軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家畜の調査

朝、目覚めるとエルツ様は麗しく微笑みかけてくれる。

「おはよう、ビー」

「おはようございます」

エルツ様は私の目元にかかった髪を、優しくかき上げてくれた。

「今日はよい朝だ」

「はい」

エルツ様の体温が心地よく。再度寝入ってしまいそうになる。

とろん、と落ちかけていた意識の中、もう一人の私が目を覚ませと強く訴えていた。

エルツ様の体温?

そんな疑問が脳裏に浮かんだ瞬間、ここで私の意識は一気に現実へと引き戻される。

「――!?」

いつの間にか私はエルツ様に抱かれるような体勢で眠っていたようだ。

慌てて起き上がると、エルツ様は不思議そうな表情で私を見つめる。

どうやら私がエルツ様にいる方向へ転がっていったようだ。

「その、申し訳ありません。朝から失礼を働いていたようで」

「気にするな。ビーの愛らしい寝顔を堪能できたからな」

朝方のむくんだ状態の寝顔なんて愛らしいわけがない。がっくりと肩を落としてしまった。

その後、顔を洗いドレスをまとって髪を整える。若々しい新妻に見えるよう、クロームイエローの明るいドレスを着てみた。

エルツ様にお披露目すると「タンポポの女神のようだ」というありがたいお言葉をいただいた。

宿は朝食付きで、焼きたてのパンと野菜たっぷりスープ、厚切りベーコンとゆで卵をいただいた。どれもおいしく、お腹いっぱいになった。

それから一時間もしないうちにお爺さんがやってきて、家畜の飼育場まで案内してくれるという。

昨日と同じ牧草を積んだ荷車に乗り込み、飼育場を目指す。

荷車に乗ること三十分ほどで到着した。

「ここがそうだよ」

「え、ここ、ですか?」

「ああ」

そこには囲いなどない、ただの草原だった。

なんでもこの国で畜産といえば、放し飼いがメインらしい。

飼育されている牛は自由に歩き回り、自生する草花を 食(は) んでいた。

「羊などはこのように放牧する話を聞いたことがあるが、牛は初めてだな」

「ええ」

「牛は牧羊犬などを使役して集めるのか?」

「いいや、魔法で管理しているんだよ」

杖をついて歩いているのかと思えば、手にした杖は魔法を使うためのものだったようだ。

お爺さんが杖を掲げて呪文を唱えると、牛がいっせいに集まってくる。

「わ、すごい!」

「迫力があるな」

牛が集まる間にお爺さんは荷車から牧草を運んで辺りに散らしている。

「自然の草花だけだとあっという間にこの辺りの植物を食い荒らされてしまうから、こんなふうに牧草も与えるのさ」

「な、なるほど……」

近くに湖があり、喉が渇いたら牛たちは自分で飲みに行くようだ。

案内してもらったが、とても美しい湖だった。

お爺さんが言うように、牛がやってきて水を飲んでいる。

エルツ様はしゃがみ込み、その辺に自生している草花を数種類摘んで、魔法で造った球体の中へ入れる。

どうやら植物の分析をしているらしい。

他、空気や牛用の湖の水なども確認したものの、病気に関係ある物質は検出されなかったようだ。

「水――そうだ。あの日王都で降った雨は調べていなかったな」

「言われてみればそうですね」

トリスが雨に濡れたので風邪を引いてしまったのではないか、と話していた。

もしかしたらあの日に降った雨水に問題があるのかもしれない。

「王都に雨水が残っていますでしょうか?」

「モモに探させよう」

エルツ様はモモと連絡を取り、王都で雨水を探すよう命じていた。

「あと、怪しいものは――」

「雷による感電、は関係ないですよね」

「雷か……。それも視野に入れておこう」

感電であれば別の被害が出ている可能性があるが、怪しいものがあればなんでも調べたほうがいい。

他、飼育されている牛に不審な点はないように思える。

「あるとしたら、使役魔法の悪影響か」

「それに関しては、お肉を調べたらわかりそうですね」

「ああ。可能であれば、持ち帰らせて調べよう」

エルツ様の研究室には精密検査を可能とする装置があるらしい。ここで調べるよりも正しい情報を得ることができるようだ。

私とエルツ様の会話が途切れたタイミングで、そろそろ村へ帰ろうか、とお爺さんが声をかけてくれる。

荷車に乗りながら会話をする中で、引っかかることを聞いてしまった。

「いやはや、ここ三年くらいはこの辺りも酷い風邪が流行っていたんだが、それも収まってねえ」

「風邪、ですか?」

「ああ、そうだよ。酷い咳に熱、腹痛と一度かかったらなかなか治りにくくてねえ、魔法薬も効かないものだから、ひたすら休むしかなかったんだよ」

現在、王都で多くの人達が苦しんでいる病気が、三年前まではここで流行っていたと?

「あの、それって原因とかわかりますか?」

「いいや、それがわかんないんだよ」

ただそれも大々的にかからなくなっただけで、発症する人は今でもいるという。

「わしもつい先日まで咳が酷くてねえ。でも、息子や孫がかからないようになったから、万々歳というわけさ」

「そう、だったのですね」

完全になくなったわけではないらしい。

ますますわからないと思ってしまった。