軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 婚約者の誕生日

さて、六月中旬頃の……とある日曜日のこと。

「誕生日、おめでとう。愛理沙」

自宅に訪れた愛理沙に対して由弦はそう言った。

厳密には誕生日から、やや日数はズレてはいたのだが……日曜日、愛理沙が由弦のマンションへ訪れる日にお祝いをすると決めていた。

数日のズレは誤差の範囲である。

「これ、プレゼント……前と同じだけど」

由弦はそう言って、愛理沙にプレゼントを渡した。

中身は前の年と同じ、タオルと石鹸のセットだ。

一応、石鹸は種類(香り)が異なるものを選んだが……大差はないので、由弦としては少し恐縮する思いだった。

「ありがとうございます。嬉しいです」

愛理沙はそう言って微笑んだ。

以前に貰ったものは、愛理沙としては趣味に合致し、とても良い物だったので、たとえ同じ物であっても不満はなかった。

もっとも、そもそも由弦からのプレゼントである以上、不満などあるはずもないのだが。

……よっぽど、変な物であれば、話は別かもしれないが。

「でも、その……」

「うん?」

「別の物も……欲しいかなって……」

愛理沙は上目遣いで由弦を見上げた。

一方、由弦は首を傾げる。

「別の物? ……まあ、ケーキなら、用意してあるけど」

「そ、そっちではなくて……」

おどおどと、慌てた様子を見せる愛理沙。

由弦はそんな彼女を見て微笑み……

「おめでとう、愛理沙」

そっと、愛理沙の唇へと、接吻した。

愛理沙の顔が真っ赤に染まる。

「も、もう……揶揄わないでください!」

「いや、愛理沙が可愛くてつい……」

「もう、由弦さんなんて、知らないです! 嫌いです!」

そう言って愛理沙はそっぽを向いた。

今度は由弦が困る番だ。

「ごめん、愛理沙。……許してくれないか?」

「……どうしても、許して欲しいですか?」

「どうしても」

「……何でもします?」

「何でもする」

「じゃあ、龍の首の珠飾りを持ってきてください」

「いや、それは……ちょっと厳しいな」

「蓬莱の玉の枝でもいいですよ?」

「偽物なら、まあ、用意できなくも……」

「本物じゃないと、ダメです」

全く、もう……

そんな調子で愛理沙は小さく鼻を鳴らす。

「じゃあ、由弦さんが……考えられる限り、一番の物をください」

「それならお安い御用だ」

由弦はそう言うと……

愛理沙の唇に軽く接吻した。

一方、キスをされた愛理沙は瞑っていた目を開き……ジト目で由弦を睨む。

「キスすれば、何でも許されると、思っているでしょう?」

「キスじゃ、ダメか?」

「……一回だけじゃ、ダメです」

愛理沙は不満そうにそう言った。

そんな愛理沙の唇を、由弦は再び塞いだ。

そして三度目、四度目と軽くキスをして……

最後の五度目は、少し長めに愛理沙の唇を塞いだ。

それから唇を離し……

すっかりと力が抜けて、由弦に支えられる形で惚けている愛理沙に対し、由弦は尋ねる。

「まだ、足りないか?」

「こ、今回は、これだけで許してあげ……」

そう、言いかけた愛理沙の唇を、再び塞ぐ。

愛理沙は目を白黒させた。

「ちょ、ちょっと……」

「物足りなそうだったから。もっと欲しい?」

愛理沙は赤らんだ顔で、首を左右に振った。

それから姿勢を正し、少しだけ乱れた服を直す。

「ま、全く……結局、由弦さんがしたかっただけですよね! 仕方がないんだから……」

言葉の割には嬉しそうな愛理沙。

どうやら、由弦からのプレゼントはお気に召したようだった。

それから二人はケーキを食べ、ゲームをし、少しだけ勉強をし……愛理沙が作ってくれた料理に舌鼓を打った。

そして二人で皿を洗っている最中のこと。

「……由弦さんの誕生日って、十月ですよね?」

「ああ、そうだよ」

あと、四か月ほど先になる。

「由弦さんは何が欲しいですか?」

「欲しい物? いや……別に何でもいいけど……」

とはいえ、何でもよいという回答は一番困るだろう。

由弦は少し考えてから答える。

「君がケーキを焼いて来てくれるなら、嬉しいかな」

由弦の返答に対し、愛理沙は少し困った表情を浮かべた。

「いえ……プレゼントとは別にケーキは用意するつもりなので……」

「そうか。……うん、そうだったね」

去年、愛理沙は由弦に手首を飾るアクセサリーを作ってくれたが、それとは別にケーキを焼いて来てくれた。

愛理沙にとって、誕生日ケーキと、プレゼントは別ものだ。

「手作りで何か、作ろうかとも思ったんですが……毎年、マフラーとか、手袋を編んでも……そんなにたくさん、要らないでしょう?」

「まあ、俺は君からのプレゼントだったら、何だって嬉しいけどね」

とはいえ、マフラーが二本も三本もあると困るのは確かだが。

「そうだなぁ……普段使いする、消耗品とかは、助かるかな」

方向性としては、由弦が愛理沙に贈った石鹸などと同じである。

由弦のそんなアバウトな答えに、愛理沙はなるほどと、頷いた。

「分かりました。……考えておきます」

愛理沙はそう言って小さく微笑んだ。

さて、それから由弦は愛理沙を家まで送り届け……

さよならのキスをしてから、愛理沙は自宅に上がった。

そして部屋に入り、小さく呟いた。

「お金、どうしようかな……」