軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話

「はぁ……足が棒みたいになってます」

ホテルに着き、ベッドに腰を下ろしてから愛理沙はため息混じりにそう呟いた。

スリッパを脱ぎ、白い脚を自分で揉む。

「俺も疲れた。……早くシャワーを浴びて、寝てしまおう」

由弦の言葉に愛理沙は賛成だと言わんばかりに頷いた。

「どちらが先に入りますか?」

「先に入りたい?」

「いいえ、どちらでも。……ジャンケンで決めますか?」

取り合うほどのことでもなければ、譲り合うほどのことでもない。

そう考えた二人は素早くジャンケンで順番を決めてしまうことにした。

「じゃあ、先に入らせてもらうよ」

「どうぞ」

そして勝ったのは由弦だった。

由弦はベッドから降りるとバスルームへと向かった。

浴室はいわゆるユニットバスだった。

由弦はお湯が飛び散らないようにカーテンを締めて、シャワーの蛇口を捻る。

「あっ……」

そして体を洗いながら由弦はふと、思い立った。

(……一緒に入ろうって、誘う選択肢もありだったか?)

普段はそんなことは言い出せないが、今日は二人きりの旅行だ。

もしかしたら、流れと勢いで一緒に入浴することもできたかもしれない。

(いや、ちょっと早いか……)

