作品タイトル不明
第28話
透き通るように白く滑らかな肌に、由弦はスポンジを押し立てた。
そして優しく、割れ物を扱うように擦る。
「どう?」
「もうちょっと強くてもいいです」
「こうかな」
「はい、いい感じです」
由弦は丁寧に愛理沙の小さな背中の汚れを――と言っても汚れているようには見えないが――落としていく。
面積が狭いため、背中はすぐに洗い終えた。
「じゃあ、次は……手を上げてもらっていいかな?」
「こうですか?」
愛理沙が万歳したのを確認すると、由弦は彼女の腋にスポンジを当てた。
すると愛理沙は体を小さく震わせた。
「ちょ、ちょっと……く、擽ったいです……」
「我慢してくれ」
擽ったそうに愛理沙は身を捩じらせる。
愛理沙はくすぐったくて辛いのかもしれないが、由弦も変な気持ちになりそうなのを堪えるのに必死なので、精神的な余裕はない。
「終わった。次は……」
「前、お願いします」
愛理沙は小さな声でそう言った。
由弦は頷くと、緊張しながらも腕を愛理沙の体の前面に回した。
鎖骨の少し下にスポンジを置いた。
首回りを擦ってから、その下にある山に沿って、スポンジを走らせる。
「んっ……」
頂点を擦るのと同時に、愛理沙の口元から僅かな声が漏れた。
由弦はそれを聞かなかったフリをしながら、愛理沙に尋ねる。
「こんな感じでいいかな?」
「はい。……谷間と胸の下も、お願いします。汚れが溜まりやすいので」
由弦は愛理沙に言われるまま、谷間にスポンジを滑り込ませた。
それから胸を下から持ち上げ、その下を綺麗に洗う。
「由弦さん……」
「どうした?」
「……随分と丁寧に洗われるんですね」
胸を触り過ぎではないか。
そう指摘された由弦は慌てて手を離した。
「え、あっ、済まない」
「ふふ……冗談です」
由弦の反応が面白かったのか、愛理沙は小さく笑った。
「由弦さん、大好きですものね」
「いや、別にそういう意図があったわけじゃ……」
汚れが溜まりやすい。
そう言われたから丁寧に洗っていただけであって、胸が触りたかったわけではない。
「大丈夫ですよ。怒ってないですから」
しかし由弦のそんな言葉は言い訳に聞こえたらしい。
由弦は誤解を解きたかったが……これ以上言葉を重ねても、余計に言い訳らしく聞こえると考え、口を噤むことにした。
胸から腹部へ、キュッと引き締まったウェストと、可愛らしいお臍を中心にスポンジを動かす。
次に由弦は愛理沙の太腿にスポンジを走らせた。
「えっ……?」
これには少し驚いたのか、愛理沙は困惑の声を上げた。
由弦はそんな愛理沙に何食わぬ顔をした。
「どうしたんだ、愛理沙」
「……いえ、何でもないです」
上側と外側の側面を洗う。
それから由弦は先ほど思い浮かんだ“仕返し”を実行することにした。
「足、開いて」
「え? ……そ、その、後は自分で……」
「早く開いて」
「えっと……」
「開かないと洗えないだろう?」
由弦は愛理沙の耳元に囁くようにそう言った。
鏡に映る愛理沙は戸惑いの色を見せていたが、最終的に顔を俯かせた。
「は、はい……」
愛理沙は手で大事なところを覆い隠しながら、足を小さく開いた。
由弦はそんな愛理沙の内股を優しく、撫でるように洗っていく。
「そ、その、由弦さん。こ、これ以上は……」
足をモジモジさせながら、愛理沙はそう言った。
嫌そうな表情……ではない。
手を退けてと、そう言えば退けてくれそうな気配がそこにはあった。
しかしこれ以上は由弦の理性が持たない。
「じゃあ、後は自分でやって」
「……はい」
愛理沙は少し残念そうな表情を浮かべつつも、スポンジを受け取った。
それから残った場所を丁寧に洗っていく。
「終わりました」
シャワーで泡を洗い流してから、愛理沙は立ち上がった。
「湯舟、浸かろうか」
「はい」
二人は向かい合わせて湯舟に入った。
愛理沙は恥ずかしそうに両手で局部を隠している。
当初は由弦も足を閉じ、隠してはいたのだが……
途中から「隠すのは男らしくない」という考えに至り、堂々と足を開いた。
すると愛理沙は目を大きく見開いた。
気まずそうに目を逸らす。
「湯加減はどうかな? 俺は丁度良いけど」
「そ、そうですね。私も丁度良いと思います……」
愛理沙は顔を逸らしながらも、こちらをチラチラと見てくる。
恥ずかしいけど、気になる。
そんな表情だ。
「落ち着かない?」
「そ、そう、ですね」
「じゃあ、テレビでも見る?」
由弦はそう言って愛理沙の背後に設置されているスクリーンを指さした。
非常に珍しいことではあるが、由弦の家の風呂にはテレビが設置されているのだ。
愛理沙は少しホッとした表情を浮かべると、後ろを振り向く。
