作品タイトル不明
第26話
「さて……どうしようか」
「そ、そうですね。……どうしましょうか」
二人は脱衣所に入ると、そんなことを言い始めた。
どうするも何も、答えは一つだ。
「と、とりあえず……脱ごうか」
「そう、ですね!」
由弦の言葉に愛理沙は頷いた。
しかし愛理沙は一向に服を脱ぐ様子を見せない。
じっと、由弦を見つめている。
「どうしたの?」
「……脱がしていただけませんか?」
「……え?」
愛理沙の言葉に由弦は思わず声を上げた。
しかし愛理沙はじっと由弦を見つめる。
「……ダメでしょうか?」
「いや……ダメじゃない。少し驚いただけだ……」
由弦はそう答えると、愛理沙が着ている和服の帯に手を掛けた。
帯が解け、和服が開くと……愛理沙の白い肌が露わになった。
「じゃあ……脱がすよ」
「……はい」
由弦は和服を掴み、下に下げるようにして、愛理沙の肩と腕から袖を引き抜いた。
黒い下着だけの姿になる。
「……似合ってるね」
由弦がそう言うと、愛理沙は恥ずかしそうに顔を背けた。
「きゅ、急に何を言うんですか……」
「い、いや、言った方が良いのかなと思って……ダメだった?」
「……ダメではないですけれども」
愛理沙はそう言って頬を膨らませた。
怒っているというよりは、恥ずかしさを誤魔化しているように見えた。
「じゃあ、次は愛理沙の番だね」
「……私の番?」
「……順番に脱がし合うのかなと」
由弦は頬を掻きながら、キョトンとした表情の愛理沙にそう言った。
「えっと……違った?」
「あ、いえ……そういう趣旨のつもりはありませんでしたが、大丈夫です」
愛理沙はそう言って頷くと、由弦の足元にしゃがみ込んだ。
帯に手を掛けて、解く。
そして立ち上がり、由弦の肩に手を置いた。
「……脱がしますね」
「ああ、頼む」
由弦の言葉に愛理沙は応じるように頷くと、和服を下へと引き下げた。
由弦は和服から袖を引き抜いた。
お互い下着だけの姿になった。
「……」
「……」
少しの沈黙の後、由弦は口を開いた。
「次は俺の番かな?」
しかし愛理沙は慌てた様子で手を前に突き出し、由弦を制した。
「ちょ、ま、待ってください!」
「えっと……」
「こ、心の準備が……」
愛理沙は顔を真っ赤にしながらそう言った。
恥ずかしいのはもちろん、酷く緊張しているようだった。
「……やめにしようか?」
由弦としては愛理沙と一緒に入浴したかった。
しかし愛理沙を傷つけたり、負担を掛けるような事態は望むところではない。
それ故の提案だったが、愛理沙は大きく首を左右に振った。
「こ、ここまで来て、やめられません」
愛理沙は強い口調でそう言った。
「す、少しだけ……時間をください」
心の準備をするための時間が欲しいようだった。
しかしながらいつまでも下着姿でいるのは、少し寒い。
であればと、由弦は別の提案をすることにした。
「……じゃあ、俺から先に脱がしてもらっていいかな?」
「な、なるほど。分かりました」
愛理沙は頷くと、由弦の肌着に手を掛けた。
そして由弦を見つめた。
「腕を前に突き出していただけますか?」
「こうかな?」
「はい」
由弦が手を前に突き出すと、愛理沙は肌着を上へと上げ始めた。
そしてひっくり返すような形で前へと持って行き、由弦の腕から引き抜いた。
「……下もお願いしていいかな?」
由弦は愛理沙にそう尋ねた。
すると愛理沙は首を大きく、何度も左右に振った。
「だ、ダメ……ダメです!」
「じゃあ、君が脱ぐ?」
由弦がそう尋ねると、愛理沙はしばらくの沈黙の後、小さく頷いた。
「……お願いします」
「分かった」
由弦は腕を愛理沙の背中側に回し、ブラジャー……そのホックに手を伸ばした。
しかし緊張で手が震え、上手く外せない。
「……できますか?」
「あ、あぁ! も、もちろん……す、少し待ってくれ……!」
「逃げたりはしないので、落ち着いてください」
慌てている人間を見ていると、冷静になる現象が発生しているのだろか?
慌てる由弦とは対照的に愛理沙の声は意外と冷静だった。
幸いにもそれほど手間取ることなく、すぐにカチッと音がしてホックが外れた。
それから肩紐を一つずつ、丁寧に外す。
カップを胸から離すと、愛理沙の美しい乳房が露わになる。
支えを失っても、それは形を崩すことなく、ツンと上を向いていた。
「ん……」
愛理沙は顔を真っ赤にし、顔を横に背ける。
「次は……君が脱がしてくれるということでいいかな?」
「ええ……もちろん」
愛理沙は頷くと、由弦の下着に手を掛けた。
「お、下ろしますから……」
「……ああ」
由弦の返事を聞き、愛理沙は由弦の下着を下へと下ろした。
由弦は自分の下半身が外気に触れるのを感じた。
「あー、その、愛理沙。……大丈夫?」
片手で顔を覆う愛理沙に由弦は尋ねた。
愛理沙はそれに答えず、ゆっくりと距離を取り、立ち上がった。
そして僅かに指の隙間を開ける。
そこから翡翠色の瞳でこちらを伺う。
「す、すみません。そ、想像と違って……びっくりしてしまいました」
「……想像と?」
「さっき、見たのと違ったから……」
さっき、見たの。
というのは、ビデオに映っていた由弦のことだろう。
赤子の時と今では、全く違うのは当然のことだ。
「そ、そうか。……えーっと、愛理沙」
「……はい」
「いつまでも裸は寒いから……いいかな?」
「……ど、どうぞ」
愛理沙は顔を背けながら、小さく頷いた。
許可を得た由弦は愛理沙のショーツに手を掛けた。
慎重に下へと、引き下げた。
これでお互い、一糸まとわぬ姿になった。
「……」
「……」
愛理沙は恥ずかしそうに顔を背けつつも、しかし手で大事なところを隠すような真似はしなかった。
落ち着かない様子で両手を開いたり閉じたりしている。
一方で由弦は露骨に目を逸らすのも変だと思いつつも、凝視するわけにも行かず、結果として目を右往左往させて、余計に不審な動きをしてしまっていた。
「え、えっと……愛理沙」
「……はい」
「月並みの言葉になってしまうかもしれないけれど……」
由弦は頬を掻きながら言った。
「……とても綺麗だよ」
「……ありがとうございます」
由弦の言葉に愛理沙は少しだけ嬉しそうに頬を緩めた。
「え、えっと……その、由弦さんも……カッコいいと、あぁ、いや、違う……いえ、違わないんですけれども……」
愛理沙も同様に由弦を褒めようとして、何度も言葉を選んだ。
そして最終的には由弦を見つめて言った。
「とても逞しいと……思います」
「ありがとう」
そして二人は揃って浴室へと、視線を向けた。
そして互いに見つめ合い、頷き合う。
――入ろう。