軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 アイス

連休四日目の朝。

先に目が覚めたのは由弦の方だった。

大きく伸びをしてから、隣に視線を向ける。

すると相変わらず愛らしい寝顔の婚約者がいた。

目を瞑っている姿を見るとはっきりと分かるが、睫毛がとても長い。

ツンツンと由弦は彼女の頬を突く。

「んぅ……」

すると小さな呻き声を上げた。

もぞもぞと体を動かし始める。

そしてゆっくりと、瞳を開けた。

翡翠色の瞳が由弦を捉える。

「むぅ……おはよう、ございます」

目を擦りながら、愛理沙は起き上がった。

どうやらまだ寝惚けているようだ。

「あぁ……おはよう」

由弦はそういって、彼女の頬に接吻した。

顔が一瞬で真っ赤に染まった。

目が覚めたようだ。

「……あの、昨日の夜の私の言動なんですけれど」

朝食の席でのこと。

もじもじと体を捩らせながら、愛理沙はそう言いだした。

その頬はほんのりと赤く染まっている。

「聞かなかったことにしてください」

「分かったよ」

由弦がそう言うと愛理沙は安心した表情を浮かべた。

が、すぐに不安そうな物へと変わる。

「その……別に嫌とか、そういうわけじゃなくて……」

あたふたと、言い訳をするように言葉を口にする。

「分かっているよ」

由弦はできるだけ落ち着いた声でそう言った。

それから愛理沙を落ち着かせるように、安心させるようにゆっくりと話す。

「高校生らしく、プラトニックな関係を続けよう」

「……はい」

そんな由弦の言葉に愛理沙は小さく頷いた。

その日はもう一度、愛理沙の水泳練習を行った。

残りの課題はバタ足と息継ぎ、そして水を掻くことだ。

「……どうでしたか?」

「うん、ちゃんと泳げてたよ」

水から上がった愛理沙の問いに対し、由弦は答えた。

すると嬉しそうに愛理沙は表情を綻ばせた。

さすがは運動神経が良いこともあり、一度コツを掴んだ愛理沙は見る見るうちに上達した。

今では二十五メートル……の半分程度なら、泳ぐことができる。

「あと、もう一度通えば泳げるようになりそうだね」

「はい。……これで水泳の授業は大丈夫そうで、安心しました」

由弦の高校では三年間の授業のうち、一度は必ず水泳を履修しなければいけないことになっている。

愛理沙は二年次に履修を済ませてしまう腹積もりのようだ。

「今日は君も、もう疲れただろうし。……お風呂に入ってから、帰ろうか」

「そうですね。そうしましょう」

二人は一度お風呂に入って、冷えた体を温めてから(といっても温水プールなので決して冷え切ったわけではないのだが)上がった。

「……少しお腹、空きましたね」

何気なく、愛理沙はそんなことを言った。

確かに由弦も少し小腹が空いている。

もう夕暮れ時なのであと少しで夕食だが……少しくらいならば、何かお腹に入れても悪くはない。

「アイスでも、買って食べる?」

「コンビニに寄るんですか?」

「いや、そこで買おうかなと」

由弦はそう言って自動販売機を指さした。

おおよそ二百円以内で買えるアイスが売られている。

「あぁ……なるほど。いいですね」

少し弾んだ声で愛理沙は言った。

「これとこれとこれはどういう違いがあるんですか?」

自動販売機に描かれている絵を見ながら愛理沙はそんなことを尋ねた。

案の定、買うのは初めての様子だ。

「こっちは棒に刺さってて、こっちはコーン付きだ。これはチューブみたいになってる。……初めて?」

「そうですね。機会がなかったので。由弦さんはよく食べるんですか?」

「いや……一年ぶりくらいではあるね」

わざわざ自販機を探して買いたいとは思わない……

が、売られていると買ってしまう。

特に運動した後は。

上手い商売だなと、由弦は愛理沙がえいやとボタンを押している姿を眺めながら思った。

アイスを購入し終えた二人は、ベンチで並んで食べることにした。

由弦が選んだのはグレープだ。

味は……普通のグレープのシャーベットアイスだ。特筆するべきところはない。

「由弦さん、由弦さん」

くいくいと、愛理沙は由弦の服を引っ張る。

「欲しい?」

「はい」

由弦がアイスを差し出すと、愛理沙は小さく口を開けた。

シャリっと、アイスを齧る。

「由弦さんも、どうですか?」

「じゃあ、貰おうかな」

せっかくなので、愛理沙のアイスも貰うことにした。

小さくアイスを齧る。

味は……普通のチョコレートだ。

そんな食べさせ合いをしつつ、二人はアイスを完食した。

「思っていたよりも、美味しかったです」

初めての自動販売機のアイスは、愛理沙のお気に召したようだった。

満足そうな表情だ。

「今度は別の味も食べてみたいです」

「そうだね。……前に行ったことのある、総合娯楽施設にも売ってたと思うし。機会があったら食べようか」

その他、駅などにも売っている。

意外と探せばあるのだ。

「じゃあ、帰りましょうか」

「ああ」

夕日の中、二人で手を繋いで歩き始める。

そしてふと……愛理沙は声を上げた。

「今日は一応、婚約記念日ですね」

「え? ……ああ、そうだね」

愛理沙にそう言われ、由弦は思い出した。

今日は愛理沙と由弦が婚約を交わした日だ。

厳密には「仮の」婚約だが。

「……忘れてたでしょう?」

愛理沙にそう言われ、由弦は頭を掻いた。

「いや……うん」

これは怒られるだろうか?

と由弦が少し心配に思っていると、愛理沙はくすりと笑った。

「まあ、いいでしょう。……クリスマスや誕生日に比べれば、それほど重要なことでもありません」

愛理沙としては、特に婚約記念日を祝おうという気持ちがあるわけではないようだ。

「お祝いはお泊り会で十分です。こうして……二人でいられるだけで、私は幸せですから」

そう言って愛理沙はギュッと、由弦の手を握った。

それは「離れたくない」という意思表示に思えた。

「寄りたいところがあるんですけれど、いいですか?」

上目遣いで愛理沙は由弦にそう言った。

「もちろん」

由弦は強く彼女の手を握り返した。