作品タイトル不明
第一話 婚約者とクリスマス
「ちょっと疲れちゃいました……」
時刻は十三時。
昼食のためにレストランに入ってから、愛理沙はため息混じりにそう呟いた。
「あれだけ、はしゃげばね」
由弦は苦笑しながらそう言った。
入園後はもちろんのこと、遊園地に来るまで……否、前日から愛理沙ははしゃいでいたし、テンションが高かった。
疲れてしまうのは当然のこと。
むしろ、よく体力が持った方と言えるかもしれない。
「小学生の時以来だったので……小学生みたいなはしゃぎ方をしちゃいました」
愛理沙は恥ずかしそうに体を縮こまらせた。
今更ながら、自分の行動の恥ずかしさに気付いたようだ。
「……そうか」
一方、由弦は愛理沙の何気ない言葉にハッとさせられた。
愛理沙の両親が亡くなったのは、彼女が小学生の時だ。
だから小学生の時以来、遊園地などのテーマパークには行ったことがないのだろう。
はしゃぐのは当然だ。
子供っぽいのではなく、子供の時から止まっているのだ。
「次は休憩も兼ねて、ゆったりめのアトラクションにしようか」
愛理沙としては「久しぶりに遊園地に来たのだから、遊園地らしいアトラクションに乗りたい」という想いがあったのだろう。
序盤から動きの激しい……落ちる・回転する・揺れる・光る・叫ぶという感じのアトラクションばかりをチョイスしていた。
由弦もそういうアトラクションの方が好きなので、文句はなかったが……
やはり連続でそういうアトラクションばかり乗っていたら、肉体的にも精神的にも疲れてしまう。
「そう、ですね……」
「……そういうのは好きじゃない?」
由弦の提案に愛理沙は渋い表情を浮かべた。
愛理沙のこの反応は由弦にとっては少し意外だった。
ゆっくりと落ち着きながら景色や世界観を楽しむようなアトラクションは女性人気が強い……と勝手に考えていたからだ。
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「もう少し休憩したい感じ?」
もしかして、眠くなってしまったのだろうか?
由弦はそう思いながら愛理沙に尋ねた。
しかし愛理沙は首を左右に振った。
「その、並ぶのが……ちょっと辛いなって……」
「あぁ……」
当然だが、アトラクションに乗るには列に並ばなければならない。
これが意外と疲れる。
何時間も立ちっぱなしであることは当然として、知らない人に囲まれるだけでも精神的には疲れてしまうからだ。
「じゃあ、パレードでも見る?」
「そうですね。そうしましょう……」
そんな話をしているうちに、料理が運ばれてきた。
愛理沙は運ばれてきた料理をパチパチとした目で見てから、ポツリと呟いた。
「この量と質でこの値段は……」
「それは言っちゃいけない」
現実に戻ろうとする愛理沙を、由弦は慌てて引き留めた。
このようにすっかりとテンションが低くなってしまった愛理沙だが……
「あ! 見ました!! 由弦さん!! 今、こっちに手を振りましたよ!!」
パレードを見るころにはすっかり元気になり、着ぐるみを相手に飛び跳ねながら手を振っていた。
「あ、あぁ……うん、そうだね」
元気になったことは嬉しく思いながらも……
大はしゃぎする愛理沙に少し恥ずかしくなってしまう由弦であった。
「最悪です……もっと明るいうちに乗れば良かったです」
日も落ち、辺りが暗くなった頃。
愛理沙は由弦の腕に掴まりながらそうぼやいた。
「だからやめておいた方がいいって言ったのに……」
由弦は自分の腕に抱き着く愛理沙に、呆れ顔でそう言った。
最後にホラー系のアトラクションに乗ってから、愛理沙はずっとこの調子だった。
もちろん、お化けが出る、幽霊が出るというアトラクションであることは乗る前から分かっていた。
ホラー系だが大丈夫か?
事前にそう尋ねた由弦に対し、愛理沙は自信満々に答えた。
――ホラーと言っても子供向けですよね? 子供騙しに怯えるほど、怖がりじゃないです。
「……想像以上でした」
ブルっと愛理沙は体を震わせながらそう答えた。
由弦からすると、ホラーと言っても子供向けで大した内容ではなかったのだが、愛理沙はそれよりもさらにレベルの低いモノを想像していたようだった。
どんなほのぼのとした内容を想像していたのだと、由弦は少しだけ気になった。
「時間も悪かったです。……昼間なら、そこまででもない気がします」
「……関係あるかな?」
「あります。……明日行くところもホラー系、ありますよね? 明るいうちに乗りましょう」
今回、二人はホテルを予約した上で泊まりで遊びに来ている。
明日はもう片方のパークに遊びに行く予定になっており、そちらにはそちらで別のアトラクションが楽しめる。
「懲りないな、君は……言っておくけど、明日のやつの方が多分、怖さは上だぞ?」
「そ、そうなんですか? そ、それは……た、楽しみですね!」
「声が震えてるけど。……やめたら?」
怖いなら見なければ良い。
由弦もどうしても乗りたいというわけではないので、無理強いするつもりはない。
というよりはむしろ、こんなに怯えるくらいなら乗らないで欲しいのが本音だ。
「乗ってみないと分からないじゃないですか」
愛理沙はホラーが苦手だ。
しかし嫌いではないらしく、どういうわけか怖いと分かっていながら見たがる。
そしてやっぱり怖かったと後悔するのがオチだ。
「本当に乗るつもり?」
「当然です。来たからには乗れないと帰れません」
「……分からないな」
怖いのに乗りたがる、見たがる。
愛理沙のこの心理は一生理解できそうもないと、由弦は首を傾げるのだった。