「これ、少し気になってました。……どうやって操作します?」
「リモコンがあるんだ」
「きゃっ!」
由弦がそう言って立ち上がると、愛理沙は顔を両手で隠した。
そして指の隙間から由弦を睨みつける。
「きゅ、急に立たないでください! び、びっくりするじゃないですか!!」
「いい加減、慣れてもいいんじゃないか?」
由弦は苦笑しながらも、浴室の棚の上に置いてあるリモコンを手に取った。
当然、リモコンも防水性だ。
「放送中のテレビ番組と……あと、ネットにも繋がるから、動画サイトも見れる。何か見たいもの、ある?」
「……猫ちゃんの動画とか、見れますか?」
「見れるよ」
由弦はリモコンを操作し、動画サイトにアクセスした。
検索機能を使い、猫の動画を選択する。
すると画面に可愛らしい子猫の映像が流れ始めた。
「わぁ……!」
愛理沙は嬉しそうにテレビを見始めた。
食い入るように子猫の姿を見つめる。
その様子は映像に夢中になっているというよりも、意識を逸らそうとしているようにも見えた。
「愛理沙」
「ひゃう!」
そんな愛理沙を由弦は後ろから抱きしめた。
愛理沙は背筋をビクっと大きく伸ばした。
「もう少し離れて見よう」
「は、はい。そうですね」
由弦は愛理沙を抱きしめたまま、ゆっくりと後ろに下がった。
テレビからできるだけ距離を取る。
「あ、あの、由弦さん」
「どうした、愛理沙」
「その、お風呂、広いので……と、隣でもいいんじゃないですか?」
無理にくっ付かなくても良いのではないか。
愛理沙はそう由弦に提案した。
由弦はそんな愛理沙に逆に問いかける。
「抱きしめられるのは嫌?」
「い、嫌じゃないですけれど……」
「なら、いいじゃないか。ほら……」
「きゃっ!」
由弦はそう言って愛理沙を軽く持ち上げた。
そして自分の膝の上に座らせた。
「そ、その、由弦さん。あ、当たってるというか……」
「俺は気にしない」
「そ、そうではなくて、私が……」
「ほら、テレビを見て」
「も、もう……」
愛理沙は観念したのか、再びテレビを見始めた。
由弦は愛理沙が無抵抗になったことをいいことに、スキンシップを始めた。
髪を撫でたり、胸に軽く触れてみたり、耳元で愛を囁いてみたり。
そのたびに愛理沙は小さく体を震わせる。
段々と愛理沙の吐息に熱がこもり始める。
「……由弦、さん」
「愛理沙……」
真っ赤に逆上せた顔で、愛理沙は由弦を見上げた。
由弦はそんな愛理沙の唇を塞いだ。
深く長い接吻。
「由弦さん。私……」
「上がってから……続きする?」
由弦がそう尋ねると、愛理沙は小さく頷いた。
風呂から上がると、着替えを終えると、二人は由弦の部屋に布団を二枚引いた。
「……寝るには少し早いですね」
愛理沙は時計をチラっと見てからそう言った。
時刻は二十一時半。
普段の二人の就寝時間を考えると、随分と早い。
「夜は長い方がいいだろう?」
「ふふ、そうですね」
由弦の言葉に愛理沙は口に手を当てて笑った。
「と、ところで……由弦さん。ここまで来て……言い出すのが、遅いのかもしれませんけれど……」
「どうしたの?」
「そ、その、持ってますか? わ、私は持って来てませんが……」
愛理沙は恥ずかしそうに、しかし少し不安気な表情で由弦にそう尋ねた。
由弦は思わず首を傾げたが、すぐに手を打った。
「あぁ……大丈夫。あるよ」
由弦はそう言って懐からそれを取り出して見せた。
愛理沙の顔が増々赤くなる。
「そ、そうですか。良かったです……んっ」
安堵の表情を浮かべた愛理沙の唇を、由弦は強引に奪った。
強く抱きしめ、手を握り、押し倒す。
「愛理沙……最後の確認だけど、大丈夫だよね?」
由弦がそう尋ねると、愛理沙は顔を背けた。
「今更……それは無粋です」
「そうだね。すまなかった」
由弦はもう一度、愛理沙の唇を奪う。
「んっ……由弦さん。その……」
「なに?」
愛理沙は真っ赤な顔で呟くように言った。
「優しく……お願いします」
「もちろん……!」
二人は蜂蜜のように甘い夜を過ごした。
翌朝。
「由弦さん。……起きてください」
「うん……愛理沙?」
由弦は愛理沙の声で目を醒ました。
目を開けると、和服を羽織っただけの姿の婚約者が覗き込んでいた。
「おはようございます」
「あぁ……おはよう」
朝の挨拶を交わす。
そして由弦は愛理沙を抱き寄せると、接吻した。
突然の接吻に驚いたのか、愛理沙は目を白黒させた。
「ゆ、由弦さん……!? も、もう、明るいですよ?」
「……でも、残ってるから」
「そ、それは……」
「嫌かな?」
由弦がそう尋ねると、愛理沙は小さく首を横に振った。
「嫌じゃ……ないです」
「なら、決まりだ」
こうして二人は予備校の朝の授業に遅刻した。