軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 意図せぬ偶然

愛理沙を伴って歩いて今更ながら気付いたことだが、やはり目立つ。

さすがにジロジロと見るような不届き者はそう多くはないが、多くの男性が二度見をするし、中にはチラチラとこちらを窺う者もいる。

これだけ目立つ容姿に素晴らしいプロポーションをしているのだから、致し方がないことではあるが。

美女税のようなものだろう。

しかし面白いのは……男性だけでなく、少なくない数の女性も愛理沙に視線を送っていて、どこか羨望と嫉妬の籠った眼差しを送ってきていることだ。

「美人は目立って大変だね」

由弦が揶揄い半分でそう言うと、何故か愛理沙は呆れた表情を浮かべた。

「……半分はあなたのせいだと思いますが。自覚、ないんですか?」

「いや、まあ……ないわけではないけど」

由弦は思わず苦笑した。

一応、人並み以上の容姿はあるだろうと自覚はしている。

「あ、高瀬川さん。浮き輪、貸し出してますよ。私、のんびりしたいので借ります」

愛理沙はそう言ってプールサイドの一角を示した。

そこには大小様々な浮き輪が売られている。

オーソドックスなものもあれば、シャチを模したような変わり種もある。

「……二人用とかあるけど、どうする?」

「常識的に考えてください」

ジト目で睨まれ、由弦は肩を竦めた。

勿論、ここで言う常識的な考えとは、一人用の浮き輪を借りることだ。

好き合ってもいないのに、肌が触れ合う可能性が高い二人用の浮き輪を借りるのはいくら何でもないだろう。

愛理沙は精算バンドを使って、一人用の浮き輪をレンタルした。

「高瀬川さんは良いんですか?」

「俺はちょっと泳ぎたいかなって」

二人はゆっくりと水の中に体を沈めた。

愛理沙は寝そべるように、プカプカと浮かびながら。

一方で由弦は愛理沙の浮き輪の紐を手に持ちながら、彼女について行った。

「うーん……気持ち良いな」

「んっ……そうですね。何だかんだで、来て良かったです」

由弦の言葉に対して愛理沙は相槌を返した。

普段はクールな表情を崩さない彼女だが、今日は目を細め、楽しそうにしている。

とはいえ、ただ流されているだけなのは暇なので、由弦は愛理沙の浮き輪の紐を掴みながら、軽く泳ぐことにした。

「馬車に乗っている気分です」

意外にこれは愛理沙に対して、好評だった。

完全に脱力し、由弦に引かれるままになっている。自分で動く気はあまりなさそうだ。

「どちらかと言うと、犬ゾリかな?」

「大型犬だからですか?」

そんなやり取りをしながら順調に泳いでいた二人だが、途中でその足は止まった。

人混みに引っ掛かってしまったのだ。

どういうわけか、多くの人が流れに逆らってその部分に立ち止まっていた。

「渋滞? ……何かあるんですかね」

「さぁ……何だろうなぁ。あとでプールサイドから見てみようか。止まるのは迷惑だろうし」

由弦と愛理沙は少しだけ惹かれたが、流れるプールで立ち止まるのは迷惑になるだろうと考えてその場はすぐに通り過ぎようとした。

……だが、運が悪かった(もしくは良かった)。

「うわぁっ!」

「っきゃ!」

由弦と愛理沙は揃って悲鳴を上げた。

上からバケツをひっくり返したような水が降ってきたのだ。

由弦は顔に掛かった水を手で拭う。

「みんなの目当てはこれだったか……驚いた」

由弦はそう言って上を確認する。

頭上には巨大なバケツのようなものがあり、そこへ水が注ぎこまれていた。

一定時間が経つと、水が上から降ってくるという仕組みのようだった。

「び、びっくりしました。心臓がドキドキしています」

愛理沙は寝そべるような形から、体を起こし、浮き輪に掴まるような形で泳いでいた。

大きな二つの果実が浮き輪に乗り上げる形になっている。

水滴が谷間の中へと、伝っていく様子が見て取れた。

「高瀬川さん?」

「いや、でもびっくりはしたけど、面白かったね」

由弦が誤魔化すように言うと、愛理沙はにっこりと微笑んだ。

「気付かれていないと思いました?」

「すみません」

流れるプールを二人で丁度一周した辺りで、二人は一度水から上がった。

「私、実は造波プールって行ったことがなくて。付き合って頂いても良いですか?」

「俺も初めてだ。少し気になっていた。うん、行こうか」

造波プールというだけあって、海をイメージしたようなプールになっていた。

勿論、砂浜などはなく、砂浜のような色のプールサイドになっているだけだが。

由弦と愛理沙はプールに入り、奥まで移動しようとしたのだが……

