軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結婚

結婚? 結婚! 結婚!?

三度は確認したように思える。そのたびにエルツ様は美しい微笑みを浮かべながら頷いていた。

「エルツ様、私達が結婚して隣国に潜入しなければならない理由はあるのですか?」

「ある。国の間諜に頼むとなれば、枢密院の審査と国王の承認を取らなければならないため、早くても三日はかかるだろう。ただ私とビーが結婚して夫婦となるのであれば、当日に隣国へ行ける」

「そ、それはそうですが……」

昔の貴族は結婚するのも離婚をするのも国王陛下の許可がいった。

その影響で貴族の人口が減ったために、決まりが撤廃されたのだ。

今は貴族であっても自由に結婚ができる。

「何、帰ってきたらすぐに離婚承諾書を出せばいいだろう」

「私は別に問題ないのですが、エルツ様の経歴に傷が付くように思えます」

「ビーとの結婚がなぜ傷になる? ビーも一度離婚をしておるから、お揃いになるだろうが」

エルツ様は離婚歴あり、という状況になっても問題ないらしい。

「ビーは私と結婚するのは、嫌なのか?」

「嫌なわけありません。とても光栄です。ですが――」

他に上手く隣国へ潜入し調査に行ける人がいるのではないか、と思ってしまうのだ。

「もしも潜入が露見するとなれば、隣国の法で裁かれるだろう。そういう状況となれば、いくら私でも助けられないかもしれない。誰かに危険を犯させるよりも、私達が偽装夫婦となって潜入したほうが安全かつ確実だ」

「偽装夫婦……そう、ですね」

もしかしたら病気の謎を解明するヒントが隣国にあるかもしれないのだ。ここは腹をくくろう。

「わかりました。一度結婚をし、新婚旅行を装って隣国へ調査に行ってきましょう」

「では、結婚についての手続きは早いほうがいいな」

そう言ってエルツ様は懐から婚姻届を取り出す。

「あの、どうして婚姻届を持っていらっしゃるのですか?」

「いつでもビーから結婚の申し込みがあってもいいように、だ」

どうやらエルツ様は私の求婚待ちだったらしい。

「私がエルツ様に結婚を申し込むと思っていたのですか?」

「人生は何が起こるかわからないだろう? 昨日の私はビーと今日、結婚できるなんて想像していなかった」

「たしかにそうですが」

すでにエルツ様の欄は記入が済んでいて、私が個人情報を書き込むばかりだった。

本当に結婚までする必要があるのか。他にいい入国理由があるのではないかとも思うが、何もアイデアなどないので、結婚するしかないのだろう。

エルツ様にここまでさせるなんて、心の奥底から申し訳なく思う。

けれども病気の原因を追及するためには、婚姻関係になるしかないのだ。

なんとか書き終えると、エルツ様が婚姻届を提出してくれるという。

「ビーは旅の荷造りをしておいてくれ。なるべく新妻らしい格好でいるのだぞ」

「わかりました」

どういった装いが新妻らしいのかわからないが、アライグマ妖精の姉妹やモモの意見を聞きつつ荷造りをしなければ。

出発は三時間後である。それまでに準備をしよう。

隣国への滞在は一泊二日。なるべく早急に調査するという。

エルツ様の魔法医としての仕事もあるため、これ以上長くいられないようだ。

私は皆の協力を得て、新妻らしいドレスをトランクに詰め込む。

隣国へ着ていくドレスも、普段選ばないようなコーラルピンクのかわいらしい一着が選ばれた。

フリルやリボンがふんだんにあしらわれており、私にはかわいすぎるのではないか、とも思ってしまう。

「あの、これ、本当に似合っていますか!?」

『もちろん!』

『かわいいよ!』

『どんぴしゃだね!』

モモも似合っているとばかりに深々と頷いていた。今日は彼女達を信用するしかない。

普段よりも明るい化粧を施し、いつもは下ろしている髪も結い上げて帽子を被る。

そうこうしているうちに、エルツ様がやってきた。

「ビー、待たせたな」

「いいえ。私も今、支度が終わったところです」

私の装いを見たエルツ様は、「まるで春の妖精のようだ」と大絶賛してくれた。

「無事、婚姻届は受理された。私とビーは真なる夫婦となったわけだ」

その言葉を聞いたムクとモコ、モフにモモはパチパチと拍手する。

誤解を解かなければとすぐに説明した。

「隣国へ潜入するための、偽装夫婦です! 帰国したら離婚します」

「だそうだ」

エルツ様は肩を竦め、残念そうな様子で言う。

「結婚の話はいいので、早く行きましょう」

「そうだな」

国境まではエルツ様が使役している 水晶竜(クリスタル・ドラゴン) のクワルツに乗って移動する。馬車で行けば複数の山や渓流を越えるために一ヶ月以上かかる道のりも、竜だと三時間ほどで到着する。

すっかり夜になり暗い中、国境にある入国検査局にお邪魔する。

身分と夫婦関係であることを証明する書類を見せると、職員の男性は険しい表情で確認していった。

「公爵と大公のご夫婦ですか」

「ああ、そうだ。珍しいだろう」

「は、はあ」

エルツ様はにっこり微笑みつつ、私の腰に腕を回す。

ここで私がドギマギしたら怪しまれるため、動揺を押し隠し、幸せそうな雰囲気を醸し出しておく。

通過できるか心配だったが――。

「どうぞお通りください。楽しい旅を」

「ありがとう」

あっさり入国が許可された。