作品タイトル不明
第3話
「わわ、凄い……! どれを選んでもいいんですか?」
「それはまあ、ビュッフェだし……」
目を輝かせる愛理沙に対し、由弦は苦笑しながらそう言った。
遊園地に遊びに来た日の翌日。
その日の朝食はホテルでのビュッフェだった。
ごくごく普通の一般的な、「ホテルの朝食バイキング」と言われて想像するような内容だ。
こういうホテルの“食べ放題”に対してワクワクする感性は由弦も持ち合わせているため、愛理沙の気持ちは全く分からないでもないが……
それを踏まえても愛理沙の反応はやや過剰に見えた。
まるで小学生のようだ。
あからさまにウキウキする愛理沙の様子はとても微笑ましく、可愛らしい。
「小さい時以来です!」
と、思っていた由弦ではあったが、愛理沙のその言葉に少しだけ胸を痛めた。
とはいえ、愛理沙自身は雰囲気を重くしようとしての発言ではないのだろう。
その証拠にニコニコと笑顔を浮かべている。
ここで由弦が神妙な表情を浮かべるのは正解ではない。
「じゃあ、選びに行こうか」
「はい!」
由弦と愛理沙は皿を手に持ち、列に並んだ。
料理は和洋中、オーソドックスな内容が一通り揃っている。
(やっぱり日本人なら和食……)
白米、味噌汁、焼き魚、卵焼き、納豆、ノリ……
由弦は最初、そんな感じで揃えようと考えた。
しかし愛理沙がソーセージを皿に乗せているのを見て、考えを改める。
無性にソーセージが食べたくなってしまったのだ。
(いや、洋食にしよう)
由弦はソーセージを皿に乗せた。
他にはオムレツやコーンスープなどで揃えよう。
そんな計画を建てた由弦だが……
愛理沙が焼売を皿に乗せたのを見て、また心が揺れ動いてしまった。
(中華も良いな……というか、愛理沙はソーセージと焼売を合わせるつもりなのか)
考えてみれば、別に統一しなければいけないという決まりはない。
好きな物、食べたい物を好きなだけ乗せればいいのだ。
「……よし」
由弦は難しく考えるのをやめ、目についたものを少しずつ皿に乗せることにした。
約一時間後。
「苦しい……」
「……食べ過ぎましたね」
由弦と愛理沙はベッドの上に座り込みながら、げんなりとした表情でそう呟いた。
食べ放題だから、いろいろな種類があるからと、つい食べ過ぎてしまったのだ。
「最後のデザートを止めて置けばよかったです」
「個人的には麺類が腹に溜まったかな……」
二人はそれぞれ反省点を口にした。
次回、ビュッフェに行くことがあれば腹八分目を心がけようと決める。
「いつ出ますか?」
「開園まで時間があるし、もう少しゆっくりしよう」
幸いにも朝早く起きたため、時間には余裕があった。
無理をして体調を崩すのは良くないと判断した二人は、食べた物の消化が終わるまで待つことにした。
テレビを見たり、寝転がりながら携帯を弄ったり、パンフレットを読んだり……
思い思いの時間を過ごす。
(うん、これだと家でやってることと変わらないな……)
少し時間が勿体ないと感じ始めた由弦は、何か楽しいことはないかと考え始めた。
そして隣で寝転がりながらパンフレットを読んでいる愛理沙に目を向けた。
由弦はそんな愛理沙のお腹に手を伸ばした。
「……何でしょうか?」
突然、お腹を撫でられた愛理沙は怪訝そうな表情を浮かべた。
一方由弦は愛理沙のお腹を撫でながら、笑みを浮かべた。
「パンパンだね」
「や、やめてくださいよ……!」
食べ過ぎでお腹が膨らんでいることを揶揄われた愛理沙は、由弦の手を払いのけた。
そして由弦を軽く睨んだ。
「そこまで怒らなくても……」
「デリカシーがないです。そもそも……由弦さんだって、人のこと、言えないじゃないですか」
愛理沙はそう言いながら由弦のお腹に手を伸ばしてきた。
食べ過ぎたのは由弦も同じで、彼のお腹も少し膨らんでいる。
「正直、ちょっと眠い……」
「……気持ちは分かります」
由弦の言葉に愛理沙は苦笑しながら頷いた。
食後というのもあるが、それ以上に昨日はあまり寝付けずに疲れが取れていたとは言い辛かったのだ。
「仮眠する?」
「そうですね……いや、やめましょう。多分、起きられなくなります」
由弦の提案に愛理沙は首を大きく横に振った。
「ベッドの上にいると余計に眠くなります。少し早いですが、出ましょう」
「……そうだね。君の言う通りだ」
二度寝のせいで遊園地で遊ぶ時間が減るのはあまりにも惜しい。
これ以上眠くならないうちに、二人はホテルからチェックアウトするのだった。