しかしそれは愛理沙と裸の付き合いをすることを意味する。

全裸の愛理沙と一緒に入浴して、平静でいられる自信は由弦にはなかった。

そんなことを考えているうちに由弦は体を洗い終えた。

用意されていたバスローブを羽織り、水気を拭いながら由弦はバスルームから出た。

「お待たせ」

「早かったですね」

由弦がバスルームから出ると、愛理沙はすぐに由弦を出迎えてくれた。

が、しかし愛理沙は何故か固まってしまった。

そして慌てた様子で目を逸らした。

「えっと……どうした? 何か変?」

普通ではない愛理沙の様子に由弦は慌てた。

何か、見えてはいけない物が見えてしまっているのではないかと少し慌てる。

「いえ……変ではありません」

「そ、そう? ……なら、どうして目を逸らすんだ?」

変ではない。

そう言う愛理沙は何故か由弦と目を合わせてくれなかった。

しかし由弦が執拗に問い詰めると、観念した様子で僅かに由弦の方へと視線を向けてくれた。

「ちょっと色っぽいと思ってしまって……」

そう答えてから愛理沙は恥ずかしそうに両手で顔を覆った。

一方で由弦は首を傾げた。

「そ、そうか……?」

由弦は自分自身の姿を見て、「色っぽい」などと思ったことはない。

だから正直納得できなかったが、しかし悪いことではなさそうなので一先ず安心することにした。

「わ、私、入ってきますね!」

「あ、あぁ……」

それから愛理沙は逃げるようにバスルームへと向かってしまった。

手持ち無沙汰になった由弦は、ドライヤーで髪を乾かしたり、テレビを見たりしながら愛理沙を待つ。

「……お待たせしました」

それほど時間が掛からないうちに、バスローブを羽織った愛理沙が姿を現した。

白い肌はほんのりと赤らみ、そして美しい亜麻色の髪は湿っている。

その姿は普段以上に艶っぽく見えた。

「どうされましたか?」

「いや……さっきの君の気持ちが分かった気がした」

「そ、そうですか」

由弦の言葉に愛理沙は恥ずかしそうに目を伏せた。

それから翠色の瞳で由弦の目を見つめてきた。

「髪を乾かしたいのですが……」

「ああ、悪い。俺は終わったから」

由弦はドライヤーを愛理沙に渡そうとしたが、しかし愛理沙は首を左右に振った。

そしてベッドに上がり、由弦の方へと近づいてくる。

「あ、愛理沙……?」

そして愛理沙は由弦の目の前で、背中を向けながら座り込んだ。

それから後ろを振り返る。

「乾かしてもらえませんか?」

「な、なるほど!」

ようやく由弦は愛理沙の意図を理解した。

ドライヤーの電源を付けて、愛理沙の髪を乾かそうとして……手が止まる。

「すまない。……やり方を教えてくれないかな?」

愛理沙の美しい亜麻色の髪は、比べるまでもなく、由弦の髪よりもずっと手入れされている。

自分の髪と同じように扱うわけにはいかない。

「普通に乾かしてくれれば良いだけですが……」

「そうか……おかしかったら言ってくれ」

由弦は慎重に愛理沙の髪にドライヤーを当て始めた。

手で形を整えながら、温風を当てていく。

形が崩れないように、熱くなりすぎないように、細心の注意を払う。

「いい感じです」

由弦の懸念とは裏腹に、愛理沙は心地よさそうな声を上げた。

気が付くと愛理沙は体を後ろに倒していた。

リラックスした様子で体重を由弦に預けている。

由弦もまた、作業に慣れたことで余裕が出てきた。

「それは良かった」

バスローブからチラチラと覗く、白い谷間を気にしながら由弦は答えた。

見てはいけない。

覗こうとするべきではない。

そう思いながらも、やはり気になってしまう。

(これだけ大きいのに……下着無しでも垂れたりしないのか)

バスローブの上からでも、その形の美しさは一目で分かった。

「ん……」

そして気が付くと愛理沙は目を閉じてしまっていた。

眠くなってしまったらしい。

こういう無防備な姿を見ると、悪戯したくなってしまう。

由弦はドライヤーを止めて、脇に置いた。

そして愛理沙の体の前へと手を伸ばし、後ろから抱きしめ、耳元で囁く。

「愛理沙、終わったよ」

「……っきゃ!」

驚いたのか、愛理沙は体をビクっと震わせた。

そして首を後ろに回し、目をぱちくりさせた。

「私、寝てました……?」

「うん」

「そうでしたか……すみません」

「いや、気にしなくていいよ」

由弦はそう言いながら、愛理沙のバスローブを軽く掴んだ。

そして愛理沙自身が気が付かないうちに乱れ、大きく開いてしまった胸元を直してあげた。

「じ、自分で直せますから……」

愛理沙は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、姿勢を正した。

それからするりと由弦の腕から抜け出し、向き直った。

「そろそろ寝ましょう」

「そうだね。……俺はあっちで着替えてくるから、終わったら教えてくれ」

由弦はベッドから降りると、アメニティの寝間着と自分の下着を持ってバスルームへと向かった。

バスローブを脱ぎ、下着と寝間着を着る。

「愛理沙、終わった?」

「……はい、終わりました」

確認を終えてから由弦は寝室に戻った。

すでに愛理沙は寝間着に着替え終えて、ベッドの上で正座をして待っていた。

「じゃあ、寝ようか」

「はい」

由弦はベッドの上に上がると、毛布の中に入った。

そして正座をして固まったままの愛理沙に声を掛けた。

「ほら、入って」

言うまでもないが、この部屋のベッドはツインではなくダブルだ。

つまり二人用の物が一台しかない。

「はい。……失礼します」

由弦に促された愛理沙はいそいそとベッドの中に入り込んできた。

そして緊張した顔でじっと由弦の顔を見つめてきた。

そんな愛理沙の様子に由弦は思わず苦笑した。

「そこまで緊張することはないだろ」

ベッドはツインではなく、ダブルで。

それは由弦の独断ではなく、二人で決めたことだ。

最初から分かっていたことだし、そもそも二人で寝ることは今回が初めてというわけではない。

「す、すみません。ど、ドキドキしちゃって……由弦さんはしないんですか?」

「いや、そんなことはないけど……」

愛理沙に指摘され、由弦は自分の心臓がドキドキしていることに気付く。

自覚すると余計に緊張してしまう。

「……とりあえず、灯りを消そう。暗くして大丈夫?」

「はい。……その前にそっちに行っていいですか?」

「いいよ」

由弦が答えると、愛理沙は由弦と体が触れ合うほどの位置まで近づいてきた。

そして由弦の顔を物欲しそうな顔で見つめてきた。

「その、由弦さん。寝る前に……」

「おやすみ」

由弦はそう言うと愛理沙の唇に自分の唇を合わせ、愛理沙の口を封じた。

愛理沙は一瞬目を大きく見開いたが、満足そうな表情を浮かべた。

「……おやすみなさい」

愛理沙がそう言ったのを確認してから、由弦は灯りを消した。

二人は互いの体温と吐息を感じながら、静かな夜を過ごした。