軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 ついに浮く婚約者

愛理沙が泳げないのは、浮かび方が下手だからで、つまり水中での姿勢が良くないからだ。

水面と並行に、頭はやや下がり、そして背中が一番上になるような形で浮かび上がるような形が理想的なのだが……

愛理沙の場合は足が沈み込んでしまい、体が斜めになっている。

なので、由弦はまず浮き方の矯正から始めた。

最初はだるま浮き。

次にクラゲ浮きをやらせ……そして最後に手足を伸ばした状態で浮かせる。

「すごい、すごいじゃないか、愛理沙! こんな短い間に、ここまでできるなんて!」

「……ちょっと大げさに褒めてません? まだ浮けただけですよ」

綺麗に浮くことができるようになった。

それだけで大袈裟に褒める由弦に対し、愛理沙は口をへの字にさせた。

揶揄われていると思った様子だ。

「そんなことはない。……泳げる人でも、浮き方が下手な人はいるんだよ。基礎は重要だ。こんなに早く身に着けられるなんて、思ってもいなかったよ」

由弦がそう言うと、愛理沙は表情を緩めた。

「そ、そうですか」

そして嬉しそうにはにかむ。

可愛らしい……由弦は心からそう思った。

とはいえ、愛理沙が可愛いのは真実だが、同時に過剰に褒めたのも真実ではある。

そもそも由弦は愛理沙の出来不出来に関わらず、褒めそやすことを決めていた。

浮くことは重要だが、それ以上に水への恐怖心を薄れさせることが重要であると由弦は考えていたからだ。

……もっとも、愛理沙がしょげている姿を見たくないというのもある。

つまり由弦は愛理沙に甘いのだ。

「……次はどうします?」

「そうだね。……じゃあ、浮いた状態で俺が手を引っ張るから、バタ足をしてみてくれ」

練習は本格的な泳ぎ方……の基礎に入った。

バタ足の練習だ。

「……どうでしたか?」

「そうだね……」

「浮き方」にまず根本的な問題点があった愛理沙だが、「バタ足」にも大きな問題点があった。

膝が大きく曲がっているのだ。

そして水面をバシャバシャと叩いている。

愛理沙の泳ぎが「湖に落ちた虫」に見える原因がこれだった。

それを伝えると、愛理沙は首を傾げる。

「膝を曲げない……って、どんな感じですか」

「座って練習した方がいいかもね」

由弦は愛理沙をプールサイドに座らせ、足を動かしてみるように指示した。

その動きは……少しぎこちない。

「……膝を曲げないって、本当に正しいんですか?」

愛理沙は口をへの字に曲げた。

どうやら彼女はできないことがあると、不機嫌になる癖があるようだ。

由弦にとっては、少し新しい発見である。

「本当に棒みたいに曲げないって意味じゃないよ。少しなら良い」

「少しって、どれくらいですか?」

「……足を持っていいか?」

愛理沙は小さく頷いた。

由弦は愛理沙の正面に立ち、その綺麗な足を手で掴む。

(……やっぱり綺麗だな)

すらっと長い脚に白い肌。

つま先から足の付け根までの、そのフォルムはとても美しい。

(……あと際どい)

ハイカットタイプなので、少し際どい部分まで足が露出していた。

悪いとは思いながらも、由弦も男の子なので、どうしてもそこに目が行ってしまう。

「あの、由弦さん。……何を見ているんですか」

「いや、すまない。見惚れてた」

「……それを言えば許されると思ってませんか?」

ムスっとした顔で愛理沙は言った。

僅かに頬が赤らんでいる。

……それほど怒っているわけではなさそうだった。

「許してくれない?」

「もう……見るだけ、ですからね」

仕方がないなぁという表情の愛理沙。

由弦に見られるのは満更でもない様子だ。

さて、そんなことはさておき。

由弦は少しドキドキしながらも愛理沙の足を手で動かして見せた。

「膝を曲げない、というよりはこうやって小さく、小刻みに動かすんだ。足全体じゃなくて、足の先、甲で水を蹴るイメージだ」

「それだとあまり、進めないんじゃないですか?」

「バタ足は姿勢補助の側面が大きいから、大丈夫だ。それに水を蹴っているのは足先だけだから、あまり大きく動かしても意味がないんだよ」

「へぇ……」

由弦のアドバイスを受けて、今度は一人で足を動かして見せる。

最初の時よりはずっとよくなった。

「次は掴まったまま、やってみようか」

「はい」

今度はプールサイドに掴まった状態でバタ足をさせる。

最初は由弦が愛理沙の足を掴み、補助を行う。

「水中からは出さず、こうやって小さく……」

「ちょっと膝が曲がるのは、良いんですよね?」

「ああ。足先だけで水が蹴れてればいい」

由弦のアドバイス通りに足を動かす愛理沙。

運動神経が良いだけあり、コツを覚えれば上達は早い。

(……ちょっと目のやり場に困るな)

由弦の視界には白い背中と、割と大きな臀部が見えていた。

足の動きと合わせて、お尻が揺れている。

由弦の婚約者様は大変、素晴らしいプロポーションの持ち主なので、普通にしているだけでも十分に色っぽいのだ。

「由弦さん、どうですか?」

「うん、いいと思う。さすが愛理沙、上達が早くて、教え甲斐があるよ」

「えへへ……そうですか」

機嫌良さそうな声を上げる愛理沙。

そんな可愛らしい婚約者から僅かに目を逸らし、由弦は平静を保てるように努めるのだった。