軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3 2人の帰還

“アシュトンが見付かった”という知らせから1ヶ月。事故に遭い行方不明になってから7ヶ月。ようやくアシュトンが家に帰って来る事になった。

ーようやくアシュトンが帰って来るー

アシュトンを出迎える為に、帰宅予定時間の少し前に、玄関に出る。

報告によると、アシュトンが川へ転落してから流されて、2つ隣の領地の外れに流れ着き、そこでその領地に住む男爵に助けられたのだそうだ。発見当時は怪我が酷く、息も辛うじてしていた状態だったそうで、病院に運んだ後、三日三晩生死の間を彷徨い、4日目に意識を取り戻したそうだ。ただ、怪我をしていた以外にも問題があった。

『全身打撲で、特に左足の怪我が酷かったようで、少し後遺症が残ってしまったようです』

歩けないわけではなく、少し足を引き摺る程度で、特に私生活には問題無いとの事。もともとアシュトンは体を激しく動かすような事はしなかったから、本人も気にし過ぎる事も無いそうだ。

『それと……その……旦那様は───』

アンセルからの話を思い出していると、正門の向こう側から見慣れたブレイザー家の馬車がやって来た。

ーアシュトンー

駆け寄りたい気持ちを抑えて、その場で馬車が到着するのを待つ。

その馬車が玄関前で静かに止まり、使用人が駆け寄り馬車の扉を開けた。

そうして、中から出て来たのは──

「アシュトン……」

金色の髪は、最後に見た時よりも少し伸びている。青い瞳は記憶のままだ。ただ、少し痩せた……だろうか?でも、アシュトンで間違いはない。

「旦那様、お戻りをお待ちしておりました」

「あ……あぁ……ありがとう……」

アンセルの出迎えの言葉に、微妙な反応をするアシュトン。その反応に、私は動けなくなってしまった。

『旦那様は、ところどころ記憶を失っているそうです』

『“自身がブレイザー伯爵だ”という事と……“自身が結婚していた事”を忘れてしまっているそうです』

『それと───』

「 ラ(・) ヴ(・) ィ(・) ー(・) 」

「は……はい……」

アシュトンが馬車の中に向かって名前を呼び、手を差し伸べると、その手を取って中から女性が出て来た。ふわふわとした金髪に、碧色の綺麗な瞳をした女性だった。

「体調は大丈夫?今すぐに部屋を用意してもらうから、ラヴィーは先に行って休むといいよ」

アシュトンが、“ラヴィー”に向ける眼差しは優しい。

「でも……挨拶が……」

「挨拶は後でもできるから、今は自分の体を第一に考えて欲しい。私の為にも」

「分かりました……」

そう言うと、使用人の1人がラヴィーを部屋へと案内する為に家の中に入って行き、ここに残ったのは、アシュトンと私とアンセルとコネリーとノエラの5人だけになった。

「えっと……ただいまと言って良いのかな?」

「旦那様、お帰りなさいませ」

戸惑う様子のアシュトンに応えたのは、コネリーだった。

「取り敢えず、家の中に入りましょう。話はそれからでも」

「そう……だね……」

と、アシュトンは私に声をかけるどころか、目を合わせる事もなく家の中へと入って行った。

「奥様、大丈夫……じゃないですよね?」

「ノエラ……まだ……大丈夫よ」

と、私はまた手をギュッと握りしめて歩き出した。

******

「こちらのお方がブレイザー夫人で、アシュトン様の妻のマリレーヌ様です」

「そ……そうなのか………その……すまない。本当に、自分が伯爵で結婚していたとは……」

「……」

記憶喪失が嘘だったら──と思っていたけど、本当のようだ。ようやく私に向けられた視線には、困った感情しかなく、優しさも温かさも……愛情も浮かんでいなかった。

発見された時、着ていた服もボロボロで、指輪やカフスなどの装飾品も身に着けていなかったそうで、身分を証明できるような物が何も無かったそうだ。

領地に向かう時に結婚指輪をしていたけど、川で流されている間に抜けてしまったのだろう。その指輪があれば、家紋が彫ってあったから、すぐに身分が判明したのに。

「本当に、 こ(・) ん(・) な(・) 事(・) になってしまって……申し訳無い」

「……」

ー“こんな事”とは、 ど(・) の(・) 事(・) を指しているのか?ー

事故に遭って行方不明になっていた事?

記憶を失ってしまった事?

それとも──

「ラヴィーは、私との子供を身篭っているんだ」

彼女は綺麗な容姿だけではなく、お腹がふっくらとしていた。誰が見ても妊婦だと分かった。

「本当に……申し訳無い!!」

「……」

アシュトンが頭を下げて謝っている。胸が苦しくて……痛くて……それでも涙は出ないし声も出せずに、ただただアシュトンを見ている事しかできずに居ると、部屋の外が騒がしくなり、何事か?と部屋の扉の方へと視線を向けると、そのタイミングで勢いよく扉が開かれて、義母が泣きながら部屋へと入って来た。