作品タイトル不明
第22話 婚約者との入浴(一回目)
愛理沙が身に纏っていたのは、白いビキニだった。
特に飾りがあるわけではない、シンプルなデザインだ。
以前、プールで着ていた黒いビキニの色違いという感じだろうか。
微妙にデザインは異なるが、露出度はそれほど大きく変わらない。
「……あの、由弦さん?」
「あ、あぁ……すまない」
恥ずかしそうに目を逸らされながら声を掛けられ、由弦は我に返った。
そして頬を掻きながら、言い訳をするように言う。
「てっきり、競泳水着を着てくるかと」
ビキニを持ってきていたことが少し意外だった。
由弦が少し驚いていると、愛理沙ははにかみながら言う。
「競泳水着だと、体が洗えないかなと……それにプールで使った水着でお風呂に入るのは、衛生的に良く無さそうですし」
「それは……まあ、そうか」
しかしそれは白いビキニを持ってきた理由にはならない。
……が、由弦は「備えあれば患いなし」ということで納得することにした。
「じゃあ、先入ってるから」
「はい」
一先ず、由弦は湯舟に先に浸かることにした。
一方、愛理沙は手早く体を洗っていく。
もっとも、あまり時間を掛けて洗っていると由弦が先にのぼせてしまう。
後でまた体を洗うことを考えれば、湯舟を汚さない程度に綺麗になればいい。
軽く水で流す形で汚れを落とすと、愛理沙は意を決した様子で立ち上がった。
「じゃあ……失礼しますね」
そう言ってから足を上げ、浴槽に足を入れる。
そして由弦に向き合う形で湯舟に浸かった。
「……」
「……」
沈黙が場を支配する。
二人は俯き、相手の顔を見ないように努める。
(……不味い、不味いな)
プールの時は気恥ずかしい気持ちはあったものの、決して相手を直視できないというほどではなかった。
しかし今はどうしても由弦は愛理沙の姿を見れなかった。
それは愛理沙が競泳水着よりも露出が多い白いビキニを着ているというのもあるが……
(密室で二人っきりというのは、よくないな……)
狭い空間に由弦と愛理沙の二人しかいないというのが、あまり良くなかった。
加えて二人は手を伸ばせば、触れられる距離にいる。
「あ、あの、由弦さん」
最初に声を掛けたのは愛理沙だった。
由弦は弾かれるように顔を上げる。
肌を真っ赤に紅潮させながら、愛理沙は由弦に言った。
「その……水着、どうですか」
「え、えっと……」
そう言われて由弦は愛理沙の体へと、視線を向けた。
透明な水の中で、真っ白い肌が浮かんでいる。
その肢体は伸びやかで、そして起伏に富んでいる。
そして大きな胸と、下腹部を隠すのは白い布切れだけだ。
白い布は水を吸い込んだことでぴったりと愛理沙の肌に張り付き……血行の良い健康的な素肌を僅かに透けさせていた。
……白は透けやすいのだ。
「に、似合っている……と思うよ。清楚な感じがして、可愛いと思う」
「そうですか。それは良かったです」
由弦の言葉に愛理沙は少し恥ずかしそうに、だが嬉しそうに微笑んだ。
どうやら少しだけ肌が透けていることには、気付いていないようだった。
別に狙って白を選んだわけではないようだ。
幸いにも絶対に透けてはいけないような部分は透けてはいない。
ジョーク用ではなく、ちゃんとした水着なのだから当たり前だが。
おそらく、アンダーショーツなどを着用すれば透け防止は問題ないだろう。
……今回は着て来なかったようだが。
「由弦さんはどっちが好きですか?」
「……どっち?」
「ほら、以前……夏休みのプールで着たやつと比較して、です」
つまり黒いビキニと白いビキニ。
どちらが好きかという質問だ。
「ううん……そうだね……」
黒いビキニはセクシーで大人っぽく、白いビキニは清楚で可愛らしい。
どちらも捨てがたいが、愛理沙に似合っているのは……
「黒、かな?」
「へぇ……理由は?」
「君は肌が白くて綺麗だから、黒の方が映えると思う」
愛理沙の肌や亜麻色の髪が引き立つのは、黒の方だと由弦は思っている。
「そうですか……じゃあ、今度、プールで遊ぶことがあったら、黒にした方がいいですか?」
「いや……別に俺に合わせなくてもいいよ。その、いろんな君の姿がみたいし」
由弦の言葉に愛理沙は恥ずかしそうに目を伏せた。
「そ、そうですか」
それから僅かに愛理沙は身を乗り出す。
肌が僅かに触れ合い、由弦の心臓がドキっとなる。
「先ほど、私の肌を……褒めてくださいましたけど。その、好きですか? 私の肌」
瞳を潤ませ、上目遣いで愛理沙は言った。
その表情には恥ずかしさや体温の上昇以外の熱があるように感じられた。
「それはもちろん。……君のことは全部、好きだよ」
「ぜ、全……」
由弦の言葉に愛理沙は顔をさらに赤くさせた。
そしてしなをつくりながら、由弦に尋ねた。
「……触りたいですか」
「いいの?」
愛理沙の思わぬ提案に由弦は思わず大きな声を上げた。
由弦の問いに愛理沙はこくりと、頷く。
「えっと……その、変なところはダメですけど。肩くらいなら……いいですよ」
そう言われて由弦は愛理沙の肩へと、視線を向けた。
白磁のように白く、滑らかで、そして美しい曲線を描いた華奢な女の子の肩だ。
肩に掛かるビキニの紐だけが、それを僅かに隠している。
由弦は手を伸ばし、その肩に触れた。
すると愛理沙はギュッと体を縮こまらせながらも、由弦を見つめる。
「その、どうでしょうか」
「……すべすべしてる」
お湯か汗か、何にせよ濡れた肩はすべすべとしていて、とても触り心地が良かった。
由弦は少し触れてから、両手を上げるようにして手を離した。
「……もう終わりですか?」
「いや、まあ……」
もちろん、触れたいのは山々だが……
「その、理性が持ちそうにないから」
呟くように由弦は言った。
すると愛理沙は冗談だと思ったのか、小さく笑った。
「全く、仕方がないですね……」
何気なく、愛理沙の視線が下がった。
「ッキャ!」
悲鳴を上げ、愛理沙は顔を手で覆った。
「な、何を考えているんですか!」
「な、何をって……君のことを?」
「開き直らないでください!!」
指と指の間から瞳を覗かせながら、愛理沙はそう叫ぶのだった。