軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話

「御夕飯の前に……申し訳ありません」

入浴を終え、風呂に入り終わった愛理沙はペコペコと頭を下げた。

居間には由弦を含め、全員が揃っており、テーブルの上には料理が並んでいた。

「いえ、大丈夫よ。丁度今、出来上がったところだし……それよりも、ごめんなさいね。うちの犬が……」

由弦の母、彩由もまた申し訳なさそうに言った。

汚れてしまった愛理沙の服は、洗濯に出されている。

「いえ、油断していた私が悪いですから……」

愛理沙は再度、頭を下げてから空いていた席……由弦の隣に座った。

それと同時に家政婦がメインとなる、最後の料理……刺身を持ってきた。

「では、食事にしようか」

宗玄のそんな言葉と共に、夕食が始まった。

由弦が食べ始めたのを確認してから、愛理沙も箸を取る。

煮魚の身を解し、口に運ぶ。

「美味しい……これはキンキですか?」

愛理沙は彩由に対してそう尋ねた。

すると彩由はバツの悪そうな表情を浮かべた。

「え? あっ……えっと……」

「……キンキで合ってます、奥様」

近くにいた家政婦が小声で彩由に耳打ちした。

すると彩由はもっともらしい表情で頷いた。

「そう、キンキよ」

「そ、そうですか。……なるほど」

普段は彩由は家政婦が料理を作っている。

という話を思い出した愛理沙は、苦笑しながら頷いた。

「愛理沙。刺身、取ろうか?」

隣に座っていた由弦が愛理沙にそう尋ねた。

中央に置かれている刺身は、愛理沙の位置からだと少し取り辛い。

また、大皿に盛られている料理に箸を運ぶのは、少し遠慮してしまう気持ちがあるのは否めない。

たとえ相手が自分を客人として歓迎してくれているとしてもだ。

そのため由弦の申し出は愛理沙にとっては非常にありがたいものだった。

「では、お言葉に甘えて」

「何切れずつにする?」

「とりあえず一切れずつでお願いします」

愛理沙がそう言うと、由弦は取り皿に刺身を盛ってくれた。

一種類、一切れずつ。合計、五切れ。

これくらいならば食べ切ることができる。

「いつも、こんなに豪華じゃ……ないですよね?」

愛理沙は由弦にそう尋ねた。

愛理沙の言葉に由弦は苦笑しながら頷いた。

「今日は君が来て……初日だからね。毎日、食べたい?」

「それはさすがに気後れしてしまいますから……」

由弦の冗談半分の言葉に愛理沙は苦笑した。

「あぁ……ところで愛理沙さんは、どんな食べ物が好きかな?」

由弦と愛理沙の会話が終わったのを見計らったようなタイミングで、宗玄が遠慮がちに尋ねて来た。

愛理沙と、孫の婚約者と、若い子と喋りたくてうずうずしている。

そんな表情だった。

「そうですね……」

愛理沙としても婚約者の祖父と仲良くできるチャンスだ。

笑みを浮かべながら、愛理沙は由弦の祖父との会話を始めた。

そして小一時間程が経過し……

「それでな、ワシはGHQのやつらに……」

「……は、はぁ」

ちょっと長くなってきた。

と、愛理沙が感じ始めてきた頃のことだった。

「愛理沙。そろそろ明日の準備、しないか?」

由弦が会話に割り込むようにそう切り出した。

すると宗玄は怪訝そうな表情を浮かべた。

「……明日?」

「明日は俺も愛理沙も、春期講習に行くんだよ。……忘れてた?」

由弦が苦笑しながら宗玄にそう言うと、大袈裟な仕草で大きく頷いた。

「まさか、覚えておるよ。そこまで呆けてないわ。……あぁ、うん。そうだな。となると、明日は早いか。今日はここまでにしよう。……二人とも、早く寝るように」

そう言ってから宗玄は何かを誤魔化すように咳払いをした。

夕食後。

由弦の部屋で二人切りになったタイミングで、由弦は申し訳なさそうな表情で愛理沙に頭を下げた。

「長くなってすまない。……長話はやめてくれと言っておいたんだが」

「いえ、大変興味深い話でした」

恥ずかしそうにする由弦に対して愛理沙はそう返した。

実際、政界財界の裏まで知り尽くしている老人の話は、面白いエピソードも多かった。

「そう言ってくれるとありがたいが、それは爺さんには言わない方が良い」

「えっと……それは?」

「君がさっきの数倍長い話を聞きたいなら別だが……」

「……ご忠告、ありがとうございます」

由弦の言葉に愛理沙は真剣に頷いた。

それから二人はイチャイチャしながら、翌朝から始まる春期講習の準備を進めた。

そして二十三時を回ったタイミングで、お互い寝ることにした。

「じゃあ、愛理沙。トイレは出てすぐのところにあるから」

「はい、ありがとうございます」

「怖かったら電話してくれ。すぐに向かう」

「……今回は大丈夫ですから」

愛理沙はムッとした表情でそう言い返した。

すると由弦は愉快そうに笑った。

「ところで……愛理沙」

「はい?」

「三日後に……うちの両親は旅行に行くからさ」

「はい。……そう聞いてます」

今年、由弦は行かないが……

しかし由弦以外の家族は例年通り、海外旅行に出掛ける。

それは愛理沙も事前に聞いていたことだった。

そもそも、由弦が愛理沙を誘った理由が「一人だと寂しいから」であったはずだ。

「それがどうかしましたか?」

今更何を?

と思いながら愛理沙は尋ねた。

「うん。まあ、つまりだ」

由弦はそう言いながら、顔を愛理沙の耳元に近づけてきた。

「……そうなったら、一緒に寝れるから」

そして、そう囁いた。

愛理沙はその言葉に少しだけ顔が熱くなるのを感じた。

「……はい。楽しみにしています」

赤らんだ顔で愛理沙はそう答えた。