軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16

「いや、しかし今更だが……間に合って良かった」

「……本当にギリギリでしたよね」

由弦の言葉に愛理沙はしみじみとした表情で返した。

現在、二人がいるのはホテルの男子部屋だった。

丁度、ホテルに戻り、夕食を食べ終え、シャワーを浴び……そして由弦と宗一郎、聖の部屋に集合したところだ。

「やっぱり、予定外のことをするのはあまり良くないわね……明日の予定も、今のうちに練り直す?」

「明日のことは明日でいいじゃない。修学旅行って、ライブ感も大事でしょ」

天香と亜夜香もまた口々にそう言った。

二人が言うところの“予定外のこと”とは、清水寺に寄ったことである。

清水寺からホテルまでの道のりに、七人が想定していたよりも時間が掛かり……

滑り込むような形でチェックインをすることになったのだ。

教師からは「もう少し余裕を持って行動するように……」と軽いお叱りの言葉をいただくことになった。

「まあまあ、過ぎたことを気にしても仕方がありませんよ。それより、今を楽しみましょう」

千春はそう言いながら……

リュックサックの口を開けて、ひっくり返した。

中から大量のお菓子や、ゲームなどが飛び出した。

「千春さん……いくら何でも、その量は……」

食べ切れないでしょ。

とでも言うように愛理沙は苦笑した。

一方の千春は満面の笑みでそれに返した。

「あと三回も夜があるんですから、これくらい普通です。そういう愛理沙さんはちゃんと持ってきたんですか?」

「そうですね。持ってきたというよりは、買ってきたですけれど……」

愛理沙はそう言いながら取り出したのは……

「へぇ……漬物、ですか」

「美味しそうだったのと、お菓子ばかりだと飽きてしまうかなと。……お菓子の方が良かったですか?」

清水寺で購入した漬物だった。

お土産用とは別で、今夜食べるために購入したものだ。

あらかじめ、「ホテルではみんなで集まってお菓子を食べながらゲームをする」と聞いていた愛理沙は、その“お菓子”の枠に漬物を選んだのだ。

「いいんじゃないですか? 私は好きですよ!」

愛理沙のチョイスに千春はニコニコと機嫌の良さそうな笑みを浮かべた。

一方で聖は険しい表情を浮かべた。

「そうか、漬物か……」

「……お嫌いでしたか?」

「いや、その手があったかと。俺もそれにしておけば良かった。……無難な物しか買ってない」

そう言いながら聖が取り出したのは八つ橋だった。

すると天香はゲッとした表情を浮かべた。

「……聖君も八つ橋!?」

「……お前もかよ」

「ま、まあね……」

天香も八つ橋を購入してきたらしい。

二人は揃って「他にも八つ橋を買ってきた人はいるか?」とでも言うように顔を見渡した。

……幸いにも二人以外に八つ橋を買ってきた者はいなかった。

二人は安堵の表情を浮かべる。

「いやぁ、お似合いだねぇ……」

ニヤニヤと亜夜香は笑みを浮かべながら二人を揶揄う。

二人は揃って不機嫌そうに顔を背けた。

「まあ、こっちは本家でこっちは元祖だし、いいんじゃないか? 正直、気になっていた。食べ比べしよう」

由弦は笑いながらそう言った。

同じ“八つ橋”ではあるが、メーカーの種類が異なるのだ。

「お菓子はいいとして、とりあえず、何をして遊ぶ? ……俺は麻雀をしてみたいけど」

宗一郎はそう言いながら千春が持ってきた麻雀カードを手にした。

通常の麻雀は牌を使うが、これはそれを紙で代用したものである。

「麻雀ね。いいんじゃない?」

「せっかくですし、お菓子を賭けてやりますか?」

亜夜香と千春は乗り気な様子を見せた。

しかし……

「すみません。私、麻雀のルール、分かりません」

「……私も知らないわ」

愛理沙と天香は申し訳なさそうな表情でそう言った。

これには宗一郎も「しまった……」という表情を浮かべる。

みんな、当然知っている物だと思っていたようだ。

「じゃあ、やめておこう。……人狼ゲームとか、どうだ? アプリを入れれば簡単にできるぜ」

聖は携帯の画面を見せながらそう言った。

人狼ゲームならルールは知っていると、愛理沙と天香はそれぞれ頷いた。

こうして長い夜が始まった。

「……由弦さん、本当に嘘をついてないですか?」

