軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 サメ

幸いにも由弦の懸念――食材が多すぎるのではないか――は杞憂に終わった。

浜辺、炭火、BBQ、気の合う友人と一緒。

これだけ条件が整って、食が進まないはずがない。

ワイワイと騒ぎながら食べているうちに、あっという間に食材は減っていった。

もちろん、全て食べ切ることはできなかったが……

夕食のカレーに回せば、十分に消費できそうだった。

それから午後は日光浴をしたり、男女で別れてビーチバレーをしたり、泳いだり……

としているうちにあっという間に時間は過ぎ去った。

それから夕食にカレーを作り、食べ終え、後片付けまで終えて……

「みんな、まだ寝ちゃダメだからね! ここから、夜は長いから!!」

亜夜香の言葉に全員が頷く。

まだ誰も寝るつもりはなかった。

「じゃあ、愛理沙ちゃん。……何の映画、持ってきた?」

愛理沙の担当は夜にみんなで見る「映画」だった。

ジャンルは不問で、愛理沙に一任されている。

(しかし愛理沙に映画とは……)

こう言っては何だが、愛理沙がエンタメを楽しんでいるイメージ――いわゆる“オタク的なイメージ”――はあまりない。

そのため愛理沙が適任とは、由弦は正直思えなかった。

おそらく亜夜香が愛理沙に映画を任せた意図は、そんな愛理沙がどんな物を持ってくるのだろうか? というような興味半分だろう。

由弦も愛理沙の趣味嗜好の何もかもを知り尽くしているとは言い難いので、少し気になる。

(何となく、ジ○リ映画とか、あとは王道なラブロマンスとか選びそうなイメージがあるな)

少なくとも愛理沙が怪獣映画やアクション映画を持ってくるとは思えなかった。

ホラー映画は? ……論外だろう。

「それは見てからのお楽しみですね」

亜夜香の問いに愛理沙は澄ました表情でそう答えた。

……どうやら自信があるらしい。

「えー、気になります! どういうのですか?」

「……いやまあ、正直、私も内容はそこまで知りません」

千春の問いに愛理沙はそう答えた。

「ただ……私の 養父(ちち) のお勧めです。……あの人はアメリカに留学経験がありますから。間違いはないはずです」

映画文化が盛んなアメリカに留学したことがある人が選ぶ映画なのだから、絶対に面白いはずだ。

と、愛理沙は考えているようだ。

根拠としてはかなり脆弱だ。

(……大丈夫か?)

由弦は少しだけ心配になった。

お世辞にも愛理沙の養父――天城直樹――にその辺りのセンスが備わっているとは思えない。

「内容は全く確認してないのか?」

「いえ、あらすじは確認しましたよ。面白そうでした」

由弦の問いに愛理沙は自信ありそうに答えた。

とりあえず、全く中身を確かめていないというわけではないようだ。

「そういうゆづるんはちゃんと、お菓子用意した?」

「まあ、一応」

ちなみに由弦の担当はお菓子だった。

由弦はリュックサックから、購入しておいたお菓子を取り出す。

ポテトチップスのようなスナック菓子から、ちょっとした駄菓子まで、一通りの物を揃えて置いた。

「へぇー……意外に悪くないじゃん」

「私、てっきり場違いなケーキでも持ってくると思ってましたよ」

「俺だって空気くらいは読める」

ケーキが悪いわけではないが……

友人たちと一緒に騒ぎながら口に運ぶ物としては不適切だ。

「天香ちゃん、ジュースとかは?」

「もちろん、あるわよ」

なお、天香の担当は飲み物だった。

彼女はBBQの時に飲んだ残りのミネラルウォーターや緑茶、烏龍茶に加えて……

瓶詰の高そうなオレンジジュースを取り出した。

ラベルには生絞りと書かれている、

随分と良い品を持ってきたようだ。

「準備はオーケーっと……じゃあ、愛理沙さん」

「はい、付けますね」

聖に促され、愛理沙はテレビのリモコンを操作する。

映画が始まり、すぐにタイトルが画面に映し出される。

トルネードシャーク。

それがその映画のタイトルだった。

「いやぁー、愛理沙ちゃん! いいセンスしてるね!!」

映画が終わった後。

亜夜香は上機嫌な様子でそう言った。

「さすが、愛理沙さんです! 予想からは大きく外れ、しかし期待はそれ以上に答える! 最高でした!!」

千春もまた、愛理沙を褒めたたえる。

そして褒められている等の愛理沙はというと……

「そうですね。面白かったです。…… 養父(ちち) を頼って正解でした」

満足そうに頷いた。

「どうでしたか? 由弦さん」

「え? あっ……いや、うん、おも……いや、楽しかったよ」

面白いというよりは、楽しかった。

それがその映画の感想であった。

台風に乗って空からサメが(たまにワニが)降ってくるという頭のネジが三本くらい抜けているとしか思えないその映画は、お世辞にも面白いと言えるものではない。

だが、大勢で笑いながら、ツッコミを入れながら見る分としては、十分に楽しかった。

ある意味、この場に於ける最適解ではあった。

「……愛理沙はこういうのが好きなのか?」

「はい、好きですよ!」

満面の笑みで愛理沙はそう答えた。

「そ、そうか……」

こうして由弦は婚約者の意外な一面を知ったのだった。