軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話

「え、えぇ!?」

由弦が思わず驚きの声を上げると、愛理沙は少しだけ後悔した様子で目を泳がせた。

「え、えっと……い、嫌でしたか?」

愛理沙は悲しそうに目を伏せた。

由弦は慌てて首を左右に振った。

「まさか! そんなことはない!! ただ、その……」

由弦は頭の中で何度も言葉や言い方を吟味してから、愛理沙に尋ねた。

「食べるというのは……具体的に、その、どんな風に?」

直球で考えついたのは、「直接口をつける」という選択肢だ。

何度も接吻を交わした中なのだから、皮膚に――胸元とはいえ――接吻することに大きな躊躇はない。

少なくとも愛理沙が許可をしてくれるなら、だが。

しかし愛理沙がそれを想定していなかったのなら大変なことになる。

嫌われることはないかもしれないが、顔は叩かれるかもしれない。

「え、えっと……そ、そうですね」

考えていなかったのか。

それとも口にするのは恥ずかしいことだったのか。

愛理沙は少しだけ考えた様子を見せてから、由弦に答えた。

「何でも……いいですよ? 好きな方法で……食べてください」

「そ、そうか。じゃあ……」

由弦は少しだけ考えてから、愛理沙の胸元に手を伸ばした。

胸に触れると同時に、柔らかい感触と体温が指先に伝わってきた。

そのまま指で溶けたチョコレートを拭い……

口に運んだ。

「ど、どうですか?」

「ど、どうもって……チョコレートの味、かな?」

「で、ですよね!?」

どういうわけか、気まずい雰囲気になってしまった。

由弦は視線を宙に彷徨わせてから、愛理沙の方へと向けた。

すると愛理沙は姿勢を正した。

「えっと……愛理沙」

「は、はい」

「……食べようか」

「そ、そうですね!」

二人はいそいそと、残りのチョコレートフォンデュを食べ始めた。

「美味しかったですね」

食後。

洗い終えた器械を拭きながら愛理沙は上機嫌に言った。

なお、すでに着替えを終えているため、例のリボン姿ではない。

「あぁ……」

愛理沙の言葉に由弦は曖昧な返事をした。

由弦の態度に愛理沙は怪訝そうな表情を浮かべた。

「……あまり美味しくなかったですか?」

「いや、美味しかったよ」

由弦はそう言って首を左右に振った。

美味しかったのは間違いない。

しかし全くの留保を付けずにそう言えるかと言えば、そうではない。

「後半は少し……辛かったかなぁ、と」

由弦は正直に答えることにした。

チョコレートの味に途中から飽きてしまったのだ。

「ですよね」

由弦の回答に愛理沙は苦笑しながらそう言った。

由弦は思わず首を傾げた。

「愛理沙も?」

「いえ、私は甘いのが好きなので。飽きませんでしたけれど……由弦さん、辛そうだったので」

「そ、そうか……」

どうやら顔に出ていたようだ。

食べる速度も後半は遅くなっていたので、露骨だったのかもしれない。

「それに私は飽きませんでしたが、ずっと同じような味ですからね。飽きてしまうのは、おかしくないとは思います。今後の課題ですね」

「課題ね。……何か改善案があるのか?」

少しだけ興味を抱いた由弦が尋ねると、愛理沙は頷いた。

「パッとは思い浮かぶ範囲だと、香辛料を用意するとかですね」

「香辛料? チョコレートに?」

「シナモンとかナツメグとか……胡椒とかも意外と合うんですよ。他にも食材の種類を増やすとか、別の料理を用意するとか……」

パッと思い浮かぶ範囲。

と言いながらも、愛理沙はアイデアを複数提示してみせた。

「ちなみに由弦さんはどう思いますか?」

「そうだなぁ……個人的には大人数で、パーティーとかで食べたいなと感じた」

チョコレートフォンデュそのものは美味しい。

ただ、これだけで夕食を済ませようとしたのが悪い。

