軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話

「……一応聞くけど、これも手作り?」

「もちろんです」

愛理沙は胸を張りながら大きく頷いた。

愛理沙が持ってきたのは、苺のショートケーキだった。

白いクリームの上にいちごジャムで「お誕生日おめでとう」と描かれている。

「お好きな分だけ、食べていいですよ?」

「それは嬉しい……けど、その、上手に切り分けられる自信がないから……」

「はい、分かっています。欲しい分だけ言ってくださいね?」

愛理沙は由弦が望む分だけ、ケーキを切り分け……

何故か立ち上がると、由弦の横に座った。

「え、えっと……愛理沙?」

「……失礼しますね」

愛理沙はフォークを手に取ると、ケーキを少しだけ削り取った。

そしてゆっくりと、由弦の口元に差し出した。

「はい、あーん……」

「あ、あーん……」

言われるままに由弦は口を開く。

すぐに口の中に甘いケーキの味が広がった。

「どうですか?」

「う、うん……美味しい」

「それは良かったです」

ニコニコとした笑みを浮かべながら愛理沙は由弦の口元にケーキを運んでいく。

気恥ずかしい気持ちになりながらも、由弦は素直にそれを食べていく。

とはいえ、いつまでも食べさせてもらうわけにはいかない。

「……愛理沙、そろそろ俺にフォークを返してくれ」

「あ、はい……」

少し名残惜しそうな表情で愛理沙は由弦にフォークを渡した。

由弦はそのフォークでケーキを削ると……

「愛理沙、あーん」

「え?」

「ほら……要らないか?」

「い、要ります!」

愛理沙は叫ぶと口を大きく開けた。

由弦はそんな彼女の口元にケーキを運んであげる。

「どう?」

「……我ながらよくできたなと思います」

恥ずかしそうに愛理沙はそうはにかんだ。

その後も二人は互いにケーキを食べさせ合うのだった。

さて、食事を終えた後……

(……無事に終わった)

ホッと、愛理沙は一息ついた。

まだプレゼントを渡せていないが……由弦の誕生会はほぼ成功したと見て間違いないだろう。

(……由弦さんも、喜んでくれているみたいですし。着た甲斐がありました)

愛理沙は自分のメイド服を見下ろしながらそう呟いた。

少し胸元が緩めだったり、スカートが短めだったり、そもそもメイド服を着る自体が愛理沙にとっては挑戦で、恥ずかしいことだったが……

由弦の表情を見る限り、決して変に思われているわけではなさそうだった。

と、そこで愛理沙は気付く。

まだ、由弦の口から感想を聞けていないと。

「……ご主人様」

愛理沙は由弦をそう呼ぶと……

由弦の胸元に自分の胸を押し当てるように抱き着いた。

「え、えっと……愛理沙?」

困惑した表情を見せる由弦に対し、愛理沙は尋ねる。

「まだ、感想を聞いていません」

「か、感想……? あ、あぁ!! わ、悪い……可愛い、凄く似合ってる」

「そうですか」

一先ず愛理沙はその言葉で満足することにした。

どこがどう似合っているのか、具体的に言葉を尽くされるのはそれはそれで恥ずかしいからだ。

それにメイド服を着ている自分が由弦の目に好意的に見えているのは、態度を見ればわかる。

(……胸元をチラチラ見ているのは、許してあげましょう)

