軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話

「ところで愛理沙さんって、将来どうするの?」

「ふぇ?」

天香の問いに愛理沙はとぼけた顔で返事をした。。

七人の中で進路が不確定なのは愛理沙だけだ。

天香と千春、由弦と亜夜香は言うまでもなく家を継ぐ。

宗一郎は亜夜香の婿になる予定になっているので、橘家の関連企業に就職する。

聖は家を継ぐ立場ではないが……いずれ独立するにしても、宗一郎と同様に最初は良善寺家の関連企業に就職する。

では、愛理沙の場合はどのような進路が考えられるか。

「由弦さんのお嫁さんです」

天香の問いに愛理沙は何を今更と言う顔で答えた。

そして甘えるように由弦の胸に顔を埋めた。

「あぁー、うん。そうじゃなくてさ……就職するのかなって。……専業主婦?」

天香は苦笑しながら尋ねた。

由弦の将来の収入を考えれば愛理沙が働く必要は薄い。

家事や子育てに集中するというのは選択肢としては十分にアリだ。

むしろ高瀬川家の親戚の中では、それを歓迎する者も少なくないかもしれない。

……女は家にいるべきだと考える、保守的な老人は少なくないのだ。

「んー、専業主婦は、考えてないです」

酔っぱらっているにも関わらず、はっきりとした言葉だった。

それだけ意思は固まっている証拠だ。

「自分のお金、欲しいので」

「まあ、そうね」

愛理沙の言葉に同意するように天香は頷いた。

夫婦で稼いだお金は夫婦共同の財産だ。

だから由弦が稼いだお金は愛理沙のお金でもあるわけだが……気持ちとしては、自分自身で稼いだお金の方が、気安く使える。

少なくとも愛理沙はそういうタイプだ。

「じゃあ、就職するんだ。高瀬川家の関連企業? それとも、お父さんのお仕事手伝うの?」

就職するならほぼ二択だ。

高瀬川家の関連企業に就職するか。

それとも天城家の会社に就職するか。

そのどちらかだろう。

もっとも、天城家は高瀬川家の傘下に入っているので広い意味では前者一つだけとなる。

「うーん……そのどちらからなら、お父さんの会社かなぁとは思ってはいますが……」

「……別の道も考えてるの?」

愛理沙の言葉に天香は首を傾げた。

他の民間企業に就職するという選択肢はあり得ない。

財界での高瀬川家の影響は大きい。

面倒ごとになるのは目に見えているので、特に業種に拘りがなければ高瀬川家と繋がりがある職場の方が良い。

他に考えられるとすれば、公務員か、愛理沙自身が起業するか……。

「今の勉強が楽しいので……研究職に就きたいなと、思っています」

「へぇ、そうなんだ。ちょっと意外」

愛理沙の将来設計に天香は少し驚いた様子を見せた。

しかしすぐに笑みを浮かべた。

「頑張ってね」

「うん……まあ、まだ先の話ですから……」

天香の言葉に愛理沙は自信なさそうに言葉を濁した。

それから今度は自分が聞く番だと言わんばかりに……天香に尋ねた。

「聖さんとはいつ、お付き合いするんですか?」

天香と、そして突然自分の名前を呼ばれた聖はぽかんと口を開けた。

「な、な、何を言ってるの!? と、突然!!」

「い、意味わかんねぇよ!!」

この後、二次会は荒れに荒れた。

その後、三次会ということで一行はカラオケに行き……

深夜まで歌って、飲んでから解散となった。

「ほら、愛理沙。しっかりして……」

「うーん、眠いです……」

呆れ顔の由弦に対し、やや掠れた声で愛理沙は答えた。

酒と歌のせいで喉が枯れてしまったのだ。

足取りが覚束ないのは酒の飲み過ぎと、単純に早朝だから眠いのだろう。

「えへへ、こうしてお家まで送ってもらうのは久しぶりですね」

「あー、うん。そうだね」

愛理沙の言葉に由弦は苦笑した。

普段、二人は大学近くのマンションで暮らしているが、今は冬休みということでそれぞれ実家に帰省している。

愛理沙を愛理沙の家まで送るのは、高校生の時以来になる。

「天香さんとか、千春さんも……あまり変わっていないようで良かったです」

「うーん、まあ、それは良いような、そうでもないような……」

由弦は隙あらばと愛理沙や天香にセクハラをしていた千春を思い出しながら、首を傾げた。

変わらないといよりは成長していないが正しい気もする。

「ところで、愛理沙」

「んん……なんですか?」

「研究職って言ってたけど……大学教授とか、目指すのか?」

由弦は愛理沙に尋ねた。

実のところ愛理沙が天香に語った内容は、由弦も初耳だったのだ。

てっきり、高瀬川家の関連企業に勤めるのだと考えていた。

「そうですねぇ……ダメ、ですか?」

「いや、全く。でも……そんなに好きなのかなって。勉強」

確かに愛理沙の成績はかなり良い方だ。

レポートなども高評価を貰っているらしい。

とはいえ、学問の道に歩むほど大好きなようにも見えなかった。

「好きですよ」

「……そうなんだ」

初めて知った。

そんな複雑そうな顔をする由弦に愛理沙は笑みを浮かべた。

「でも、どちらかというと……自分で何かを見つけたい、という感じです」

「……というと?」

「自分の力で、自分の得意なところで、成果を出したい……そんな感じです」

「そういうことか」

愛理沙の言葉に由弦はなるほどと頷いた。

由弦のコネで就職するのは簡単だが、愛理沙としては自分自身の力で何かを成したいということだ。

そして今、一番好きで、興味があって、得意な分野を極めてみたい。

そんな動機だ。

「軽すぎますかね?」

「みんなそんなものじゃないかな」

得意だから。楽そうだから。何となく好き。親がそうだったから。

多くの人がその職業に就く理由は、大抵はその程度のものだ。

特別なエピソードや想いがある人の方が珍しい。

「応援してる」

「ありがとうございます」

愛理沙は嬉しそうに微笑んだ。