軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 ネットde真実 その2

「……へえ、綺麗だな」

眼下に広がる夜景に、由弦は目を細めた。

百万ドル、とまではいかないが十万ドルはありそうな感じの、美しい風景が広がっている。

「近くにこんな場所があるなんて」

「喜んで貰えて嬉しいです」

ここは由弦が住むマンションから少し離れたところにある展望台だ。

今日は由弦と愛理沙の婚約記念日である。

といっても何でもかんでも記念日だからといってプレゼントを用意したり、外食をしたりするのは由弦も愛理沙も疲れる。

しかし何もしないというわけにもいかない。

そこで愛理沙は景色が綺麗で、ロマンティックな場所を事前に探しておいたのだ。

「……由弦さん」

愛理沙はそっと、由弦の手を握った。

そして体を由弦の方へと寄せた。

由弦も愛理沙の肩を抱く。

「愛理沙」

「はい」

二人はじっと、見つめ合った。

互いの瞳に互いの顔が映る。

ゆっくりと、顔が近づく。

そして……

二人の唇が合わさった。

「……できたね」

「はい。……できました」

緊張が解けたのか、愛理沙は力が抜けたように由弦に寄りかかった。

由弦はそっと彼女を支えて、ベンチに座らせる。

じっと、寄り添い合う二人。

沈黙が辺りを包み込む。

「……ずっと、不安でした」

ポツリ、と愛理沙はそう言った。

「不安?」

「……由弦さんがイライラしていないかって」

「イライラ? 俺が?」

由弦は首を傾げた。

特に愛理沙に不快になるようなことをされた覚えはない。

もちろん、日常の些細なことならば話は別だが。

そういうものは全て、その場で解決してきた。

「いえ、その……」

「うん?」

「キスが、全然、できないこと……とか」

気まずそうな顔で愛理沙はそう言った。

確かに愛理沙は唇同士のキスができないくらい恥ずかしがり屋だった。

とはいえ、由弦と愛理沙は付き合ってから……およそ二か月程度。

それもお互い、高校生だ。

「一般的なカップルの進展はよく分からないが……そんなに変なことじゃ、ないんじゃないか?」

由弦は愛理沙が初めての恋人なので、“普通”は分からない。

が、しかし特に違和感は覚えなかった。

こんなものか。

と、そんな気持ちで愛理沙に付き合うつもりでいた。

「いえ、でも……男の人はそういうことをしたがったり、もっと積極的な子が好きだったりするんじゃないかなって。……あまり初心過ぎたりすると、面倒くさいと思われるのかなと」

