作品タイトル不明
第25話 婚約者との就寝
美しい亜麻色の髪に、白い肌、翡翠色の瞳、艶やかな唇。
気付くとそれが由弦の目と鼻の先にあった。
「ゆ、由弦さん……?」
鈴の音が鳴るような音がした。
その声に由弦はハッと、我に返った。
目の前には困惑した表情の愛理沙がいた。
「あ、いや……すまない」
由弦は慌てて愛理沙から離れようとする。
だが、その前に……
「由弦さん」
ギュッと、愛理沙が由弦に抱き着いた。
愛理沙に引っ張られる形で、由弦は愛理沙の上に倒れ込む。
「愛理沙?」
「……しばらく、こうしていましょう」
そんな提案を受ける。
由弦は少し迷ったが、その魅力に抗えず、抱き合ったまま目を瞑った。
そして両手で愛理沙の体を抱きしめる。
彼女の温かさと柔らかさを体感する。
仄かにシャンプーの甘い香りが鼻腔を擽った。
「由弦さん……」
「……愛理沙」
互いの名前を呼び合う。
体の力を抜き、心地よい感覚に身を委ねる。
そして……
「ん……あれ?」
由弦はぼんやりと、目を開けた。
目を開けると目の前には、相変わらず、非常に整った顔立ちの婚約者様がいた。
瞳を閉じ、すやすやと心地よさそうな寝息を立てている。
「あ……寝ちゃったのか」
衝動的に由弦は愛理沙を押し倒した。
そしてその後……二人で抱きしめ合った。
互いの体温が心地よかったこともあり、二人ともそのまま寝落ちしてしまったのだ。
(……あれは、あのまま唇に接吻しても良かったのだろうか?)
接吻して。
情欲の任せるままに、愛理沙の肢体を貪っても良かったのではないか……
愛理沙もそうして欲しかったのではないか。
そんな可能性が由弦の脳裏を過った。
「んっ……由弦さん……」
可愛らしい表情と無防備な姿で寝入っている婚約者の姿が目に入る。
(いや……多分、あまり良くないな)
仮にしたとしても愛理沙は怒らなかっただろうし、由弦を嫌いにはならなかっただろう。
だが望んでいたかと言われると、それは少し違う気もする。
望んでいたのならば、もう少し具体的な言葉を口にしていたはずだ。
(……次はもう少し、場所を考えるか)
決してダメというわけではないが……
由弦の部屋というのは、ファーストキスの場としてはベストではないだろう。
由弦はあまりそういうことに拘りはないが、愛理沙はありそうだ。
夜景が綺麗な場所でも、少し探してみようと由弦は決めた。
「……さて」
カーペットの上で寝てしまったせいで、少し体が痛い。
今は夢の世界に旅立っている愛理沙も同様だろう。
由弦はそっと、愛理沙を抱き上げた。
そしてそのまま……自分のベッドの上に横たわらせる。
(……まあ、いいか)
布団を敷くのも面倒くさかった由弦は、そのまま愛理沙の横に寝ころんだ。
そして愛理沙の横顔をじっと眺める。
ふと、白雪姫の童話が由弦の脳裏を過る。
白雪姫ではお姫様は王子様のキスで起きるのだ。
だが、愛理沙は死んでいるわけではなく……熟睡しているので、きっと由弦がキスしたところで起きたりはしないだろう。
「おやすみ、愛理沙」
そっと、由弦は自分の顔を愛理沙の顔に近づける。
そしてその額に唇を押し当てた。
それから灯りを消す。
暗闇の中、由弦は愛理沙の体温を感じながら再び眠りについた。
翌朝。
「……んっ、ふぁぁぁ」
雪城愛理沙は目を擦りながら、起き上がった。
そして辺りをキョロキョロとする。
「……ああ、由弦さんの部屋ですね」
お泊り三日目の日であることを、愛理沙は思い出した。
そしてきょとん、と首を傾げる。
はて、いつ眠っただろうか? と。
「……ん、ありさぁー」
ふと、声が聞こえた。
隣には愛理沙にとっての、愛しの婚約者がいた。
そしてここは由弦のベッドの上だった。
「……ふぇ?」
愛理沙はしばらく、混乱した。