軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 婚約者と新しいクラス

「やあやあ、ゆづるんに愛理沙ちゃん。……ゆづるん、日に焼けた?」

「まあね」

由弦は軽くそう返すと、紙袋からお土産を取り出した。

「はい、どうぞ」

「ありがとう。……ふーん。マカデミアナッツのチョコレートね。安直だね」

「無難と言って欲しいな」

それから由弦はもうすでに登校していた友人たち――千春、宗一郎、聖、天香――にチョコレートの入った箱を配った。

そして最後に愛理沙に箱を渡す。

「はい、愛理沙」

「ありがとうございます」

嬉しそうに愛理沙はチョコレートの箱を受け取った。

……箱に押し付けられて僅かに形が歪んだ胸を見て、由弦は僅かに目を逸らした。

「しかしマカデミアナッツか……被りだな」

そう言いながら宗一郎は立ち上がり、持っていた紙袋から箱を取り出した。

そして由弦と愛理沙に渡す。

「ありがとう。……今年もハワイだったっけ?」

「まあね」

佐竹家は毎年、春にハワイに行くのだ。

……野球チームが一つできるくらいの子供がいるのが彼の家族だ。

それはもう賑やかな旅だろう。

「では雪城さんにも」

「はい、ありがとうございます」

次に宗一郎は愛理沙に箱を渡した。

お礼を言う愛理沙……をじっと見つめる宗一郎。

「どうしましたか?」

きょとん、と首を傾げる愛理沙。

そんな愛理沙に宗一郎は尋ねる。

「今度から愛理沙さんとお呼びしても?」

「いえ、別に構いませんが……」

急にどうしたんですか?

という表情を浮かべる愛理沙。

「いや……雪城さんは高瀬川さんになるそうじゃないか」

宗一郎の言葉を、一瞬愛理沙は理解できていない様子だった。

が、しかし数瞬遅れて顔を真っ赤に染めた。

「そ、それは……」

「将来的に呼び方を改めるのであれば、今のうちにと思ってな。……どうかな?」

「ぜひ! ぜひそれでお願いします!!」

ガクガクと首を縦に振りながら、興奮した様子で愛理沙は言った。

そして小声で「高瀬川愛理沙……高瀬川愛理沙……」と呟いてニヤニヤする。

由弦はそんな愛理沙を何とも言えない微妙な気持ちで見つめる。

……婚約者が残念な子になってしまった。

「えー、こほん。私からもお土産があります」

亜夜香はそう咳払いすると、紙袋から人形のようなものを取り出し、由弦に手渡した。

「……何だこれ」

「マトリョーシカ。ロシアの代表的なお土産。そんなことも知らないの?」

「そうじゃなくてだな。……何のマトリョーシカだよ、これ」

「見ての通り、プーチン大統領だけど」

なるほど、言われてみればマトリョーシカの顔立ちはプーチンに似ていなくもないような容姿をしていた。

そしてマトリョーシカであるからには、中に他の人形が入っているはずだ。

「エリツィン、ゴルバチョフ、ブレジネフ、フルシチョフ、スターリン、レーニン……なるほど」

ただの面白玩具なのか。

それとも外見は変わっても中身は変わっていないというロシアジョークなのか、由弦には少し判断ができなかった。

「愛理沙ちゃんにはカレンダーね」

「……ありがとうございます」

とても微妙な顔をしながら愛理沙は亜夜香からの土産を受け取った。

それもそうだろう。

プーチンカレンダーを貰って素直に大喜びする女子高生は少数派だ。

「どう、愛理沙ちゃん。何か感じる?」

「えっと……何がですか?」

「ロシア魂的な何か。ほら、ルーツにロシアあるじゃん?」

「生憎、日本生まれの日本育ちなもので……」

そんな愛理沙の返答に、何が面白いのか亜夜香は楽しそうに笑った。

そして紙袋から小さな箱を取り出す。

「はい、チョコレートね。……これはジョークは抜きの、普通のだから」

「安直だな」

「無難と言ってね」

海外旅行のお土産と言えば、大抵はチョコレートになる。

腐りにくいし、失敗がないからだ。

さて、そういうわけで春期休暇で海外旅行に行ったのは由弦、亜夜香、宗一郎の三人だった。

千春は国内旅行で温泉に行ったらしく、饅頭を土産として買ってきてくれた。

天香と聖は特に旅行にはいかなかった様子だ。

「ロシアはね……寒かったけど、いくら、美味しかったよ」

土産交換の次は自然と土産話になった。

亜夜香に聖が尋ねる。

「いくら……ってロシアだとどうやって食べるんだ?」

「パンに乗せて食べる感じだね。あ、日本とは違って醤油漬けじゃなくて塩漬けなんだけどね。パンに乗せたいくらと、ウォッカを合わせると美味しくて……」

「……ウォッカ?」

亜夜香の発言に愛理沙が反応した。

「ロシアって……十六歳でもお酒、飲めるんですか?」

「さあ? でも禁止だとしても、律儀に守ってるロシア人いないよ」

いたとしたらそれは西側のスパイだ!

と、ガイドのロシア人が話していたと楽しそうに笑った。

「おい、亜夜香。……あまり大きな声で言うな。ここは忘年会場でも新年会場でもなく、学校だ」

「はいはい」

宗一郎からの忠告を受け、亜夜香は「お口チャック」の仕草をした。

一方の愛理沙は何とも言えない表情を浮かべている。

彼女は真面目なので「飲酒はいけません」と言いたいのだろう。

(……来年、どうしようかな)

高瀬川家では忘年会、新年会では当然のように酒が出る。

由弦も飲んだことがある。

そして……来年は確実に、由弦の婚約者となった愛理沙と、天城直樹は呼ばれるだろう。

愛理沙に怒られるのは嫌だなぁ……

いっそ、愛理沙も飲んでくれないだろうか?

と、そんなことを考えたが、後々の話なので由弦は今は考えないようにした。

「海外旅行すると日本食が恋しくなると聞くけど、どうなの?」

天香がそう尋ねた。

彼女は海外旅行、未経験のようだった。

「あー、それはありますねぇ。私は海外に行くときはカップ麺とかおにぎり持ち込みますよぉ」

千春が天香の問いに答えた。

上西家は海外よりも国内の方が好きなようだが、たまに海外にも旅行に行く。

「私はね……いくら丼食べたくなったから、日本帰ったら築地に寄ったよ」

「……散々、いくら食ったんじゃないのか」

亜夜香に対して宗一郎は呆れ顔を浮かべた。

「やっぱり味が違うし。それにパンもいいけどご飯かなって……ゆづるんは日本帰ってから最初に何食べた?」

「一蘭に行ったな」

帰ってきて早々に彩弓がラーメンが食べたいと主張したのだ。

時刻が遅かったこともあり、すぐに入れたのは一蘭だけだった。

「ニューカレドニア帰りに一蘭を啜る高瀬川家一行……」

「シュールですねぇ」

「うるさい。美味いから良いだろ」

と、くいくいと服を引っ張られた。

引っ張ったのは愛理沙だ。

「どうした?」

「らーめん屋さん、今度連れて行ってください」

そう言えば行ったことがないと言っていたなと、由弦は思い出した。

由弦は愛理沙の頭をぽんぽんと軽く撫でた。

「あぁ、今度、近いうちに一緒に行こう」

すると嬉しそうに愛理沙ははにかんだ。

可愛いなぁー、と内心で由弦は惚気た。