軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解毒薬を作ろう!

医獣や薬獣用の厩舎にいたグリちゃんと共に、エルツ様からいただいた転移の魔法巻物を使って帰宅する。

辺りは真っ暗で、庭は静寂に包まれている。リス妖精達はすでに眠っているのだろう。

グリちゃんを労い、別れたあと、家に戻る。

「ただいま帰りました」

すると、アライグマ妖精の姉妹が出迎えてくれた。

『おかえりなさい』

『食事にする?』

『それともお風呂?』

ここにやってきて一ヶ月の間に、アライグマ妖精の姉妹は私の料理の手伝いをするうちに、調理を習得してくれたのだ。ありがたい話である。

「お腹が空いたから、食事にしたいのです」

オルコット卿の解毒薬を早く作りたいという気持ちはあるものの、空腹時は集中力が継続しない。しっかり食べて、力をつけた状態で挑まなければ成功に繋がらないのだ。

食事にしたいと望むと、アライグマ妖精の姉妹はこくりと頷く。

『わかった』

『待ってて』

『おいしいの、作ったから』

いったいどんな料理が出てくるのだろうか。

食事の前に手を洗い、うがいをしておく。食卓で待っていると、料理が運ばれてきた。

アライグマ妖精の姉妹は頭に三角巾を被り、私が作ってあげたエプロンと手袋を装着した愛らしい姿で登場する。

『今晩のメニューは~~』

『ポテトパイと~~』

『ピジョン・スープだよ~~』

今日もセイブルが山鳩を獲ってきてくれたようで、リス妖精が解体したものを調理したようだ。

ムクがポテトパイを切り分けてくれる。

中にはマッシュしたポテトにベーコン、チーズにキノコが入っているようだ。

そんなポテトパイの上にモコが添えてくれたのは、パセリとレモンを利かせた特製バターだ。

モフは鍋からピジョン・スープをたっぷり装ってくれた。

『さあどうぞ』

『たくさん召し上がれ』

『おかわりはたくさんあるから!』

食前の祈りをしたのちに、アライグマ妖精の姉妹に感謝してからいただく。

まずはポテトパイから。

ナイフで切り分けると、チーズがどこまでも伸びる。

パイ生地はサクサクで、マッシュされたポテトはクリームのようになめらか。ベーコンやチーズのしょっぱさがたまらない。これでも十分おいしいのだが、パセリとレモンが入ったバターを載せて食べると、濃厚なのに後味はさっぱり。最高の一皿である。

ピジョン・スープは丁寧に骨が取り除かれていて、一口飲んだだけで元気になりそうな味わいである。ちなみに出汁を取ったあとの骨や皮などは綿埃妖精が食べてくれたらしい。

本当においしいスープで、食べていると体がポカポカ暖かくなった。

なんといっても薬草の風味がすばらしい。庭で採れた新鮮なものを使ってくれたのだろう。

「ムク、モコ、モフ、どれもすばらしい料理でした。とてもおいしかったです」

褒め称えると、アライグマ妖精の姉妹は少し照れたような、愛らしい反応を見せてくれたのだった。

その後、そのまま地下の製薬室に向かった。

アライグマ妖精の姉妹は昼間、ずっと眠っていたようで、すぐにでも調合を手伝ってくれるらしい。

夜中の鍋の番もしてくれるようで、大変ありがたい。

今回、素材自体が毒を含んでいるものも多いので、取り扱いに注意するよう伝えておいた。

私は目を保護する眼鏡と手袋、口元には布を当てて後頭部でしっかり結んでおく。

ムクとモコ、モフにも薬獣用の品を与え、その場で装着させた。

準備が整ったので、さっそく調合に取りかかる。

「ムクは猛毒薔薇の種を乳鉢ですり潰して、モコはシアン青銀を鍋で炒めて、モフは水晶灰に精製水を加えて練ってくれますか?」

『了解!』

『承知!』

『わかった~』

私は獰猛ヘビに噛まれた砂ネズミの血から、血清を取り出す作業に取りかかった。

まず、魔法で血を凝固させたのちに、魔宝石で作動する遠心分離機にかける。

すると、血は黄色みを帯びた血清と真っ赤な血餅に分かれた。

これが解毒薬を作る鍵となる。

砂ネズミは獰猛ヘビに噛まれた瞬間、素早く抗体を作って毒の影響をなかったものにする。その抗体は獰猛ヘビの毒だけでなく、おおよそ百種類ほどの毒を無効化にするのだ。

そのため、獰猛ヘビに噛まれた砂ネズミの血は、多くの解毒薬作りに活用されている。

ただそのままだと、解毒薬として人間の体に作用しない。

抗体を人間に適応させるために、さまざまな素材を必要とするのだ。

水晶灰以外の材料を調合用の鍋に入れ、火にかける。このまま三時間ほど煮込んで、朝まで放置し、熱を取らないといけない。

『鍋は任せて』

『ベアトリスは眠っていていいから』

『お風呂も用意しているよ』

「ありがとうございます」

お言葉に甘えて、鍋で煮込む工程はアライグマ妖精の姉妹に任せることにした。

モフが沸かしてくれたお風呂にゆっくり浸かる。

浴槽には薬草の束がぷかぷか浮かんでいた。

血の流れをよくするレモングラスに、体を冷えから守るショウガ、抗菌効果のあるゼラニウムなどが入っているようだ。

心地よい香りに癒やされる。ゆっくり浸かって一日の疲れを落とした。

眠る前に製薬室にいるアライグマ妖精の姉妹に声をかける。

「それではみなさん、あとのこと、頼みますね」

『もちろん!』

『任せて!』

『頑張る~』

二階の寝室に行くと、綿埃妖精が寝台の傍でぴいぴい寝息を立てながら眠っていた。

持ち上げると、埃が付着していたので、手で払ってあげる。

綿埃妖精は起きる気配もなく、ぐっすり寝入っているようだ。

そんな綿埃妖精を、枕元に置いてある小さなかごに入れて、私も横たわる。

久しぶりに朝から夜まで働いて、疲れたのだろう。一日を振り返ることもなく、眠ってしまったようだ。

◇◇◇

日が昇る前に目を覚ます。

ショウガ湯に蜂蜜を垂らしたものと、昨日の残りのポテトパイを食べ、身なりを整える。

アライグマ妖精の姉妹は製薬室に置いてある休憩用の椅子に、三匹身を寄せながら眠っていた。

彼女らを起こさないよう、静かに解毒薬の仕上げを行う。

鍋で煮込まれていた素材を 漉(こ) し、水晶灰に混ぜる。

ムラなく丁寧に練ったら、製丸器に入れて形を整える。

型から出すと、小さな粒が二十粒ほどできた。

最後に仕上げの魔法をかける。

「―― 調合せよ(フォーミュレイト) !」

眩い魔法陣が浮かび上がったかと思えば、パチンと音を立てて弾ける。

丸薬はキラキラ輝いていた。

ハイクラスの解毒薬の調薬は無事、成功したようだ。

すべて瓶に詰め、しっかり栓をしておく。一応、百種類ほどの毒に対応しているので、命を狙われている可能性があるオルコット卿に渡しておこう。