖母と妹の声が聞こえる。

病院から帰ってきたのだ。

「「ただいま」」

「あぁ、お帰りなさい」

由弦は病院から帰ってきた祖母と妹を出迎えた。

二人は由弦の姿を見ると目を見開いた。

「あ、兄さん!」

「由弦!」

半年ぶりに会った妹、高瀬川彩弓は以前と見た目が随分と変わっていた。

具体的には髪の毛がピンク色になっていた。

ちなみに半年前は水色だった。

大学生活を謳歌しているようだ。

そんな彩弓に支えられているのは、由弦の祖母、高瀬川千和子だ。

ぎっくり腰ということだったが、顔色は良さそうだ。

深刻に健康を害しているというわけでもなさそうだ。

「おかえりなさい」

「おかえりなさい。いつ帰ったの?」

「つい、さっきだよ」

由弦はそう説明しながら、彩弓が片手で持っていた荷物を受け取った。

千和子は彩弓の手を借りながら靴を脱ぎ、家に上がる。

そんな千和子に由弦は問いかける。

「腰、大丈夫?」

「痛いけど……今に始まったことじゃないからねぇ」

千和子がぎっくり腰になることは今回が初めてではない。

心配するなと、千和子は暗にそう言った。

「聞いてよ、兄さん。この人、いい年なのにベンチプレスを上げようとしたんだよ? 何とか言ってやってよ」

「ベンチプレスって……」

彩弓の言葉に由弦は思わず苦笑いする。

脳裏には先ほど、ランニングマシンで走っていた宗玄の姿が浮かんだ。

どうやら、高瀬川家老夫婦の間ではジムトレーニングが流行っているらしい。

「健康に気を遣うのはいいけど、無理しないでね……」

「分かってるよ。曾孫を見るまでは死ねないからね」

千和子の言葉に由弦と彩弓は揃って目を逸らした。

それから三時間後。

由弦の父、高瀬川和弥が仕事から帰宅するのと合わせて夕食となった。

久しぶりの家族全員が揃ってでの食事だ。

「愛理沙さんとは上手く行ってるか?」

「もちろん」

和弥の問いに由弦は大きく頷いた。

もうすぐ結婚式を控えているのだ。

上手く行ってなかったら困る。

「でもね、由弦。女の子は結婚前にはちょっと不安になったりするから。ちゃんと、支えてあげるのよ」

「分かってるよ」

彩由の言葉に由弦は強い口調で答えた。

彩由は最近、由弦が帰るたびに小言を言うようになった。

年のせいだろうか? と由弦は内心で失礼なことを考える。

「しかし由弦がもう、結婚かぁ……昔はあんなに小さかったのにねぇ」

千和子は昔を懐かしむように言った。

宗玄はそんな千和子の言葉に同意するように大きく頷いた。

それからチラっと彩弓に視線を向けた。

「その髪……言わなくとも分かると思うが……」

「はいはい、黒染めしますよ。私もね、兄の結婚式に、花嫁よりも目立ちそうな髪の毛で行くほど、非常識じゃないからね」

彩弓はピンク色に染めた髪を弄りながら、小さく鼻を鳴らした。

きっと日頃から髪が派手過ぎると小言を言われているのだろう。

「ふふっ……」

「兄さん、何かおかしいの?」

「いや、別に」

彩弓に睨まれた由弦は小さく肩を竦めた。

この家族の輪の中に愛理沙が加わる。

そう思うと由弦はとても嬉しい気持ちになった。