軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話

「そう言えばチョコレートは? 買ってないけど……」

「それについては事前に用意してあります」

愛理沙はそう言うとリュックサックから板チョコと生クリームを取り出した。

手作りチョコレートを作成した際にまとめて買っておいたようだ。

「私はチョコレートを溶かしておきますので、由弦さんは具材を切って、串に刺してください。……できますよね?」

愛理沙の言葉に由弦は頷いた。

早速、台所へと向かい、具材を切り、串に刺し、大皿に盛った。

それが終わる頃にはすでに愛理沙はチョコレートを溶かし終えていたようで、小さなポットの中にはドロドロに溶けた茶色い液体が入っていた。

「では、早速食べましょう」

「そうだね」

由弦は少しだけ悩んでから、もっとも無難そうなバナナを手に取った。

チョコレートを控えめにつけてから、口に運ぶ。

「チョコバナナと同じ……と思っていたけど、ちょっと違う感じがするな」

チョコバナナのチョコレートは冷えて固まっているが、こちらは温かい状態で溶けている。

それが食感と味の違いをもたらしていた。

「うーん、美味しいです……!」

愛理沙もまた、頬を手に当てて嬉しそうに微笑んでいた。

彼女が食べたのはマシュマロだ。

さすがにマシュマロにチョコレートを付けるのは甘すぎるのではないかと思って躊躇していた由弦だが、目の前に美味しそうに食べている人を見ると、試したくなる。

「……うん」

そして試してみた由弦は、少しだけ後悔した。

甘さと甘さの足し算。

甘味の暴力だ。

甘い物が好きな人には堪らないかもしれないが、由弦には少しくどく感じた。

「……珈琲が旨い」

由弦は珈琲を飲みながら呟いた。

ドリンクに水や緑茶ではなく、珈琲を選んだのはベストだったようだ。

珈琲で甘い味を洗い流した由弦は、次に食べる物を選ぶ。

甘い物と甘い物の組み合わせはあまり良くないと感じた由弦が次に選んだのは、イチゴだった。

「うん、これは正解だ」

イチゴの酸味とチョコレートの甘味が噛み合っていた。

これはベストの選択だったようだ。

その後も由弦は果物やパン、スナック菓子など、いろいろな具材を試してみる。

味は全部チョコレートなのだからいつか飽きてしまうのではないか。

そう思っていたのだが、意外にも飽きが来ない。

酸味や塩味など、チョコレートと組み合わせる味が異なるからだろう。

「これは結構楽しいね」

由弦がそう言うと、愛理沙は嬉しそうに微笑んだ。

「そう言ってもらえると嬉しいです。チョコレートフォンデュ、ずっとやってみたかったんです!」

「……これが初めて?」

「一人でやるようなものじゃないじゃないですか」

確かにそれもそうだと、由弦は頷いた。

「いろんな具材を持ち寄ってみんなで……というのも、面白そうだ」

「いいですね! 闇鍋みたいな感じで!」

「……うん、そうだね」

楽しそうに愛理沙は目を輝かせた。

一方で由弦は亜夜香などは絶対に悪乗りするだろうと思い、自分で提案しておきながら後ろ向きな気持ちになった。

「ところで、由弦さん。由弦さん」

「どうした?」

「はい、あーん」

愛理沙はそう言いながらチョコレートに潜らせたマシュマロを由弦の口元へ運んできた。

マシュマロとチョコレートの組み合わせは、由弦個人としては好きではない。

が、ここで嫌だというほど由弦は空気が読めない男ではない。

口を開け、マシュマロを受け入れた。

「どうですか?」

「うん……甘い」

「良かったです!」

どうやら愛理沙にとっては甘い=美味しいという意味になるようだった。

由弦は珈琲を口にしてから、バナナを手に取った。

「……愛理沙。お返しだ」

「ありがとうございます」

愛理沙の口元に由弦はチョコレートを付けたバナナを運んだ。

パクっと、愛理沙はそれを受け取り、咀嚼する。

「美味しいです。……私もお返し、しますね」

愛理沙はそう言うと再びマシュマロを手に取った。

「待ってくれ、愛理沙」

ここで由弦は愛理沙に待ったを掛けた。

由弦は空気が読める男ではあるが、そのためだけに苦手な物を何度も食べられる人間でもなかった。

「マシュマロは少し……甘すぎる。別のにしてくれないかな?」

「そうですか? 美味しいのに……」

変な人だ。

と言いたそうに愛理沙は首を傾げた。

しかし気を悪くすることなく、愛理沙は塩味のスナック菓子を手に取り、チョコレートを付けてから由弦の口元に運んでくれた。

「これはどうですか?」

「これはいい感じだ」

由弦はそう答えながら、次に愛理沙に食べさせる具材を考える。

そして少し考えてから愛理沙に問いかけた。

「何が食べたい?」

「マシュマロがいいです」

由弦さんが食べないなら、私が食べます!

と、言いたげに愛理沙は口を開けた。

由弦はそんな愛理沙の口の中にマシュマロを放り込む。

「美味しいです……もっとください」

「はい、お代わり」

目を蕩けさせながらおねだりをする愛理沙に、気を良くした由弦は次々とその口の中にマシュマロを放り込んでいく。

愛理沙は幸せそうな表情でそれを飲み込んでいく。

「あっ……」

「す、すまない……!」

しかし調子に乗り過ぎてしまったのが良くなかったのだろう。

チョコレートが垂れ落ちてしまった。

愛理沙の白い肌、胸元を茶色い液体が汚した。

「火傷はしてないか?」

「そこまで熱くないから、大丈夫ですよ」

愛理沙はそう言いながらティッシュで胸元を拭こうとした。

しかしティッシュを手に取ろうというところで、固まってしまった。

「……愛理沙?」

「その、由弦さん」

悪戯を思いついた。

そんな表情で愛理沙は自分の胸元を指さしながら言った。

「勿体ないので、食べてもらえませんか?」