由弦はそう考えていた。

「パーティーですか。……結婚式、とか?」

「ま、まあ、確かに結婚式に大きなチョコレートフォンデュの器械があったら、盛り上がりそうではあるけど……設置したい?」

由弦が苦笑しながら尋ねると、愛理沙は慌てて首を左右に振った。

「え、いや、す、すみません! 私たちの話のつもりは……なかったです」

「あぁ、そうか。……あるなら、欲しい?」

「それは……素敵だとは思いますが」

愛理沙はほんのりと頬を赤らめながら頷いた。

由弦は大きく頷いた。

「覚えて置くことにする」

「それは……ありがとうございます。……ちなみに聞いてもよろしいでしょうか?」

「何なりと」

「由弦さんは結婚式……どんな風にしたいですか?」

「……どんな風に、とは?」

「ほら、神前式とかプロテスタント式とか……人を何人集めるとか、逆に写真だけで済ませるとか。挙げない人もいますよね? 今のうちに聞いてみたいなと……」

「確かに考えを擦り合わせるのは重要だ」

愛理沙の言葉に由弦は大きく頷いた。

世の中には結婚直前になって、結婚式のやり方で揉めるカップルも少なくないと聞く。

もっとも、由弦は自分たちのケースについてはあまり心配していなかったが……

今のうちに考えを伝えておく必要はある。

「プロテスタント式でやる。何人呼ぶかは分からないが……百人以上は呼ぶだろう」

「……意外と派手なのがお好きなんですね」

「いや、別に俺の趣味じゃない」

由弦は即座に愛理沙の言葉を否定した。

すると愛理沙は首を傾げた。

「由弦さんの趣味じゃないということは……お父様の? それともお爺様の?」

「いや、別に二人の趣味では……いや、爺さんは派手なのは好きだから趣味かもしれんが、そういうわけじゃない」

「それでは……」

「高瀬川家の次期当主の結婚式だから、それなりに盛大にやらないといけない。そういう意味。……もうしわけないが、場所も多分選べない」

由弦と愛理沙の意見が全く反映されないということはないが……

由弦の父や祖父、ついでに愛理沙の養父の強い意向によって、内容は大きく左右される。

そう言う意味で自由度は高くはない。

「そ、そうなんですか。な、なるほど……そ、そうですよね……」

由弦の言葉に愛理沙は少し落ち込んだ様子を見せた。

受け入れてくれないわけではなさそうだが……

しかし愛理沙にもやりたい結婚式があったのだろう。

女の子だからというわけではないが、少なくとも由弦よりは強い気持ちがありそうだ。

結婚をある程度政治的な物であると割り切っている由弦とは異なり、愛理沙が自由恋愛としての側面を強く求めていることは……

修学旅行の時にすでに分かっていた。

「大丈夫です。その、思うところがないわけではないですが……」

「そう思いつめないでくれ。二回やればいいだけの話だから」

由弦はそう言って愛理沙の肩を叩いた。

すると愛理沙は驚いた様子で顔を挙げた。

「……二回?」

「ああ。派手なのが嫌なら、控えめなやつをもう一回やればいい。順番が気になるなら……愛理沙がやりたいのを最初にやってもいいんじゃないか?」

「……結婚式って何回もやるものですか?」

「うちの両親は三回やったらしいぞ。日本で二回、海外で一回」

「……」

愛理沙はポカンと口を開けた。

その発想はなかった。そんな表情だ。

「三回じゃ足りない? さすがに五回も六回もってのは疲れそうだし、勘弁して欲しいけど……」

由弦は冗談半分で愛理沙にそう尋ねた。

すると愛理沙は大きく首を左右に振った。

「い、いえ、三回もあれば十分です。じゃあ、私がやりたいのと、由弦さんがやりたいので……」

「俺の希望は君の希望だ」

由弦は結婚式そのものに希望はなかった。

記念写真さえあれば十分だと考えている。

「……そうですか? じゃあ、その、考えておきます」

愛理沙は嬉しそうに微笑んだ。