作品タイトル不明
第6話
「わぁ! 凄く綺麗です!!」
日が落ちた後。
イルミネーションで彩られたパレードを、携帯電話で動画を撮影しながら愛理沙は嬉しそうにそう言った。
「うん、本当だ。可愛い」
由弦もまた、興奮した様子で飛び跳ねる愛理沙を見ながらそう言った。
誤解を恐れずに言えば由弦は愛理沙ほど、この手のイルミネーションやパレードの類には興味がなかった。
しかし嬉しそうな婚約者の姿を見れただけで、十分に満足することができた。
そして楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、パレードは終わった。
閉園時間も近づいてきている。
「うーん……ちょっと揺れすぎですかね」
愛理沙は自分の携帯を確認しながら、渋い声を上げた。
撮影中、興奮のあまり何度も飛び跳ねたせいか、あまり綺麗に映像が撮れなかったようだ。
「心に焼き付いたなら、それでいいんじゃないか?」
撮影に必死で楽しめなかったよりは、楽しみ過ぎて上手く撮影できなかった方が良いように思える。
「そうですけど……写真も撮っておけば良かったです」
「それはちゃんと撮影したよ」
「本当ですか!?」
愛理沙の言葉に由弦は頷き、自分の携帯画面を見せた。
そこには携帯を片手に、弾けるような笑顔を浮かべながら飛び跳ねている愛理沙が映っている。
「わ、私、こんな顔を……」
「可愛いよ。ホーム画面に使おうと思ってる」
「絶対にやめてください」
由弦の冗談半分の言葉に対し、愛理沙は低い声でそう言ってから由弦を睨みつけた。
由弦は可愛く撮れていると思っているが、愛理沙は自分の顔や表情に不満があるようだった。
撮られることを前提に浮かべた笑顔ではないからだろう。
「そもそも肝心のパレードの方があまり写ってないじゃないですか」
「大事なのは思い出だろう? 君がここにいたという証の方が大切じゃないか」
「それなら由弦さんも写らないとダメじゃないですか?」
「……それは、まあ、そうか」
もちろん、この遊園地で二人は何枚もツーショット写真を撮っている。
しかし先ほどのイルミネーションとパレードについては写真を撮れていなかった。
「なら、次はちゃんと撮ろうか」
「次……そうですね!」
由弦の言葉に愛理沙は嬉しそうな表情を浮かべた。
それから少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。
「……じゃあ、今日は帰りましょうか」
「そうだね。あまり遅くなると良くないし。お土産買って、帰ろう」
二人は後ろ髪を引かれながらも、帰路に着くのだった。
二人が愛理沙の家の前に到着した頃には、すでに夜も更けていた。
「今日はありがとうございます。楽しかったです」
愛理沙は由弦の前で軽く頭を下げた。
今回、遊園地でのデートを計画し、予約を取ったのは主に由弦だった。
もちろん、入園料や宿泊費は二人で出し合ったが。
「いや、俺も楽しかった。君のおかげだ」
高校生にもなると、遊園地に行く機会も減る。
由弦にとっては家族と数年ぶりに行って以来だった。
愛理沙がいなければ由弦も行こうという気にはならなかっただろう。
遊園地を楽しむ機会をくれたのは愛理沙だった。
「そう言ってもらえると嬉しいです。……また来年も行きたいです。今度は夏とか」
「それは良い考えだ」
冬と夏では楽しみ方も違うし、見れるイベントも異なる。
遊園地全体の雰囲気も大きく変わるだろう。
「……あと、今度は西の方に行ってもいいかもね」
「西、ですか。あぁ! なるほど、それもいいですね。私、そっちは行ったことがないので!」
「機会を見つけて、いろいろなところに行こう」
機会はたくさんある。
由弦は自分で自分に言い聞かせるようにそう言った。
今回、由弦には少しだけ心残りがあった。
それは……
(もうちょっと、恋人っぽい楽しみ方をしても良かったかもなぁ)
ロマンティックな雰囲気の中で、甘いキスをする。
という体験はあまりできなかった。
キスの回数も寝る前の「おやすみ」だけだ。
(思ったよりも、愛理沙が子供っぽかったなぁ)
由弦は遊園地ではしゃぐ愛理沙を思い出しながら苦笑した。
小学生のような楽しみ方をする愛理沙に、毒気を抜かれてしまったのだ。
もちろん、由弦としてはそれはそれで良い物を見れたという気持ちでいる。
嬉しそうな、幸せそうな愛理沙を見られるだけで由弦は満足だった。
百点満点中、百二十点のデートだったと言える。
しかし同時に求めていたもの、想定していたものとは少し違ったのも事実だ。
「……由弦さん?」
「え? あぁ、すまない。えっと……何か、言ったかな?」
気が付くと愛理沙は由弦に近寄っていた。
じっと、由弦を上目遣いで見つめている。
「いえ、別に何も言ってませんが……」
由弦が聞き返すと愛理沙は仄かに顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を逸らした。
それから意を消したように由弦に視線を向けると、由弦の肩に両手を置いた。
「あ、愛理……」
「んっ」
気が付くと由弦の唇は愛理沙に塞がれていた。
五秒ほど、長めの接吻をしてから愛理沙はゆっくりと由弦から唇を離した。
そして三歩後ろに下がってから、踵を返した。
「また明日、です」
「あ、あぁ! また明日」
愛理沙は逃げるように家の中に入ってしまった。
取り残された由弦は自分の唇に触れる。
そこにはまだ愛理沙の体温が残っていた。
「……愛理沙も少し、欲求不満だったのかな?」
今回はいつもの「さよなら」よりも、長かった。
それはきっと、愛理沙も自分と似たような気持ちを抱いていたからに違いない。
由弦はそうであることを願いながら、帰路に着いた。