「む、村人だって、言ってるじゃん」

「本当ですか? 私の目をしっかりと見て言ってください」

ジーっと、愛理沙は由弦の目を見つめながらそう言った。

さすがの由弦も思わず目を逸らしてしまう。

「あ! やっぱり目を逸らしました!! この人、人狼です!!」

「違う、冤罪だ!」

「じゃあ、どうして目を逸らしたんですか?」

「それは……君の瞳が眩し過ぎて」

「……本当にそう思ってますか?」

「あ、愛理沙、み、見つめないで……なあ、これ、反則じゃないか?」

由弦は愛理沙のレギュレーション違反を訴えるが……

亜夜香たちは大笑いをするばかりで、由弦に同意してくれることはなかった。

結果として、由弦はそのゲームでは殺されてしまうことになる。

「ほら、やっぱり人狼だったじゃないですか」

愛理沙はドヤ顔を浮かべた。

とても可愛らしい……が、しかしそれはそれで腹が立つ。

そして復讐の機会はすぐに訪れた。

「……なあ、愛理沙。本当か? 本当に人狼じゃないか」

由弦は愛理沙の額に自分の額をくっ付けながら、そう尋ねた。

一方の愛理沙は顔を真っ赤にしている。

「ち、違うって言ってるじゃないですか……」

そして恥ずかしそうにしながら、逃れようとする。

しかし由弦にがっしりと顎を掴まれているため、逃げられない。

「俺の目を見ろ、愛理沙」

「や、やめてください……は、恥ずかしい……」

「ダメだ。君もさっき、やっただろ。ほら、俺の目を見ながら人狼じゃないって言ってみろ」

由弦の言葉に愛理沙はその翠色の瞳を向け……

声を震わせながら、しかしはっきりと答えた。

「じ、人狼じゃ……な、ないです」

「……本当に?」

「う、疑うんですか? わ、私を……」

心外です! とでも言うように愛理沙は悲しそうな表情を浮かべてみせた。

しかし由弦は追及の手を緩めない。

「ああ。愛理沙は嘘をつくとき、口元が少しニヤけるからな」

「そ、そんな……嘘です」

愛理沙はそう言いながら口元を抑えた。

由弦は思わず笑みを浮かべた。

「間抜けは見つかったな」

「あっ……ち、違います。い、今のは……」

愛理沙の弁明も虚しく、全員が愛理沙に投票した。

こうして愛理沙は処刑された。

「ひ、酷いです……由弦さん!」

「いや、君も同じことをしたじゃないか」

ゲームが終わった後、由弦と愛理沙はお互いに言い争いを始める。

そんな二人に亜夜香たちは手を叩きながら大笑いをする。

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

「表情から読み解くのは戦術としてはアリですが……何度も繰り返すのは陳腐ですし、次回以降は反則にしましょうか」

亜夜香と千春は笑いながら仲裁する。

二人の言葉に由弦は頷き、矛を収めるが……

「ダメです。ゲームとはいえ、由弦さんが私に嘘をつくのは良くないです……信用しないのもダメです……」

「悪かったって。……次からはお互い、無しにしよう?」

ムスッとした表情で愛理沙は由弦の胸をポカポカと叩く。

由弦はそんな愛理沙の頭を撫でながら、落ち着かせようと試みる。

「ダメ、ダメです……傷つきました。許しません」

愛理沙はそう言いながら頬を膨らませる。

どうやら本気で怒っているわけではなさそうだった。

しかし同時に少し面倒くさいモードに入っているようでもあった。

「えーっと……どうすれば許してくれる?」

「ん……キスしてください」

「……えぇ」

由弦は思わず困惑の声を上げた。

一方で愛理沙は由弦の胸に身体を預けながら、雛鳥のように顔を上げる。

完全に接吻を強請る体勢に入っている。

「い、いや、しかしここでは……」

さすがの由弦も友人たちの目の前で愛理沙と接吻するのは……恥ずかしい。

助けを求めようと、由弦は周囲の面々の顔を見渡した。

すると……

「……なんか、愛理沙ちゃん。ちょっと、顔が赤くない?」

「む、確かに……」

隙あらば由弦の唇に接吻しようとする愛理沙の額に手を当て、由弦は眉を顰める。

体温も普段より高いように感じられる。

「あのぉ……あまり考えたくないのですが……」

千春は苦笑しながら……

「愛理沙さん、酔っぱらってません?」

アルコール入りのチョコレートを指さしながらそう言った。