軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

デートのお誘い

謝肉祭のシーズンは狩りの禁猟期に入ることもあり、大勢の人々が王都へ押しかける。

この頃は風邪を引いた患者の他に、お酒を飲み過ぎて二日酔いの者や、お客様をもてなした疲れが原因で倒れた者など、たくさんの患者が魔法薬を求めていた。

魔法薬師にとっては忙しいシーズンとも言えるだろう。

暇があれば王宮に行ってエルツ様の補佐をするつもりだったが、魔法薬の販売に専念してほしいと言ってくれたのだ。

さらにエルツ様は自ら使役する医獣、ネズミ妖精のモモを 隠者の隠れ家(エルミタージュ) に派遣し、私の手伝いをしてくれるよう命じてくれたのだ。

そんなわけで、モモに加え、ムクとモコ、モフが魔法薬やお菓子作りを手伝い、庭ではリス妖精が薬草をせっせと摘んでくれる。

彼らが一生懸命頑張る様子は、史上最高に愛らしいとしか言いようがない。

と、彼らの働く姿を見て疲れを癒やしつつ、私は謝肉祭で販売する商品作りを行っていた。

準備についてはみんなのおかげで問題ないものの、心配なのは接客である。

イーゼンブルク公爵家で魔法薬師をしている時代は、魔法医の先生から届いた処方箋を読んで魔法薬を調合するばかりだった。

患者さんへ魔法薬を届けたり説明したりするのは、別の者の仕事だったのである。

接客するのは初めてなので、上手くいくものか。

そんな悩みを抱えていたところ、鏡魔法で連絡してくれたエルツ様に見抜かれてしまう。

素直に白状したら、思いがけない提案を受けた。

『ならば、街の商店へ行って、店員から接客術を学べばいいのではないのか?』

エルツ様の話を聞いて、それだ! と思う。

「では明日、早速行ってみます」

『私も同行しよう』

「よろしいのですか?」

『ああ、明日は休日ゆえ、問題ない』

ここ十日間ほど休んでいなかったため、クルツさんから休むように言われていたらしい。

『クルツはビーをデートにでも誘えばいいのでは、と言っていたのだが、忙しいビーを誘うなんてできないな、と思っていたのだ。街に行くならば、ちょうどよかった』

どうやらエルツ様は私と会いたいと考えてくれていたらしい。

「ありがとうございます。その、私もエルツ様に会いたかったです」

『そうか』

鏡の向こう側にいるエルツ様がやわらかく微笑んでくれる。

やはり、不意打ちの笑顔は破壊力が高い。改めて思ったのだった。

「街歩きをするのならば、エルツ様は頭巾のある外套などを着ていらしたほうがいいかもしれません」

謝肉祭が近づくと王都は人が増えるので、エルツ様は注目の的になってしまうだろう。

『そうだな。不躾な視線はあまり得意でないゆえ、エルフの耳は隠しておいたほうがいいだろう』

エルフの耳もそうなのだが、一番の注目の的となるのはエルツ様の美貌である。

そのことに本人は気づいていないらしい。

外套の件は聞き入れてもらえたので、あえて説明する必要はないだろう。

『では明日、竜で迎えにいこうか?』

「いえ、以前いただいた転移の魔法巻物がございますので、それでエルツ様の研究室にまいります」

『そうか。では明日、私の研究所で待っている』

「はい!」

まさかエルツ様とデートできるなんて、夢にも思っていなかった。

浮かれかけていたものの、いやいや、デートではなく接客について学ぶ時間だ、と自分自身に言い聞かせる。

『では、ビー、おやすみ』

「はい、おやすみなさい」

通信魔法が切れると、はーーーー、と深く長い息を吐く。

いつまでたっても、エルツ様との通信魔法に慣れない。実際に会っているときもドキドキするが、夜のエルツ様はなんというか、こう、色気が漂っているような気もするのだ。

鎖骨辺りが露出しているシャツをまとった姿だからだろうか。普段は詰め襟の服を着ているので、肌は絶対に見えない。

あとは勤務中は常にキリリとしているが、夜は甘い顔を見せてくれる。

それらが色気の原因に違いない。

可能であれば昼間にお話ししたいものだが、忙しいので難しいのだろう。

火照っている顔を手で仰いで顔を冷やす。

明日はデートなので早く眠ったほうがいいのに、色気に当てられて眠れるものなのか。

エルツ様との通信魔法を切って数分経っているのに、いまだにドキドキしているくらいだ。

デーツ入りの黒糖ミルクを飲んで心を落ち着かせることにした。

◇◇◇

翌日、思いのほかよく眠れた私は、何を着ていこうか悩む。

ドレス選びはアライグマ妖精の姉妹だけでなく、モモも参加してくれた。

『ベアトリス様の髪色には、新緑色が映えるでちゅう』

『私もそう思う!』

『天才!』

『これにしよう!』

小さな妖精族が円になって話し合う様子は、悶えるくらいかわいらしい。

ずっとその様子を眺めていたい――なんてことを考えている場合ではなく、身なりを整えなくては。

モモは器用な手先でドレスを着る手伝いをしてくれた。リボン結びも上手だ。

ムクとモコ、モフは髪を編んでくれる。

その間に化粧を施し、あっという間に身支度は完了となった。

昨日焼いた薬草キャンディを瓶に詰め、エルツ様へのお土産にする。忘れないように渡さなければならないだろう。

モモは小さなハンカチを振って、優雅な様子で私を見送ってくれた。

『ベアトリス様、いってらっしゃいませでちゅう』

それにアライグマ妖精の姉妹も続く。

『気をつけてー』

『楽しんできてね』

『いってらっしゃい』

「ええ、いってまいります」

転移の魔法札を破ると、すぐに魔法が展開される。あっという間にエルツ様の研究室へ移動した。

そこには腕組みしたエルツ様と、半泣き状態で処方箋を書くクルツ様の姿があった。

「わあ、ベアトリスさん、久しぶり」

「お久しぶりです、クルツさん」

なぜ、涙を流しているのかと尋ねると、処方箋に誤字があって書き直しを命じられていたからだという。

「ここ最近モモがいないから、仕事が増えてしまって!」

「モモのせいにするでない。自分自身のミスだろうが」

「そ、そうでした」

クルツさんは相変わらずで、お元気そうで何よりである。

「その、モモさんについては、エルツ様のもとに帰ってもいいと言っているのですが」

「ああ。モモが帰りたくない、と言っていたようだな」

「ええ、そうなんです」

隠者の隠れ家(エルミタージュ) での暮らしが快適な上に、アライグマ妖精の姉妹とも意気投合して、楽しく暮らしているらしい。

最近は私の侍女のようなことをしてくれるのだ。

「迷惑でなければ、モモの好きなようにさせてくれると嬉しい」

「迷惑だなんて! とってもよく働いてくれています」

「そうか。それならばよかった」

もともとモモは貴人に仕えていたネズミ妖精だったらしい。化粧や髪結い、身なりを整える手伝いなどに慣れているのも納得の理由である。

「では、モモのことをこれからも頼む」

「はい、お任せください」

エルツ様が手を差し伸べてくれたので、指先に重ねる。

クルツさんからの「楽しんできてくださいねえ~~」という悲痛な叫びにも似た声に送り出されながら、エルツ様の魔法で街へと転移したのだった。