全く仕方がない人なんだから。

と、わざわざ谷間が見えるような服を着てきた自分自身を棚に上げて愛理沙はそう思った。

「もう少しよく見たいんだけど、いい?」

「いいですけど……具体的にどうすれば?」

「とりあえず、立ってみて」

由弦に言われるままに愛理沙は立ち上がった。

「これでいいですか?」

「クルっと、ターンとかできる?」

「えっと……こうですか?」

言われるままに愛理沙は片足を軸にしながら、身体を捻った。

すると、スカートがふんわりと持ち上がるのを感じた。

愛理沙は慌ててスカートを抑えた。

愛理沙は自分の顔がほんのりと熱くなるのを感じた。

ジっと愛理沙は由弦を睨みつける。

「……狙ってやりましたか?」

愛理沙は声を低めて由弦を問い詰めた。

すると由弦は慌てた様子で首を左右に振った。

「ち、違う! な、中を見るつもりはなかった!!」

……もし嘘を付いているならば、ここまで慌てはしないだろう。

そもそも勢いよくやり過ぎた自分にも非があると愛理沙は考え直した。

とはいえ、一つだけ確認しなければならないことがある。

「……中は見たんですね?」

「そ、それは、まあ……」

見えてしまったようだ。

愛理沙の身体が焼けるように熱くなる。

(……不幸中の幸いと思うことにしますか)

幸いにも、今日の下着は見られても問題のない……

愛理沙の中でも特別にお気に入りで、かつ、新しい物だったのだ。

「……ちなみに、どうでした?」

「ど、どう、とは?」

「せっかくなので、感想を聞いてみようかなと」

どうせ見られてしまったのだから。

と、愛理沙は開き直り、由弦にそう尋ねた。

由弦は困惑した表情を浮かべながらも……

「……やっぱり君は黒が似合うなと思った」

「そ、そうですか」

「ガーターベルトは普段から……?」

「い、いえ……これはメイド服に合わせました」

愛理沙はそう言いながらそっと、スカートを捲った。

メイド服に合わせて試しにガーターベルトを購入してみたのだ。

初めて付けて見たが、意外と着心地は悪くはないというのが愛理沙自身の感想だった。

「……メイド服と一緒に買ったのか?」

「はい」

愛理沙の給料の使い道の一つだ。

普通の服を買う分はお小遣いをもらえるので、普通ではない服を購入しようと考えたのである。

「買ったと言えば……ゆづ、ご主人様! プレゼントがあります」

愛理沙はそう言うと台所から由弦へのプレゼントを持ってきた。

お洒落な包装紙とリボンで飾られている。

「どうぞ……開けてください」

「うん、ありがとう」

由弦は愛理沙に小さくお礼を口にすると……

丁寧にリボンを解き、包装紙を開き、そして箱を開けた。

「これは……化粧水?」

「いろいろ考えましたが、誕生日プレゼントは無難に普段使いできて、かつ消耗品が良いかなと思いました。お髭を剃った後やお風呂上りにでも使ってください」

最初はアクセサリーなどを贈ろうかと思った愛理沙だったが、装飾品は趣味に合うかどうかも重要になる。

万が一にも由弦が気に入らなかったら、迷惑になってしまう。

それに後に残る物はいろいろと保管にも気を遣うだろう。

誕生日プレゼントは毎年、贈り合うのだから、普段使いできる消耗品が良いと考えた。

そこで選んだうちの一つが化粧水だ。

化粧水なら、愛理沙でも善し悪しが分かる。

「なるほど。……良い機会だし、これから使って行こうかな」

由弦はそう言うと丁寧に化粧水を箱に戻した。

愛理沙の言葉通り、髭を剃った後や風呂上りに使うつもりなのだろう。

「ところで……愛理沙。お礼をしたいんだけど、いいかな?」

「……お礼、ですか?」

「うん。こっちに来て、座ってくれ」

言われるままに愛理沙は由弦の正面に座った。

すると由弦はそっと、愛理沙の肩に手を置いた。

ゾクっとした物が愛理沙の身体の中を走った。

「いいかな?」

「は、はい……」

由弦はゆっくりと愛理沙を引き寄せていく。

背中と後頭部に由弦の手が添えられる。

そっと、愛理沙は目を瞑り……

続けて柔らかい感触がした。

ゾクゾクとした物が愛理沙の中を駆けていく。

(もう、少し……!)

長くしていたい。

深いものが欲しい。

愛理沙はそう思ったが……

しかしゆっくりと、由弦の唇は離れてしまった。

「ありがとう、愛理沙」

「……はい、どういたしまして」

愛理沙は笑みを浮かべながらも……

少しだけ残念に思うのだった。