浮き輪を使っている愛理沙は、波が来るたびに少し流されてしまい、移動しにくそうだった。

「俺が引っ張ろうか?」

「よろしくお願いします」

愛理沙の浮き輪を掴み、押すような形で奥へと進んだ。

波が引くとそれにつられる形で愛理沙も流され、そして波が押し寄せてくると反対方向に流される。

岸側に流されそうになるたびに、由弦が流されてくる愛理沙を受け止めた。

「海と違って危険も少ないし、面白いですね」

「浮き輪だと、波に乗れて楽しそうだな」

サーフィンの様に、とは少し違うが波によって上下に揺られている愛理沙はとても楽しそうに見えた。

勿論、愛理沙の表情の変化は小さいが……目を細め、口元は緩んでいるので、楽しんでいることは一目で分かる。

自分も浮き輪を借りてこようかと、由弦は少し悩んだ。

「じゃあ、少し交代しますか?」

「良いのか?」

「独占したりしませんよ」

愛理沙はそう言うと浮き輪から体を抜け出した。

そして由弦に浮き輪を渡そうとしたのだが……

「ひぃゃ!」

「雪城!」

後ろから大きな波を受け、大きく前に押し流された。

慌てて由弦が駆け寄ると、混乱したのか縋りつくように抱き着いてきた。

少し溺れかけている様子だったので、由弦も愛理沙を抱きしめるように体を支える。

愛理沙の体は柔らかく、暖かく、そして驚くほど軽かった。

「大丈夫か?」

「けほっ、水を飲んじゃいました」

そう言って愛理沙は軽く咳き込んだ。

それから自分が由弦に抱き着いていたことに気付いた様子で、慌てて離れた。

やや肌を赤く染める。

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

「気にするな」

由弦は何でもないという表情で、気付いていないふりをしながらそう答える。

すると愛理沙の方も誤魔化すように言い繕った。

「私、実はそんなに泳ぐのは得意じゃないんですよね。プールは好きですけど」

「へぇ、そうなんだ。それは意外だ」

運動神経が良い愛理沙ならば泳ぐくらいは普通にできると、由弦は思っていた。

すると愛理沙は愛想笑いを浮かべながら答える。

「二十五メートル、泳げないんですよ。息継ぎがあまり得意じゃなくて」

「なるほどね」

なら、今度機会があったら教えてあげようか。

と、口から出かかった言葉を由弦は慌てて飲み込むのだった。

二人が泳ぎ始めて一時間半程度の時間が過ぎた。

休憩時間が訪れ、二人はプールから上がった。

「ちょっと、疲れましたね」

濡れた髪を掻き分けながら愛理沙はそう言った。

その仕草はとても色っぽく、艶やかだった。

「そうだな。……今、十一時だし。昼休憩にでもする?」

由弦は愛理沙から視線を逸らし、防水仕様の時計を見ながら言った。

少し昼には早い……と言いたいところだが、意外に浮いているだけでも体力を使ったのでお腹は空いている。

「賛成です。……確か水着のまま食事ができる場所があるんですよね?」

「あるよ。確かこっちだ」

この大型プールには水着のままで入れる飲食店や、食べ物を売っている売店などがあるのだ。

そのエリアまで移動すると……

「私、あっちのお店が良いんだけど」

「私はあっちの方が良いです」

「俺はどっちでも良いから。早くしてくれないか?」

聞いたことがある声が聞こえてきた。

由弦と愛理沙は慌てて、背を向けた。

そして素知らぬ顔でその場から立ち去ろうとしたが……

「あれ? あそこにいるのゆづるんじゃない?」

「由弦さーん、どうして逃げるんですかぁ!」

「隣にいるのは……雪城さんじゃないか?」

見つかってしまった。

由弦と愛理沙は揃って、ため息をつく。

「(ど、どうします?)」

「(ご、誤魔化すしかないだろう)」

二人は腹を括り、三人組の男女――宗一郎、千春、亜夜香――のもとへと向かう。

由弦は何でもないかのような顔で、三人に挨拶した。

「奇遇だな、お三方」

「おう、奇遇だな。由弦。ところで……」

「そこの可愛らしい女の子、雪城さんですよね?」

「ねぇー、ゆづるん。どうして二人揃って、こんな、カップルに大人気のスポットにいるの?」

三人はニヤニヤと笑いながら由弦に問いかける。

愛理沙は由弦の影に隠れるような形で、小さくなっていた。

完全に説明を由弦に丸投げするつもりのようだ。

「あー、これはだな」

「「「これは?」」」

「たまたま、偶然、出会ったんだよ。まさか君たちにも会うとはね。偶然ってのは重なるものだな」

由弦がそう言うと……

三人は顔を合わせた。

「「「それは無理があるよ」あります」あるだろ」

誤魔化せなかった。