軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第26話 開けてください

「高瀬川君、おはよう」

「うおっ!」

由弦がため息をついた瞬間。

突然、声を掛けられた由弦は思わず体をビクリと震わせた。

「……何もそこまで驚くことはないでしょうに」

「い、いや、すまない……おはよう、凪梨さん」

由弦に声を掛けたのは長身でスレンダーな美少女。

凪梨天香だった。

「はい、これ。いつもお世話になっているから。義理だけれど」

「ああ、どうもありがとう」

どうやら義理チョコを渡しに来てくれたようだった。

由弦はありがたく、天香からチョコレートを受け取る。

「……それ、誰から? 愛理沙さんじゃないわよね?」

天香は机の上に置いたままの、可愛らしい包装が施された箱を見ながら言った。

亜夜香の証言によると、亜夜香たちは一緒にチョコレートを作ったそうなので……それぞれが作ったチョコレートを包む箱や包装は把握しているはずだ。

だから一目で四人以外の誰かの物だと、見抜いたのだろう。

「いや、分からない。机の中に入っててね……差出人は書いてない」

もしかしたら箱や包装の中に入っている可能性はあるが……

少なくとも、外見上は手紙やメッセージの類は一切なかった。

「知らない人からのチョコねー……市販のじゃなかったら、どうする?」

「……ノーコメントだ」

「まあ、そうよね。それが普通だと思うわ。身の安全が一番よ」

由弦の返答で察した天香は、ぽんぽんと慰めるように由弦の肩を叩いた。

「モテる男は大変ね」

「君ほどではないよ。君のチョコを欲している男子は少なくないんじゃないか?」

言うまでもないが天香も非常に美しい女の子なので男子からの人気は高い。

その容姿のレベルは愛理沙や亜夜香、千春と並ぶ(勿論、由弦は愛理沙がダントツだと思っている)。

天香からのチョコレートを欲している男子は少なくないだろう。

……実際、クラスの男子生徒からの視線が少し鋭くなっているような気がした。

「……私、料理上手じゃないし。正直、亜夜香さんたちのと比べるとアレな出来だから、そんなに良い物でもないと思うけどね」

「大事なのはチョコレートそのものじゃなくて、誰から、どういう意図で、貰ったかだと思うけどね」

そういう意味では差出人不明のチョコレートは少し扱いに困る。

由弦は一先ず、差出人不明チョコと天香からのチョコを鞄にしまうことにした。

それから天香に尋ねる。

「聖にはもう、渡したのか?」

「え? ……な、何で聖君の名前が出てくるのよ」

「いや、他意はないよ」

由弦がそう言うと天香はプイっと頬を背けた。

「そ、そう。……そろそろ、授業が始まるから」

「ああ。君も頑張れよ」

「……別に頑張ることなんてないわよ」

そう言って天香はスタスタと逃げるように教室から立ち去るのだった。

さて、それから昼休み。

宗一郎たちと共に弁当を食べ終えた由弦は教室へ戻ってきた。

するとほぼ同時に由弦の携帯が振動した。

誰からだろうと確認すると……愛理沙からのメールだった。

『お弁当、美味しかったですか?』

何となく、由弦は愛理沙のメールの意図を察した。

というのも普段、愛理沙の方から昼休みに弁当の感想を求めてくることはないからだ。

普段は昼食後、落ち着いたタイミングで由弦の方から一言、愛理沙にメールを送っている。

そして翌朝、新しい弁当を受け取るタイミングで改めて直接、口頭でお礼と感想を言うのが普通だ。

故に愛理沙が聞きたいのは弁当の感想ではない。

弁当の感想を尋ねたのは、愛理沙にとってはただの会話の糸口だろう。

『今日も美味しかったよ。特に白身魚は美味しかった』

『あれをお弁当に入れるのは初めてなので、それは良かったです。……ハーブで香りをつけて焼きましたが、生臭くはなかったですか?』

『いや、気にならなかったよ』

普段は『〇〇が美味しかった』『それは良かったです』程度で終わるにも関わらず。

今日はやけに長かった。

露骨に会話を長引かせているのが、はっきりと分かった。

そしてしばらく、やり取りが続いた後……

『あのチョコ、誰からのですか?』

ついに愛理沙が本題に切り込んできた。

それはただの質問に過ぎず、特別な顔文字やスタンプが使用されているわけでもなかったが……

何となく、鬼気迫るような、誤魔化すことを許さないようなオーラが漂っていた。

「……」

由弦は一瞬だけ顔を上げて、愛理沙の席へと視線を向けた。

愛理沙は携帯を両手で握りしめ、無表情で画面を睨んでいた。

……とても怖い。

『分からない。差出人は書いてなかった』

由弦がそう返すと、瞬く間に返信が返ってきた。

『本当ですか?』

本当も何も、嘘をつく理由がない。

何故か、由弦は愛理沙に責められているような気分になった。

何も悪いことはしていないのに。

『本当だよ』

『中は開けましたか?』

『いや、まだ』

『開けてください』

たった七文字なのに。

その文章には有無を言わさない迫力があった。

由弦が少し戸惑っていると、またすぐにメールが届いた。

『開けてください』

まさかの同じ文面だった。

由弦は思わず、愛理沙の方を見た。

すると……彼女と目があった。

無表情だった。

由弦は慌ててメールを打ち返す。

『今から、トイレで開けて来るよ』

それから由弦は飛び上がるかのように席を立つと、小走りで鞄を持ってトイレへと駆け込んだ。