軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 婚約者の子供

由弦と愛理沙が“仲直り”をしてからしばらくした日の昼休み。

愛理沙は亜夜香たちと共に、昼食を食べていた。

「それで一応、仲直りはできたの?」

亜夜香の問いに愛理沙は頷いた。

「はい。……ご心配をお掛けしてすみません」

愛理沙が頭を下げると、全くだと言うように天香と千春は大きく頷いた。

「そうよ。……普段、仲の良い人たちがギクシャクしてると、こっちまで気を遣うんだから」

「私もお二人が結婚する前提で、いろいろ考えていることがありますからねぇー。いやはや、安心しました。婚約破棄にならなくて良かったです」

“婚約破棄”

千春の言葉に愛理沙は小さく身を震わせた。

「本当に良かったです。由弦さんが優しい人で……」

愛理沙は顔を真っ青にしてそう呟いた。

当時は意地を張っていたが……冷静に考えてみれば、嫌われてもおかしくなかった。

由弦から「もういいよ。やめにしよう」などと言われれば……

愛理沙はショックで死んでしまったかもしれない。

「まぁ……こんなくだらないことで破談になったら、一生笑ってあげるけどねー」

ケラケラと亜夜香が笑うと、愛理沙は頬を膨らませた。

「……くだらなくないです。大事なことです」

「いや、くだらないというのは理由の……注射の話で……」

「くだらなくないです」

真面目な顔をして愛理沙はそう言った。

亜夜香は愛理沙なりの冗談なのか、それとも本気でくだらなくないと思っているのか、分からなかった。

「……ちなみに打つの? 打たないの?」

くだらなくない。

と、そう主張する愛理沙に天香はそう尋ねた。

すると愛理沙は目を逸らした。

「い、いや、ま、まあ……その、まだ時期には早いですし、追々決めようかなと……」

由弦とは仲直りできたが、注射が怖いことは変わらない。

愛理沙としてはやはり打ちたくないようだった。

これには三人は苦笑いを浮かべる。

もっとも、三人にとってはどうでも良いことでもあったので、これ以上言及することはなかった。

「……ところで私と由弦さんの結婚で、いろいろ考えてるとはどういうことでしょうか?」

注射の話題をこれ以上したくなかった愛理沙は、話題を変えるついでに、先ほどの千春の発言で気になった部分について、聞いてみることにした。

愛理沙と由弦の結婚式の後にサプライズでも計画しているのか……

まさか、いくら何でも気が早すぎる。

「え? あぁ……高瀬川家は大きな家ですから。その次期後継者のお相手がどんな人物になるのかは、“上西”としては注目してます」

それから満面の笑みを浮かべた。

「私としては高瀬川家とは仲良くしていきたいと思っていますからね。当然……私と仲の良い女の子の方が、付き合い易くていいですね」

友人の結婚相手が、凄く性格の悪い人物だったら愛理沙も嫌になる。

逆に見知った人物なら安心できる……

そう解釈した愛理沙は、大きく頷いた。

「そういうことですか。では、今後ともよろしくお願いします」

愛理沙がそう返すと、千春は口元に小さな笑みを浮かべた。

「あら、本当ですか? では……より親密な“家族”ぐるみのお付き合いをさせていただいても……?」

「えぇ……別に構いませんが……」

「愛理沙ちゃん。……そういうのは、あまりほいほい頷かない方がいいよ」

頷こうとする愛理沙に対し……

亜夜香は苦笑しながらも、愛理沙の言葉をやや強引に遮った。

「……今ので言質取った扱いをするつもりはないよね?」

「酷いですね。友人にそんな詐欺紛いなこと、するわけないじゃないですか。冗談ですよ、冗談」

「いや、詐欺だとは思うけどね……」

「詐欺じゃないですよ? ちゃんと、しっかり前置きはしましたから」

亜夜香と千春のやり取りに……

愛理沙と天香は不思議そうに首を傾げた。

「えーっと、何の話でしょうか?」

愛理沙がそう尋ねると……

千春は満面の笑みを浮かべた。

「いえ、言葉通りです。個人同士だけでなく、家族同士でも仲良くしていけたらなという……」

「政略結婚の誘いでしょ?」

亜夜香は呆れた表情で千春の言葉を遮った。

一方で千春は小さく肩を竦めた。

「そこまでは言ってないです」

「言ってはなくても、含めてたでしょ?」

「さぁ……解釈は人それぞれかなと……」

亜夜香の指摘に千春は否定も肯定もしなかった。

そしてそれは答えでもあった。

「……もしかして、愛理沙さんの子供と自分の子供を結婚させようって。そういう提案をしてたの?」

察しのついた天香は呆れた表情でそう言った。

捕らぬ狸の皮算用とはこのことである。

「そうですね。どのような形でも構いませんが、上西家と高瀬川家の間でより深い縁が結べたらなぁ、なんて……」

そう言いながら千春はチラっと愛理沙の顔色を確認した。

さて、当の本人である愛理沙はというと……

「わ、私と、ゆ、由弦さんの、こ、子供なんて! そ、そんな……!!」

顔を真っ赤にして固まっていた。

そして首を大きく左右に何度も振った。

「だ、ダメ……ダメです!! そんなの!! 高校生で……ふ、不純です!!」

恥ずかしがる愛理沙に対し……

亜夜香と千春は顔を見合わせ、ニヤっと笑みを浮かべた。

「いやー、でも、どうかな? ゆづるんの方は……」

「案外、こっそり準備しているかもよ?」

「だ、ダメです……そ、そういうのは、もう少し段階を踏んでから……」

「段階? ……愛理沙ちゃんが思う段階って、どんなの?」

「何をどう、されたいんですか?」

愛理沙を揶揄い始める二人。

あたふたする愛理沙。

そんな三人に対し、天香はため息をついた。

「……校内で止めて欲しいんだけどね」