作品タイトル不明
第27話 婚約者とBBQ
「……そう言えばそろそろ、お昼ですね」
「そうだな」
愛理沙の言葉に由弦は時計――防水性――を確認した。
時刻は十一時半。
そろそろ亜夜香が指定した昼食の時間になる。
「確かお昼はBBQをやるという話でしたよね?」
「そうだな。確か……担当は亜夜香と千春と宗一郎か」
今回の海水浴では、それぞれが担当の何かしら――例えば食材など――を持ち込むことになっている。
例えば亜夜香は肉、千春は野菜、宗一郎は海鮮をそれぞれ持ち込むことになっていた。
「……ちゃんとした食べ物だといいんだが」
三人の性格――特に亜夜香――を考えると、“ネタ”に走る可能性がある。
「さ、さすがに食べられる物ではあると思いますよ……?」
どうやら愛理沙からも“変な物”を持ってくると思われているようだ。
とはいえ、本当に食べられない物、人を選ぶような物を持ってきて誰も食べられない……ということになれば、確実に白ける。
三人ともそのくらいのことは理解しているはずなので、最低限食べられる物を持ってきてくれるはずだ……と由弦と愛理沙は信じたかった。
「とにかく、そろそろ集合場所に行こうか。遅刻したらグチグチ言われそうだ」
「そうですね」
二人は海から上がり――愛理沙はラッシュガード等を着込むと――、集合場所へと向かった。
しばらく歩いていると……
「……噂をすれば二人ですね」
「せっかくだし、一緒に行こうか」
亜夜香と千春の二人を見つけた。
由弦と愛理沙は二人に声を掛けようとするが……
「……様子がおかしくありません?」
「……そうだな」
思わず愛理沙と由弦の二人は岩陰に隠れた。
そして影から覗きながら、そっと聞き耳を立てる。
「いいじゃないですか、亜夜香さん」
「い、いや、でも……さすがにこんなところで、それは……」
「大丈夫ですって、誰も見てませんよ」
「でも、わ、私には、宗一郎君が……」
「そんなこと、私には関係ありませんよ。……ね?」
「や、やめ……あっ……」
由弦と愛理沙はそっと、後退り……
それから逃げるようにその場から立ち去った。
「わ、私たちには早い世界でしたね……」
「……俺たちはまだまだ子供だったな」
集合場所に到着すると、すでに聖と天香、そして宗一郎の三人が先に待っていた。
宗一郎は由弦と愛理沙に問いかける。
「亜夜香と千春、見なかったか?」
「い、いや、別に……」
「何も見てません」
二人がそう答えると、宗一郎は小さく肩を竦めた。
「そうか。……まあ、どうせどこかで乳繰り合ってるんだろ」
遅刻するなと言うやつほど遅刻するんだよなぁ……
などと、宗一郎はため息をついた。
そして五分後。
砂浜を駆けながら二人の少女がこちらに走ってきた。
「ごめんね!」
「いやー、少し遅れました」
悪びれもなく、二人はそう言った。
それからすでに設置されているBBQセットに視線を向けた。
「もうやってくれたんだ」
「男子三人がね」
亜夜香に対し天香はそう答えた。
待っているのも暇ということで、すでに由弦と宗一郎、そして聖の三人で設置してしまった。
後は食材を並べ、炭に着火すれば始められる。
「さて、後は食材だが……二人が来たことだし、見せるか」
宗一郎はそう言うと持ってきていたクーラーボックスを開いた。
そしてビニール袋に入った食材を並べていく。
「とりあえず……海老、ホタテ、イカ、ハマグリ、サザエ、アジ。この辺りは定番だな。そしてイチオシは蟹と岩牡蠣だ」
宗一郎が持ってきたのは想像よりも普通だった。
由弦を含めた四人は胸を撫で下ろす。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
そんなラインナップだ。
「意外と普通じゃないか」
「ああ。本当はシュールストレミングを持ってこようと思っていたんだが……自重した」
「偉いな、よしよし」
聖は宗一郎の頭を撫でる。
そして宗一郎は「男に撫でられてもうれしくない」とそれを振り払った。
「じゃあ、次は私ですかね」
千春はそう言うと、自分が持ってきていたクーラーボックスを開く。
そしてビニール袋に入れられた――事前にカットしておいたようだ――野菜を取り出す。
「旬の物については地元から送ってもらいました。とうもろこし、じゃがいも、たまねぎ、トマト、キャベツ、にんにく。この辺りは定番ですよね。キノコは椎茸とエリンギ。それと九条ネギ、賀茂なす、伏見唐辛子……この三つはおすすめです」
ついでに〆用の焼きそば麺も用意しました。
と、千春は言った。
意外と普通だ。
特に京野菜を持ってくることで、独自性をアピールしているところはポイントが高い。
「デザートでドリアンを持ってこようかと当日まで悩みましたが、断念しました」
「偉いわね、よしよし」
「もっと褒めてください!」
「ちょっと、抱き着かないで!!」
天香の胸に顔を押し付ける千春を尻目に、亜夜香は自分の番だと言わんばかりにクーラーボックスを砂浜に置いた。
「とっておきのを持ってきたから」
亜夜香の言葉に、由弦と愛理沙は顔を見合わせた。
嫌な予感がしたからだ。
一方で亜夜香は気にせず食材を並べていく。
「牛はカルビ、牛タン、ホルモン。豚はピートロ。鶏は焼き鳥の塩とタレ。それとラム肉」
意外と普通じゃないか。
と、由弦は安心するのと同時に、少しだけガッカリした気持ちになった。
……しかし亜夜香はさらに食材を取り出していく。
「で、これが鹿」
「……鹿?」
「それと、兎と雉ね」
流れが変わったのを由弦は感じた。
「で、これがワニ!」
「ワニ!」
愛理沙が驚きの声を上げた。
……少しだけ目が輝いている。
「そしてこれは凄いよ。クマの手!」
「すげぇな、おい」
聖は呆れ半分、驚愕半分という声を上げる。
「そして最後はカエルね」
「か、カエルって……」
天香は嫌そうな顔をした。
彼女は食べたくないようだ。
一方で愛理沙は興味津々な様子で、カエルを眺めている。
一先ず愛理沙は食べる様子なので、残る心配はない。
(まあ、俺も食えるし……亜夜香も持ってきたからには食えるだろう)
由弦は過去に中国に旅行に行った時、カエルを食べたことがある。
海外旅行に行けば、この手の物は一度くらいは食べる機会がある。
日本の飲食店でも、提供しているところは提供している。
食わず嫌いな人でなければ、生涯に一度は口にする物だ。
「さすが、亜夜香だ……!」
「痺れる、憧れる!」
「ふふん、もっと褒めて!」
宗一郎と千春の二人から頭を撫でられ、亜夜香はご機嫌そうに笑みを浮かべた。
やはりこの三人は感性が似通っているようだ。
「しかし随分と食材が多いが……食べ切れるのか?」
由弦はそんな懸念を口にした。
育ち盛りの男女が七人いることを含めても、食材の量はかなり多い様に感じた。
「ああ、大丈夫。余った分は夕飯のカレーと味噌汁に入れちゃうから」
「それは随分と豪華な夕食になりそうだ」
クマの手は合いそうだが、カエルは合うのだろうか?
由弦は内心で首を傾げた。