「……誰かに言われたのか?」

由弦と愛理沙の色恋沙汰に口を挟もうとする人物としてすぐに顔と名前が浮かぶのが、亜夜香と千春だ。

しかし二人は揶揄いはするだろうが、愛理沙にそういうことをしようと、嗾けたり、圧力を掛けたりするようなタイプではない。

むしろ由弦が変な要求をしてきたら、自分たちに言い付けろなどと言うだろう。

となると、他に考えられるのは愛理沙の家族くらいなものだが……

「いえ……ネットで」

髪を弄りながら愛理沙はそう答えた。

確かにネットにはそういうことが書いてありそうだ。

「別にそんなことは思わないし、無理はしなくても大丈夫だよ」

それから由弦は尋ねる。

「……もしかして、さっきのは無理してた?」

「まさか! いえ、緊張はしましたけど……私も、由弦さんと……したかった、ですから」

恥ずかしそうに愛理沙はそう答えた。

……決して無理をさせていたわけではないことに、由弦は少し安心する。

「でも、今は、これ以上は……怖いというか」

「うん、大丈夫。少しずつ、進めていこう」

そういって由弦は愛理沙の髪を撫でる。

由弦は安心させるつもりで言ったのだが……しかし愛理沙は泣きそうな顔をした。

「でも……その、する、つもりだったんですよね?」

「……何を?」

「……その」

愛理沙は少し良い淀んでから、顔を真っ赤にさせていった。

「え、えっちを……」

今度は由弦の顔が赤くなる番だ。

「ま、まさか! いや、もちろん、したくないわけではないけど……」

由弦は頬を掻いた。

由弦も健全な男子なので、そういうことに興味がないわけではない。

だが……

「俺たちには少し早いと、思っている。……勢いに任せてとか、そういうのは良くないかなと」

初めては大切にしたい。

少なくとも後悔がないようにしたいと由弦は考えている。

「で、でも、期待……してたんじゃないですか? お、お泊り、ですし。ネットだと……」

「いや……今回は君と一緒に、楽しく過ごせるだけで良いかなと。もちろん、意識しなかったわけじゃないが」

この連休中にそういうことを済ませようという気持ちは由弦にはなかった。

愛理沙と一つ屋根の下で過ごせるだけで、十分楽しいと思っていたし、実際楽しかった。

時間はまだまだあるのだから、無理をしてまで関係を前に進めようとは思っていない。

「でも……薬箱の中に、入ってたじゃないですか」

「……薬箱?」

何のことだろうか? と由弦は首を傾げる。

と、そこでようやく薬箱の中に避妊具を入れていたことを思い出した。

「あ、あぁ……あれは……」

「やっぱり……したかったんですよね。でも、私に遠慮して……由弦さんは我慢を……」

「待ってくれ。……一旦、落ち着こう」

由弦は愛理沙と、そして自分自身を落ち着かせるためにそう言った。

そして大きく深呼吸をして、答える。

「別にしたかったから、持っていたわけじゃない」

「……でも、そうなるかもしれないと、思っていたんじゃないんですか?」

「そうだね。でもそれを思っていたのは、俺じゃなくて……母さんだから」

「……はい?」

母親に言われて、「そういうこともあるかもしれない」と思い、もしもの時のために避妊具を買った。

由弦は愛理沙に正直に話した。

……母親に言われて避妊具を購入したことを恋人に話すのは、何とも由弦を微妙な気分にさせた。

「……つまり由弦さんが、自分の意志で買ったわけじゃないと?」

「いや……まあ、自分の理性を信用せずに、念のために買っておいたわけだから、俺の意志じゃないというわけではないけれど」

「……でも、しようと思って、買ったわけじゃないと?」

「まあ、そうだね。使うつもりはなかった」

由弦がそう言うと……

愛理沙は大きなため息をついた。

それから顔を手で覆う。

「……私の考え過ぎ、でしたか」

それからゆっくりと、顔を上げた。

その顔は暗闇でもはっきりと分かるほど、真っ赤に染まっていた。

「早とちり……しました。本当にすみません」

その表情には、先ほどまでの不安の色はなかった。

「いや……俺もあんな場所に無造作にしまっておくべきじゃなかった。不安にさせてすまない」

「いえ、そもそも私が薬箱の中を覗いたのが悪いので」

ペコペコと、二人で謝り合う。

俺が悪い、私が悪かった……そんな応酬が続く。

「違うんです。悪いのはわた……」

そんな愛理沙の唇を、由弦は人差し指で止めた。

それから顎に手を軽く添える。

「……」

愛理沙は目を瞑った。

由弦は軽く愛理沙の顎を持ち上げる。

唇と唇を合わせる。

「取り敢えず、キスはしても良いんだよね?」

「はい……もちろん」

由弦の問いに愛理沙は恥ずかしそうに目を逸らしながら答えた。

そんな愛理沙の肩を、由弦は軽く掴む。

「……由弦さん?」

それから由弦は愛理沙を強く抱きしめた。

そしてゆっくりと、時間を掛けて……

愛理沙を押し倒す。

「え、えっと……んっ」

愛理沙の唇を、由弦は自分の唇で塞いだ。

「今すぐしたいというわけではないし、君に無理させてまでしたいわけではないが……」

これを愛理沙に言うのは、卑怯だろう。

由弦はそう思いながらも、はっきりと言った。

「いずれは、君と……愛し合いたいと、思っている」

由弦ははっきりと、愛理沙の瞳を見つめながら言った。

一方、愛理沙は大きく目を見開き……そして恥ずかしそうに視線を右往左往させる。

それから由弦の瞳を見つめて答えた。

「私も……その、いずれ、絶対に愛し合いたいと、思って……います」

はっきりと、そう言ってくれた。

とても健気だった。

由弦は再び、顔を愛理沙へと近づける。

二人の唇と唇が触れ合った。

「ねぇー、ママ!! あの人たち、何して……」

「シッ! 見ちゃいけません!」

二人は慌てて体を起こした。