軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルミタージュへの客人

借金取りの男達は庭に侵入し、こん棒を振り回しながら歩き回っている。

その様子を見たセイブルが私に問いかけた。

『おい、ベアトリス。あんな奴ら、俺の結界を復活させたらいつでも追い出せるが?』

「必要ありません」

屋敷の中はオイゲンとヒーディが荒らして回っているので、何も残っていない。

きちんと確認していないものの、価値のある品などは何もないだろう。

借金取りの男達は血眼な様子で、お金になりそうなものを探し回っていた。

「何か金目の物でもあればなあ」

「あ、あれはどうだ?」

庭にある高価な物といえば、温室で育てている薬草や薬樹である。

ただそれらは知識がないとわからない。彼らにはきっと、ただの野草や樹にしか見えないだろう。

そんな中で借金取りが指差した金目の物は、見覚えのない 記念像(モニュメント) だった。

「なんだこりゃ」

「趣味が悪いな」

それは私も見覚えがない、オイゲンとヒーディが寄り添う金の像であった。

「馬鹿みたいに金ぴかだな」

「でもこれ、純金だろう? そうとうな宝だぜ」

借金取りの男達はオイゲンとヒーディの金の像を借金の 形(かた) にするようで、台座から外そうとしていた。

『ベアトリス、好きにさせていいのか?』

「ええ。あれは純金ではないでしょうから」

純金であれば、もっと重厚な見た目をしているだろう。あれだけ悪趣味にピカピカしている金なんて、これまで見た覚えがない。きっと偽物の金だろう。

「おそらく金の塗料を塗って仕上げただけの品かと」

オイゲンとヒーディの像はあっさり台座から外れ、二人がかりで運んでいた。

あの規模の純金の像であれば、二人で動かせないだろう。

「もしかしたら、銅像ですらない可能性があります」

そんな指摘をした瞬間、借金取りの男達が像をうっかり落とした。

オイゲンとヒーディの間がぱっくり割れ、中が空洞なことが明らかとなる。

「なっ、なんだ、これは!?」

「純金じゃないじゃないか!」

「中身は粘土だぞ!?」

もしも純金製であれば、オイゲンかヒーディが真っ先に持ち出しているはずである。庭に残していたのは、それだけ価値がない物だからだ。

怒った借金取りの男達は、オイゲンとヒーディの像を足で蹴って破壊する。

その様子を見たセイブルは、高々とした様子で笑った。

『ははは! こいつは傑作だ! ベアトリスがこいつらを追いださなかったおかげで、面白いものが見られた!』

これを見せてくれるために追いださなかったのか? と聞かれるも、さすがの私もこの展開は予想していない。

「偶然ですよ」

『だとしたら、とんでもなく運がいいな。胸がスカッとしたぜ』

なんて話をしていると、目の前に魔法陣が浮かび上がる。そこにはエルツ・フォン・ヴィンダールストの侵入を許可しますか、という文字が浮かんできた。

許可すると、エルツ様が庭に下り立ったようだ。

玄関の前に転移してきたようだが、綿埃妖精がここまで案内してくれた。

綿埃妖精は庭をぽんぽん跳ねてエルツ様を誘導する。

『こっちだよ~ん』

エルツ様は私を見つけるなり綿埃妖精を追い越して、スタスタと急ぎ足でやってきた。

「ビー、そんなところにしゃがみ込んで、何をしている?」

「え、いえ、イーゼンブルク公爵家のお屋敷にお客様がいらっしゃっているようで、セイブルが池に映してくれまして」

「客だと?」

エルツ様は眉間に皺を寄せながら池を覗き込む。

あの荒れ果てた屋敷を訪問してくる者など、ろくでもない奴だと思っているのかもしれない。

「なっ――!? この者達、借金取りではないか! まったく、勝手に侵入してからに!」

オイゲンが残した借金について、エルツ様も把握していた。オイゲン本人に返させるように動いたようだが、変なところでずる賢いオイゲンは、借用書に〝イーゼンブルク公爵〟としか書いていなかったのである。そのため、その借金を返済する義務は、現在のイーゼンブルク公爵である私に回ってきたというわけだ。

「このような者共など、私が直々に追い払ってもいいのだが」

「それには及びません」

「このまま好き勝手させておくというのか?」

エルツ様の言葉に、首を振って応える。

「実は、このような調査をしておりまして」

綿埃妖精に預けていた調査書を取り出し、エルツ様へと差しだす。

「これは――!?」

羊皮紙に記録してあったのは、オイゲンがお金を借りた裏社会で暗躍する金貸しが、人身売買をしているという情報であった。

「よくこのような情報を握っていたな」

「銀行商の担当から噂話を聞きまして」

「そうだったのか」

オイゲンの借金を返すなんてばからしい。何か対策を打てないのかと考えている私に、銀行員のリリー・ベルが耳よりな情報を提供してくれたのだ。

「リス妖精達に頼んで情報収集しまして、このあとは騎士隊に相談するばかりとなっております」

あとは何もせずとも、組織は国に潰されてしまうだろう。借金を返済する義務も消失するはずだ。

「オイゲンが銀行商からまっとうにお金を借りていたら、彼の借金をきちんと返済しなければならなかったのですが」

「奴の不誠実な性格が幸いした、というわけだな」

「ええ」

そんなわけなので、借金の問題についてはそのうち解決するだろう。

「それよりも問題は、お屋敷の修繕のほうですね」

ひとまず騒動が一段落したら、改めて様子を見に行かなければならないだろう。

「屋敷に行くときは、私に言ってくれ。一緒に行こう」

「いいのですか?」

「ああ。奴らが荒らした屋敷なんて、一人で行かせるものか」

屋敷は若干お化け屋敷のようになっているので、若干行くのが恐ろしいと考えていたのだ。エルツ様が一緒ならば安心だろう。

今日はお言葉に甘えることにした。